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月花舎・ハリ書房オープンに寄せてー小説「手探りの夢のかけら」

『月花舎・ハリ書房』
東京千代田区神保町、靖国通り沿いのビルの看板の一角にその文字が輝いて見えている…。2024年4月にオープン予定の月花舎・ハリ書房の内覧会に足を運んだ。
広々とした店内、粋な内装やアンティークな家具など、随所に四谷茶会記の面影も感じさせてくれる。
素晴らしい空間を今回も作ってくれているマスター福地さんはいつものように穏やかに出迎えてくれた。

『月花舎』…この言葉を初めて福地さんの口から聞いたのは、今から40年近く前になるだろうか…私も福地さんも高校生の頃の話しになる。当時いつも一緒に、いい雰囲気、感動するものについて探し求めていた。そして芸術や将来の夢について話していたものだった。
その頃、福地さんが考えた彼自身のアーティスト名が『夜明月花』。
そして、彼の将来の構想の中にさまざまな分野の芸術家たちが集うグループというものがあった。その名前が『月花舎』だったのである。
その『月花舎』が時を経て、こうして現実の物として実現しようとしていることはとても感慨深く感じる。

ふと、こんな妄想小説が頭に浮かんだ…。


「手探りの夢のかけら」

何年ぶりになるだろう、久々に地元函館に帰郷するのは…。姪っ子の結婚式のために何年かぶりで函館の地を訪れた。
北海道新幹線で新函館北斗から乗り換え五稜郭駅に降り立つ。五稜郭駅は昔と変わらず、こぢんまりとした小さな駅だ。しかし一歩駅の外へ出ると、大きな家電店、立体駐車場など昔とは様変わりした光景が目に入り、ここも随分と変わったなぁと感じる。

ああ、あの辺りだな…自分が高校生の時は駅前のその辺りにハンバーガーショップのロッテリアがあった。今はその影もなくそこは大きな立体駐車場が場所を占めている。

高校1年の時クラスメイトで、それ以来親友になった福地さんとは当時いつもそのロッテリアでハンバーガーを食べながら芸術談義をしていたっけ…。
『月花舎』の話しを福地さんから聞いたのもそのロッテリアでのことだったなぁ…。

そんなことを思いながら歩き始める。するとにわかに雪が舞い始めた。
雪はあっという間に勢いを増して激しく降り積もり、いつの間にか猛吹雪になった。

ホワイトアウト…視界が真っ白になってほんの少し先さえも見えなくなる…まさか、3月の函館でこんな現象に出会うとは…。これじゃあ一歩も進めないぞ。そう思った瞬間一気に雪の勢いがおさまってきた。
小降りになった雪の隙間から、駅前の景色が浮かび上がってくる。
ふぅ、助かった…そう思い歩き始めようしたのだが、いや、待てよ。
あの大きな家電店がない。駅は五稜郭駅だ。あ、あそこにあるのは昔あった釣具店じゃないか!
まさか…あそこには…それはそこにあった!
あのロッテリアだ!

ここは、あの高校時代の頃の五稜郭駅前の風景そのままだ。
懐かしさと高揚した気持ちでロッテリアへ近づいていく…。
ガラス越しに店内を見ると、はたして彼らはそこにいた…!
高校生の福地さんと私だ!
いつものように照り焼きバーガーを食べながらおそらく芸術談義をしているのだろう。
私は我を忘れて、彼らにどうしても月花舎のオープンの話しをしたくなり店内に入って行った。

彼らのテーブルの前まで来ると、高校生の福地さんと私は驚いた顔でこちらを見ている。
私はおもむろに話しかけた。
「 き、君たち、びっくりしないで聞いて欲しい。2024年4月、東京神保町で月花舎・ハリ書房というお店がオープンする。福地君、君がもちろんそのオーナーだ。君の思い描いたような様々な芸術家が集うお店になるよ。」
二人はしばらくキョトンとしていたが…何かを察したように高校生の私が声を出した。
「 月花舎⁉︎ 福地さん!福地さんの言ってたやつじゃないか!凄い!本当に実現するんだね!」
高校生の福地さん「……ほら、ね!」
高校生の私「でも、2024年ってだいぶ先だね。何年後だろう…?」
「もちろん、それを実現するまでにはいろんな紆余曲折があって簡単にはいかないんだよ。それは…。」そう私は言いかけて言葉を飲み込んだ。
あまり余計な事を言って未来の自分たちに影響を与えてはいけない。
「…とにかく、これから色々な事があっても頑張るんだよ。」
そう私は二人に言い残して足早に店を出た。 

振り返って店の中を見ると二人はまた熱心に話している。
将来の月花舎の話しで盛り上がっているのかもしれない。
「頑張れよ…。」
そう思った瞬間、再び猛吹雪が襲ってきた。息ができない…。 

はっと気づくと青空が広がっていた。
周りを見渡すと2024年の駅前の光景がそこにはあり、ロッテリアも二人の姿もない。
「さっきのは幻だったのだろうか?」




函館山のふもとで姪っ子の結婚式は行われた。素晴らしかった。暖かな雰囲気の中、式と披露宴が終わり、姪っ子夫婦が手配してくれた港付近のホテルに泊まる。

「あんなに小さかった姪っ子も本当に立派に成長したなぁ…。」
そんなことを思いホテルの部屋の窓から夜景を眺めていると、あの高校生の福地さんの事が再び心に浮かんできた。

今の私のような大人たちに当時の彼らの話しを聞かせても、まだ世の中を知らない若者が何を夢物語を…、世の中はそんなに甘くはないぞ…と一笑に付されるのかもしれない。
しかし、彼らは未熟ながらも手探りで真実のかけらを掴もうとしていたのだと思う。
時々手に触れるそのかけらを辿りながら夢のかけら…種を少しずつ育て上げようとしていたのではないか?

あの頃の福地さんの夢のかけらは今、『月花舎・ハリ書房』という形の花を咲かせようとしている。
「そして、ここからがきっと本当の夢の始まりなんだ…。」
そう思い私はいつまでも函館の夜景を眺め続けていた…。




2024年4月 東京神保町に書房喫茶『月花舎・ハリ書房』がオープンする。
ここは、きっと素晴らしい芸術文化の発信点になるだろう。

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