「デミセク」をもっと知りたいし、知ってほしい

「LGBTQ＋」という言葉が認知される社会になってきた。高校や大学にも同性愛者やバイセクシュアルの人たちはいた。自分の性的指向を「カテゴライズ」できれば、自分を表明できれば恋愛はよりしやすくなる。

カミングアウトの難しさは社会の問題。
だから、彼らがもっと自由に恋愛できるようになればいい。

と、他人事のように思って生きてきた。
マイノリティが他人事なのではなく、そもそも「恋愛」自体が他人事だったからだ。私の周りは「恋愛体質」だらけだ。あれほど好きだと１年以上追っかけていた恋も、失恋した数ヶ月後には別の誰かと惚れた腫れたになっている。こちらは内心「そんなに好きじゃなかったのね。薄情だなぁ」「軽い。吹いたら風に飛ばされそうなほど軽い恋心だわ」と失礼にも思っていたのである。

誰かに告白されても然りである。出会って数日、数週間で「好き」と言う。お前は私の何を知っていて好きだと言っているのか？というシラけた思い。どうせ体だろ。たとえ、その思いが当人にとっては本物だとしても、私には下心だとしか思えない。

アラサーになって「デミセクシュアリティ」を知り、気づいた。周りは「恋愛体質」なんじゃなくてそれが普通で、自分の方が周りと違うだけなのだ、と。

デミセクシュアル（demisexual、半性愛）
デミセクシュアルとは、他者に対して基本的に性欲を抱くことはないが、強い愛情や深い友情を持った相手に対してなど、ごく一部の場合に性的な欲求を抱くこともあるセクシュアリティです。

■一目惚れをしたことがない！初めて会った人に対して恋愛感情を抱かない！
デミセクシュアルはすぐに恋愛に発展する、ということがないため初めて会った人に恋愛感情を持ちません。
■すぐに性的な欲求や恋愛感情を持ったことがない。相手のことをじっくりと時間をかけて知っていきたい、関係を築きたいなと思う。
デミセクシュアルの方は、精神的なつながりを重視し、じっくりと相手との関係を築くことが重要だと感じます。
■恋愛したいという気持ちはあるけれど、なかなか好きな人が出来ないと感じる
デミセクシュアルの方は精神的な深い絆や、つながりを求めるため、好きという感情や、性的な欲求を抱くまでに時間がかかります。よって自分はなかなか好きな人が出来ないと悩んでしまうことも。
■自分の恋愛感情が出てくるタイミングと、相手とのタイミングが合わない。
デミセクシュアルの方はゆっくりと絆、つながりを深めたいと考えます。相手の気持ちについていけないなと感じたり、相手の考えとのずれを感じ、取り残されている気持ちになることもあります。

私じゃん！！！
という驚きと共感してもらえる相手がこの世に存在するという喜び。
（デミロマでもあります）

「異性愛」なら皆同じと思いがちだが、性は流動的。人の数だけ多様性が存在すると言っても過言ではないほど、同じ対象を好きでも様々だ。パートナーとわかり合えないことは寂しいけれど、自分やパートナーの性的指向を理解できれば自分自身や相手を尊重することができる。

noteでは、まだまだ少ない「デミセク」のタグ。
おそらく当事者であるはずの私自身でさえ「デミセク」はよくわからない。そうではないパートナーは「ふーん、そうなんだ？」くらいだ。私はもっと「デミセク」について知りたいし、もっと知ってもらいたいと感じている。
きっと「デミセク」と一言で言ってもきっといろんな人たちがいるはず。自分の異常さを疑う孤独から抜け出すためにも、似た価値観や考え方の人と出会い、知ることは、とてもとても大切なことだ。

だから、私の恋と性について包み隠さず話そうと思う。
デミセクらしいし、デミセクっぽくない。
セクシュアリティの曖昧さ。「好き」が当たり前じゃないからこそ覚える困惑。
答えを知りたいし、探していきたい。

１．デミセクと気づいたきっかけ

私が自分の性的指向に自覚を持ったのはアラサー。
私の体つきを親から否定され続けてきたこと、両親の絶えない夫婦喧嘩、父の不貞行為、性被害など、性に関する不快な体験を子どもの頃から抱えて生きてきたからだ。「恋愛もクソもない」というのが私の恋愛観だった。

そんな私でも交際経験や恋愛経験はある。
ただし、自分から告白したのは一人のみで、他の交際経験は全て相手からの告白を受けて「好きじゃない」からのスタート。8割はそのまま「好きじゃない」でお別れ。交際をOKする動機も不純で、時間をかけても何かしらメリットがあるという打算的なもの。

まあ、冷たい人間です。仕方ない。
だって相手だって出会って数日、数ヶ月程度の人間に惚れたとぬかすわけですから。それっぽっちで人を好きになるわけがない、と皮肉ってすらいた。それでも、時間をかけ、互いに互いを深く知っていく中で愛情が芽生えた人たちは、今でも写真を見れば胸がうずく。

