Gauge Means Nothing解散後、P.S. Burn This Letter, Still I Regret, そしてレーベル。音楽へのこだわり / Interview with Kasanuma #2
前回#1の流れはこちらです。
「自分では意識していなかったけど、気付けばものすごくのめり込んでいた」 P.S. Burn This Letterについて
笠沼:
gauge means nothingの解散ライブのときにTialaが出てたんだけど、ボーカルのカッキーに「俺ドラム叩けるから一緒にバンドやろうよ」って言われて、その解散ライブの数日前にアメリカでBox The
Compassというバンドでギターを弾いていたラマーから「日本に住むことになったからバンドやろう」ってメールが来ていたのとタイミングが同じだったからじゃあこれで新しいバンドを始めようかなと、それでスタートしたのがP.S. Burn This Letterです。バンド名はラマーが付けました。もう一人ギターにa dayというバンドでギターをやっていた宮城を誘って’07年の1月からライブをやり始めて、途中ドラムがAtariをやっている中村君に代わって最終的には’10年12月まで活動したかな。その後もちょこっとスタジオ入ったりはしたけど、結局バンドを再起できなくて、最終的に話し合いしてもう活動はしないという結論に至った。
最初は方向性などについてはまったく決めていなかったんだけど、スタジオで弾くラマーのギターがサンフランシスコのバンドっぽいというかまさにそこで活動していた人だからそうなんだけど、そのギターが独特のよさがあったからそれを活かす方向で、具体的には2ビートなどの速いリズムは使わずにYaphet Kotto、Navio Forge、FugaziとかState Route 552とかロッキンなリズムでエモーショナルな雰囲気を出そうという感じで曲作りをしていった。毎週4時間スタジオに入ってメンバー全員毎回ものすごく集中していたからスタジオワークがすごく充実してて毎回曲作りが楽しかったな。
個人的にはP.S. Burn This Letterには自分では意識していなかったけど、気付けばものすごくのめり込んでいて、自分でも引くくらいライブ前はいつも緊張がすごかったし、バンドを続けるかどうかの話し合いのときは号泣(笑)するしで、なかなかの入れ込みようでした。
Yaphet Kotto — The Killer Was in The Government Blankets LP
Navio Forge — Haloed Eyes
Fugazi — Turnover
State Route 522 — I.V
レコーディングしたままになっていた2曲入りシングルレコードの『すべては表現の中に』もやっと出せたのが’12年の6月。マスタリングが終わってから2年半も経ってのリリースになったけど、そこまで時間がかかったのは実はそのとき曲名が決まっていなかったり、ジャケットなどをどういう体裁にするかで難航したこと、そして何よりバンド活動が滞ったことが最大の原因です。手にした人はわかると思うけど、ジャケットと言うか本だよね。歌詞にも力を入れていたから歌詞を読ませたいと思って装丁にはかなりこだわって、“DIY Album Art” という本や、Countdown To PutschのMountain Collectiveからのリリースがまさに本とCDのセットになっているという代物で、それらを参考にして最終的にあのような形になりました。製本もすべて自分たちでやったので、とにかく人手も時間もかかって大変だった。手伝ってくれた友だちのみんなには非常に感謝しています。
P.S. Burn This Letter — As My Body Burns Crimson
P.S. Burn This Letter @ Ritsumeikan Univ. Kyoto
DIY Album Art: Paper Bags and Office Supplies
Countdown To Putsch – Handbook For Planetary Progress
2曲入りシングルのタイトル『すべては表現の中に』はJoy Divisionのイアン・カーティスの奥さんであるデボラ・カーティスの著書の中から引用したんだけど、そのタイトルの通りにメンバーみんな音楽的にも歌詞も当時の心境をその2曲にすべて注ぎ込んだし、まさにこれしかないっていう気持ちでした。
タッチング・フロム・ア・ディスタンス―イアン・カーティスとジョイ・ディヴィジョン
「Unbrokenを意識したメタリックハードコアをやりましょう」 Still I Regretについて
みちのくさんに誘われてドラムでStill I Regretを結成したのが’09年の11月かな。P.S. Burn This Letterの活動と平行して練習してました。元々ボーカルの佐々木さんが岩手に住んでいて遠距離バンドということでスタートして、ドラムも学生のときに部室でやっていたっていう程度なんだけど、やってみることにしました。ギターはみちのくさん、もう一人のギターが当時UmbrageとInsideをやっていたたかしくん、ベースが北沢君。僕とたかしくん以外のメンバーはかつてPenanceというバンドで活動していました。メンバーが集まってUnbrokenを意識したメタリックハードコアをやりましょうということで、インタビュー冒頭に書いた、若かりし頃に影響を受けたBloodlinkとかEbullitionのバンドの雰囲気を出せたらいいなと思ってやっていました。曲は主にみちのくさんが作っていて、練習が終わってからみちのくさんの家にみんなで遊びに行ってレコード聞いたりだらだらと過ごすのが結構楽しかった(笑)。
‘11年3月11日のまさに震災の起きたその日にデモのレコーディングをする予定だったんだけど、もちろんできるはずもなく。それから少し間を置いて7月にデモを出しました。’13年の9月にたかしくんが辞めたのと、みちのくさんが実家の岩手に帰ることになってそれからスタジオに入ったりはしてないんだけど、そのうち何かレコーディングしたい気持ちはあるので、何かしら形に出来たらと思っています。
Still I Regret @ Bushbash Koiwa
Inside
Penance bandcamp
「自分一人では成り立たないという意味でEndless/Namelessは単なるレーベルではなくてコレクティブ」 Endless/Namelessについて
Q.自身のレーベルについても教えてください。
どのようなスタイルで運営されていますか?
