脇道
若者から不意に道を聞かれた。
この道を真っ直ぐ行けば、あなたの目的地に着くと教えた。
真面目そうな若者は笑顔で会釈をし、足早に教えた方向に向かって行く。
何故か脇道が現れた所で、暫く立ち止まって思案しているようだ。
私は大声を出し、そちらではない真っ直ぐ行けと教えた。
若者は片手を上げ指で丸を作り、了解したことを私に伝えている。
そして若者の歩は先程よりも早く私からどんどん離れ、若者の姿がかなり小さくなった。
わずかに見える若者は又立ち止まり、新しい脇道で思案しているようだ。
そしてこちらを振り返らず、躊躇無く脇道へ曲がって行った。
私は大声を上げ彼を呼び止めたが、若者との距離は遠く私の声は寒空に虚しく響くだけだった。
私は若者が間違いだと気付けば、またこの道に戻ってくるだろうと楽観的に考えた。
老いた私には旅を楽しむ余裕は無く、靴もすり減りこの冬の旅は辛く感じている。
若者が逸れた脇道に到着し、向かった方向には華やかな光が輝いている。
若者は脇道の誘惑に、私の忠告が煩わしく、早足になったのかも知れない。
暫く待ったが、若者は戻って来て笑顔を見せる事はなかった。
時間に余裕が有る若者には、寄り道も問題はないように思える。
何故か若者の姿が自分と重なった。
今の私は脇道の誘惑に負け50年間回り道をして、今この道に戻り着いたばかりだ。
しかし、この脇道こそ人生なのかも知れないと思える。
私は早く宿に着き疲れた身体を休ませたくなった。
季節の移ろいを楽しんでいると、すぐに木枯らしの冬になる。
ねぐらの明かりを探し、明日の旅も楽しもう。