「人を好きになるのに理由はない」なんて言う人もいるけれど、理由があるから個人を好きになる。理由がなければ誰だって構わないはずなのだから。
ロマンティストだと友人たちには揶揄されても、私はリアリストだと思っていた。現実的に恋をしている。知りもしない相手に恋をする方がフィクションのようなロマンティストだ。そう思っていた。

私には異性も同性も「人間」にしか見えない。初めて会った時から私を性的対象として見る人もいるし、仲良くなったと思ったら告白してくる人もいる。その時に訪れるのは「ガッカリ」する気持ちだ。人として好かれたい、女ではなく。女性である自分は好きだけど、性的対象として見られることが気持ち悪い。相手を性的対象として見るのも気持ち悪い。

人間の部位を見て美しいと感じることはあっても、人の体を見るだけで「この人と体を重ねたい♡」と思うことは一度もない。セクシーな体つきが何かは知っているし、ガチムチキャラが好きだけど私自身がガチムチとどうこうしたいとは思わない。その人を愛するには、私たちのストーリーが必要なのだ。恋に至る「関係性」から私は「好き」を自覚する。

特別な何かがないと自ら人を好きにならないけれど、今の恋人のように強引に交際関係が始まり、振り回され振り回し、喧嘩しながら互いのために歩み寄ってきた今、私は彼を愛している。もともと他人に性的興奮を覚えない私に対し、彼は誠実で他の人と性関係を結ぶつもりはなくても、好みの女性の体つきはあるしグラビアアイドルを眺めて性消費してもいた。そんなのおかしいと抗議すると「性に対して潔癖なのは健全じゃない」と言われた。

彼と交際する前から「普通じゃない」と周囲からは言われ続けてきた。
「理想像が高すぎるんじゃないの？」
「いい年して恋人もいないなんて恥ずかしい」
「同性愛者だとカミングアウトしてもいいんだよ？」

性に対する健全って何だ。
脇目もふらずたった一人を愛することは不健全なの？

確かに私は問題だらけだ。毒親育ちで性被害者。周りにいる男は、金を払えばセックスができる、金を払わずとも自分より弱い立場ならできると思ってるような男ばかり。

本当は、男なんて大嫌いだ。
間違ってるのはお前らだ、このバカヤロウ！

と泣きながらインターネットで、私の不健全について調べた結果、同じ恋愛観を持つ人たちがいることを知った。彼／彼女たちは自分を「デミセク」と表明していた。

２．デミセクは”ときめき”と無縁？

その後、彼にはデミセクについて話し、私のこれまでの経験も含めて「不健全さ」も「健全さ」も受け入れてもらった。実際のところはどうか知らないけれど、私が不快に感じることは私の目には一切触れなくなり、関係性はとても安定している。

私たちの関係性のために、私たちは洗いざらい自分たちのセクシュアリティについて色々と話し合った。彼も私も同性から度々アプローチされる経験があるので、恋愛対象や性的指向についても明確に知り、余計な心配を減らしたかったのだ。

彼は同性愛者にモテるけれど、恋愛対象も性的指向も女性に限られると話した。タイプもわかりやすい。私は彼の恋愛・性的好みのドストライク。一方、私の恋愛対象・性的指向はあやふやだ。彼は自分が私の好みじゃないことを自覚している。ただし、自分の体も含めて私が愛情を持っていることも自覚している。

よほどのことがない限り、自分から惚れることがなく、男性でも女性でもその個人に愛着がなければ好きになることはない。アプローチしてきた女性たちは一人を除けば異性の恋人がいる女性たちで、私が「興味ない」と言えばそれ以上にしつこくされたことはなく、恋愛関係・交際関係まで同性と発展したことはない。

そう言いながらも異性愛者だと踏ん切りがつかないのには理由がある。
誰かに対して鼓動が早まり、不安を覚えることを「ときめき」と言うなら、私が人生で経験したたった２回の「ときめき」は女性に向けたものしかないからだ。

どちらも、名前を知らない（あるいは覚えなかった）人たちだ。
一人は電車で乗り合わせただけの女性。満員電車の中、私の前に立つ彼女は、透き通るような白い肌をしていた。色素の薄い髪は少年のように短く、華奢な体つきをしているけれどダボダボのTシャツにジーンズ。中性的な美しさに「胸が高鳴る」を通り越し、口から心臓が飛び出そうになった。
彼女は身を竦めてぎゅうぎゅうの満員電車に耐えていた。汗が伝ううなじは真っ白だった。それを目にして妙な気持ちになり、息を止めるように潜めた。

これが恋愛感情？性的興奮？それとも圧倒的な美に対する畏怖？
経験がないからわからない。交際経験や性体験があっても「好き」に対しては赤ちゃんみたいなもの。世に言う「一目惚れ」はもちろん、理由もなく人を好きになったり、見たい目だけで性的興奮を覚える感覚も未知。
誰か、この感情の名前を教えて……。