still I regretなどの特殊すぎるジャケットにもかなりのこだわりを感じます。
笠沼:基本的には自分のやっているバンドを出すのが第一の目的。一番最初にgauge means
nothingの音源を出そうってなった時にどこのレーベルからも声がかからなかったし、自分でやれば自分の好きなようにできると思って始めました。あとはTrikoronaとかmyheadswimsとR3-N7のsplit、Cease Upon The Capitolとか自分のバンド以外のリリースもあったけど、それは音がかっこいいだけじゃなくて友だちとしてもすごく好きだからレーベルとして関わりたいと思ったんだよね。
どのリリースについても割と装丁にはこだわっているんだけど、やっぱり普通のフォーマットじゃないリリースをしているレーベルやバンドが好きだから自分でもそうしたいと思うんだよね。特に音源がデータで聞かれることが多いこの時代、音源として手に取る喜びを感じてもらうにはそういうところに力を入れる必要があるのかなとぼんやりと思ったりしています。ただそういうことを考えるのは楽しいけど、実際にやるとなると本当に大変なので、いつも周囲の友だちに手伝ってもらってます。自分一人では成り立たないという意味でEndless/Namelessは単なるレーベルではなくてコレクティブということにしています。
Trikorona Noise Room Sessions
myheadswims @ eM Seven Koiwa
R3-N7 @ Ryukoku Univ. Kyoto
Cease Upon The Capitol first footage
3LA:3LAでは最近になってEndless/Namelessと取引を始めたということもありますが、意外にもKowloonだけでなくレーベルの過去音源が驚くほど反応があります。
笠沼:それは多分3LAが激情ハードコアに強いお店で、今回強力にプッシュしてくれていたというのが一番大きいんじゃないかな。gauge means nothingの場合は、ほとんどすべての音源がYouTubeとか様々なところでネットで共有されてるから、そこで聞いて気に入ってくれた人が買ってくれたんじゃないかと思う。
基本的には懇意にしてくれているいくつかのレコード店には売り切れるたびに納品してるし、レーベルのサイトには在庫状況も書いてるから欲しい人は全然買える状況だと思ってたんだけど、直接通販の連絡が来ることは今となってはほとんどないね。今どきメールでやりとりして銀行振込してって、ネットショップでカード決済とか普段から利用してる人からしたらめんどくさいよね、きっと。
3LA:そういう意味では以前から活動していたディストロとかが、リスナー層が移り変わる中で「ネットで音楽を探す新しい世代のリスナー」に適応できなくなっているのかもしれません。3LAでの入荷も、もう皆既にgaugeはチェック済みだろうと思って初回はそんなに数量を入荷しなかったのに実際には大きな反応を頂きました。逆にいうと、こういうパターンて本当はもっとあり得ると思っていて、必要としている人にきちんと情報が行き届いていないということだと思うし、それはそれで問題(バンド界隈やレーベルの力不足)だなとは思います。
笠沼:適応できなくなっているというのはその通りだと思う。自分たちがやってきたことだから、若い人たちも同じように通販のメールなりくれるだろうなんて簡単に考えてたんだけど、実際は違ったと言わざるを得ない。普段の生活においても連絡手段としてはEメールなんてもうあまり使わないよね。レーベルの在庫がある限りはなんとか売る努力はしないといけないなと思っています。今更だけどBase.inのアカウントも作って買いやすい仕組みを作ろうかなと思ったり。
3LA:たまに3LAに置けば売れるでしょ的な見方をされることもありますが、そういうわけではないんですよね。売れないものは本当に売れないし、売れるにしてもいい感じの売れ方をして欲しいし。過去の音源が現在でも「良いもの」として歴史に残っているということを気づかせてくれるので、新譜でない音源が売れるのはなかなか嬉しいものです。
笠沼:新譜でない音源が売れるのって嬉しいものなんだね。過去って美化されがち、過大評価されがちだと思ってるところがあって、やっぱり新譜が売れて欲しいなとは思います。でも多くの人に知られるべきなのに埋もれてしまった過去の名盤がたくさんあるのも事実だし、3LAでそういう音源が売られているというのはいいことだよね。
