ハロプロつんく曲はいいぞ
いきなり本題から入りますが、私は2019年ごろからハロー!プロジェクト(アップフロントプロモーションに所属するアイドルグループの総称)の楽曲を好んで聴くようになりました。もともとPerfumeやでんぱ組.incに傾倒していた時期もあり、昭和のアイドル歌謡もそれなりに聴くのでアイドルの楽曲にはわりと興味があったのですが、本格的に「ハマった」のはハロプロ曲、それも2014年まで総合プロデューサーを務めていたつんく氏による楽曲だけでした。(もちろんつんく以外の作家さんによる楽曲も魅力的なものがたくさんあります)
今回は「頭の中に女子中学生が住んでいる」と評されることもあるつんくの歌詞世界で特に惹かれたものを少しご紹介していこうと思います。私は音楽理論などはまったく知らず、評論に関しても素人ですので、これはあくまでいちオタクの鳴き声だと思ってください(こうやって保険をかける姿勢こそオタク仕草である)。
Fantasyが始まる/モーニング娘。
主人公が自分をシンデレラに擬え、現実への不満を空想の世界で昇華するようなナルシスティックな一曲です。「自由で何が悪いと言うの/好きなようにしていいじゃない/すべてあなたの思い通りに/なるなんて思わないでよ」と最初からお姫様のような驕慢さ全開。この歌い出しをナルシストキャラで一世を風靡した道重さゆみが歌うのだからたまりません。サビで「体が勝手に動き始めるの/SEXYでごめんね/ガラスの靴はこの手の中にある/ファンタジーが始まる/Fantasyが始まる」とタイトルと同じフレーズを2回繰り返しているのですが、一度目はファンタジー表記で二度目がFantasy表記なのがミソだと筆者は思ってます。一度目の「ファンタジーが始まる」は主人公の独白で、「Fantasyが始まる」はタイトルと同じ表記なので主人公の物語のタイトルコール、謂わば「物語が始まるぞ!」という宣言に聴こえます。最高。「かぼちゃの馬車を正面に回して!」も高飛車でたまらないです。
Are you happy? /モーニング娘。'18
こちらはアップテンポで低音がゴリゴリの闇深怪曲です。とにかく「女の子の満たされなさ」を歌っています。「もう遅いよ/愛の貯金なんてできないよ/もう遅いよ/今日は今日の愛」とワガママ全開です。「もっと私だけ」「あいつはいいな」と「彼氏からいかに愛されているかで自分の価値を測る」という女の子の心の暗部が描かれています。メンバーが檻を作って中に入った他のメンバーが「ここから出して」と叫びをあげる振り付けがあるのですが、デートやプレゼントといった儀式で愛情を可視化しそれによって自分の価値を確認するという檻から出られない苦しみが表現されていますね。「愛の証拠見せて」「愛に保証つけて」というフレーズが含まれているのに"Are you happy?"というタイトルなの、まるで「あなたは私といて幸せなの!?」と彼氏に迫っているようで鬼気迫るものを感じます。この女の子、「愛の予約なんてできない」のに「来年の誕生日の分先に愛してね」と無茶苦茶な要求をしているんですよ。でもよくよく聞くと将来も愛してもらえる保証がないから今無限大の愛情を向けてほしいという痛々しいほどの不安から来る言葉だということがわかります。おそらくこの"Are you happy?"の言葉も彼氏に言えず自分の中で鬱滞させているんでしょうね。「努力してるでしょ私/幸せになりたい」というフレーズが悲痛です。
1億3千万総ダイエット王国/Berryz工房
筆者がつんくの歌詞の最高傑作だと思っている曲です。タイトル的に一見ネタ曲なのかな? となりますが、ダイエット(≒美容)に縛られる現代日本の女の子の病理を見事に描いている名曲です。「どいつもこいつも美人好き」「どいつもこいつも他人事」と外見至上主義の社会で画一的な美の規範にがんじがらめにされ「私」自身を見てもらえないやるせなさが感じられます。「割り勘だし元とろう」「食べるんだったらうまいもん」と食への執着の描き方もすごい。「楽しい夢を見てたい/未来を信じていたい/寂しい気持ちにさせないでね」と心理的欠乏を食で埋め合わせようとする心情を見事に描き出しています。この曲の主人公はなぜ痩せたいのか? それは「生きてる意味が知りたい/愛する意味を知りたい/私の本当の意味を知りたい/優しい人になりたい/この世の為になりたい」から。そもそも美しくなりたいのは自分の存在価値を生み出したいからで、ダイエットはその一手段でしかなく、本当の願いは人と愛し愛されることだというつんくの哲学が伝わってきます。最後に「お願い」を連呼することでその切実さがいっそう高まります。このような曲をルッキズムの上に成り立つ職業であるアイドルに歌わせちゃう勇気が本当にすごい。
デートの日は二度くらいシャワーして出かけたい/つばきファクトリー
まずタイトルがすごい。冒頭で「つんくの頭の中には女子中学生が住んでいる」と書きましたがこの曲は完全にそれです。着替えても着替えても決まらない勝負服、化粧崩れ、髪型の乱れ……女の子がデートのとき気になることを完璧に描写しています。考えてみてください、おじさんから「コンビニの後の髪の匂い 気になる/気になる/大好き」なんて言葉が出てくるのすごすぎませんか? コンビニのホットスナックの匂いが髪にうつることすら気にしてしまう乙女心よ。それに「失恋よりも怖いことがある/そうあなたに軽蔑されること」なんて天才すぎる。「あなた」に愛されたいけど普遍的に女性としての価値も認められたいという心理を描写していますが、認められたいのは「あなた」が好きだからこそ。この曲はMVの小片リサさん(サムネの人です)も儚げで美しいので是非鑑賞してほしいです。
まとめ
今回は4曲だけ紹介しましたが、これだけでもつんくの歌詞世界の奥深さがおわかりいただけると思います。全体的に言えることですが、作為的なものなのか天然なのかはわからないものののつんくの歌詞って日本語があまり洗練されておらずどこかに違和感というか引っ掛かりがあるんですよね。それもあってただ聴き流すのではなく歌詞が耳に残りやすい。あととにかくスケール感がデカくて日常生活から急に地球や宇宙全体に思いを馳せたりします。つんくは生活への観察眼が鋭くて、ひとりひとりの生活が世界や地球全体と連関していることを描かせたら右に出るものはいません。また「周りの人を大切にしよう」「人を妬むよりも自分にしかできないことを見つけて努力しよう」とわりと普遍的なことを歌う曲も多いのですが、決して説教臭いものではなくストレートに胸に刺さってきます。そういったラブ&ピースがつんくの本質と言っていいでしょう。ですがそれらに関してはわりと語り尽くされている印象があり、今回は敢えてそういった人生哲学的な歌詞ではなくごく個人的な女の子の心理を歌ったものをチョイスしてみました。つんくは女性を神聖なものとしてアイコン化するのではなく肉体から離れられない生身の存在として描写する天才だと思います。そしてそれを表現するハロプロメンバーたちのパフォーマンスも素晴らしい。
何か心にモヤモヤがあるときに寄り添ってくれる楽曲の数々、皆さんもぜひ聴いてみてください。