中古のプレミア価格について
話変わって逆に質問なんだけど、水谷君としては中古のプレミア価格についてどう思う?僕は新品で流通していたとき以上の値が付くのなら、その音源は再発するか、データで解放するかなどすべきなんじゃないかと思ってる。再発とは言っても簡単に出来ないのは重々承知の上だけど、盤の内容が値段に比例しているわけじゃないし、ああいう値段の付け方ってよくわからないなって昔からずっと思ってるんだよね。
逆に投げ売りされている盤については、例えば自分のバンドが100円で売られていたら嫌だって話はよく聞くけど、僕はなんとも思わない。リリースした以上は誇りは持ってるし、さっきも書いたように盤の内容が値段に比例しているわけじゃないと思ってるから、逆に誰かに聞いてもらえるチャンスなのかなと前向きに考えてます。僕も100円でたくさんの名盤に出会ったし。
でもそれがファイル共有だとちょっと微妙な気持ちになるんだよね。まあかっこわるいおっさんのぼやきになりますが、試聴程度ならそれでも全然いいと思うけど、作った側の本音を言えば、気に入ってくれたならやっぱり盤を手に取ってアートワークとか歌詞も含めて満喫して欲しい。ハードコアってそういう作り方をしてると思うんだよね。音以外の要素から何かを読み取って理解する、そのときに単なる音楽以上のさらに大きな感動を得られると思っていて、それが「more than music」っていう言葉の意味なんじゃないかなと思っています。
3LA:僕としてはある意味で同意見、ある意味で逆の立場です。自分的には「プレミア価格」自体にはまったく嫌悪感もなくてアートの値段のつけ方としてはむしろ正しいと思っています。実際の内容に見合った価格っていうのは、いわゆる「使用価値」みたいなところだと思っていて、「使用価値」から解放されたところに「交換価値」がある。「交換価値」の世界では1000円で売られていたものが100円になることもあるし、10000円になることもある曖昧な世界ですが、この仕組みは単純に面白い。「使用価値」で計られているうちは、そのモノ(=CDやレコード)自体は鉛筆とか消しゴムとかいった日常にあふれる物質的なモノと同じ存在で、新品なら定価、中古ならそれ以下の値段(原価に基づいた価格)で販売されています。しかし、供給より需要が多かったり、後からそのバンドが大きくなったり、音楽シーンの中で別の意味を持っていったりすると交換価値が増し、人にとって内容以上の価値を持ちます。バンドの音楽に、それ以上の価値を見出しているわけで、それ自体は悪いことでもなんでもないという考えです。もちろんただ希少性を煽っているだけの少量プレスとかにはアンチですけどね。
再発(コピー)されても価値の落ちないモノってオリジナルな存在だと思うし、芸術やる人にとってだけじゃなくてビジネスやる人にとっても精神的な部分で重要なものになるので僕はそういう作品に関わっていきたいと思っています。いまの時代ってデータでだいたいのものは手に入るし、youtubeにはレアな音源もあがっているし、聴くだけだったらいくらでも聴けるじゃないですか。でもハードコアってそうじゃない。音と歌詞とアートワークと雰囲気、データに出来ないそのこだわりの部分が自分を新しい場所に連れて行ってくれるし、bandcampで聴いたところでそのすべては手に入らないですよね。
だからオリジナル盤の価値は絶対になくならない。再発したらしたでそれが別の価値を持ってしまう。そういうところもふくめて最高に面白いと思っていますけど。100円のレコードから他の人が見つけれないそれ以上の価値を自分で見出していくのも最高にクリエイティブです。
笠沼:なるほど…。90年代のリリースではジャケットに “Pay No More Than $5”とか書いてあったりしたものが数多くあって、僕もやっぱりそういう文化に影響されたし、プレミア価格がついているレコードを見ているとパンクやハードコアなのに「権威」のような印象を持ってしまって、それで違和感を感じるんだと思う。
でも水谷君の言うように音だけはデータで聞けてしまう今の時代に、音以上の価値というのはそのレコードに詰まっているわけで、安くてもよいレコードを知っているなら自分が紹介するべきかなとは思いました。ということでnoteでちょこっと書いてみます。
今後も紹介していく予定。
(続く)