10年以上も経つのに、鮮明に覚えている。
もしこれが「一目惚れ」なら、人生で最初でおそらく最後の「一目惚れ」だ。

二人目は、友人のOG会に連れて行かれた先にいた女性だ。
私はそこの出身者ではなかったけれど、友人の担当教官に引き合わせたいという理由で連れて行かれた。その女性は、私より５つほど年下だけれど、ずいぶん背の高い人だった。ショートヘアで好奇心の塊のような目をしていた。
自己紹介されたけれど、場違いな自覚があったので人の名前を覚えている余裕も気力もなく、挨拶を交わした程度だ。彼女にいくつか質問され、ずいぶん社交的な人だなと思った。
その後、先生の発表を皆で聞くことになり、各自適当に座る。部外者なので部屋の入り口付近に隠れるようにして床の上に座ると、後から誰かが私の横に腰を下ろした。
その彼女だった。床に置いていた私の手に彼女の手が重なった。うっかりかと思い、手を引こうとすると握り締められた。驚いて横を見ると、彼女は涼しい顔で真っ直ぐ先生を見つめていた。

ハンターキターーーー！！！！！！

気分は子ウサギ…。強引なアプローチの異性はいましたよ、これまでも。腹立たしさで反撃し返り討ちにしてきた武者ですよ、これでも。ところが、歳の離れた女の子に、そんなどっちとも分からない態度で迫られるなんて初めて。

恐怖心に似たドキドキが私を襲う。

先生が話し終わると、彼女は友人たちの元へ去り、私は安堵しながら火照った頬をそっと押さえた……ところで彼女と目があった。ニコリと微笑むハンター。ああ、からかわれてる。年下にからかわれてるよ…と心の中では半泣きになりながら、なけなしの大人の余裕を演じる。
疲れちゃったから先に帰ろうとした途端、彼女は追いかけてきた。今では何を話したか覚えてないけれど、それほど彼女の気迫がすごかったのだ。背の高い年下の彼女を私は見上げ、すぐそこに彼女の顔があった。吐息すら落ちそうなほど彼女は近く、肌は触れ合っていないはずなのに温度を感じた。

そうだ、その話を先生がしていたのだ。

「先生の言っていたこと、わかります。私も、○○さんの体温も匂いも感じてました。今も」
当時の私が何と答えたかは思い出せない。でも、とにかく鼓動が激しく高鳴って血が全て頭に集まるような感覚だったのは覚えている。爆発してもおかしくない。というか爆発して私を楽にして……と懇願したくなるほどのパニック。

たぶん逃げ出したのだと思う。追いかけてはこなかったけれど、代わりに追いかけてきた友人にからかわれたのは覚えている。女子大では珍しくないこと。後輩は憧れの先輩と対になりたがる。マリア様かーい！とツッコミつつ、外の夜風にあたっても冷めない熱にいつまでもドキドキした。

今思い出しても、私はこうした経験の名前を知らない。
恋だったのか。性的興奮だったのか。
答えを知らず、悩みの先に自分の恋愛対象や性的指向の不明瞭さにぼんやりする。彼に話すと「経験や出会いがないだけで、君の本当の恋愛対象や性的指向は女性なんだと思う。僕は女性しか好きになれないのに、君は男性でも女性でも相手にできる。僕よりずっと不誠実になる可能性を秘めてる」と責めるように言われた。

わからないけれど、それは自分で「決めていく」ものでも良いんじゃないかと思う。だって結局、彼女たちとは何もなかったのだし、今の恋人に対する思いの欠片もそこにはなかった。なら、私の恋愛対象は彼であり、彼だからこそ性欲を持つのだ。

３．デミセクのセックス観？

私は、基本的に恋愛感情も性欲もあまりない人間だ。
押しに弱くて強引に恋愛関係が始まることがほとんど。性関係も恋人の押しに弱く持つものの、これまで痛いだとか気持ちいいだとかを感じることがなかった。そのため、ずっと自分は不感症なんじゃないかと密やかに悩んでいた。

デミセクだからなのか、あるいは他のデミセクは違うのか。
それはわからない。

初めて感じたのが、20代後半で出会った今の恋人だ。

私たちは共通の知人を介して知り合い、彼は初めて会った時（自己申告なのでたぶん違う）から私を好きだったと言うが、私が彼にもった第一印象は最悪で、友人にもなりたくないと思っていた。
１年以上、彼が誘い私が断るの押し問答を続け、先に音をあげたのは私だった。最初で最後にしようと思ったデートで過去完了の告白を受けた。「ありがとう」という曖昧な返事をしたその夜から毎日毎時間のメッセージ、１週間後にはGPS機能のあるアプリの紹介メールが届いた。

交際確認をしたその翌日のランチで、彼は「結婚しない／自立してない女は嫌い／子どもはつくらない」の三箇条を叩きつけて私の答えも聞かずに去っていった。付き合う前から、そして交際が始まってからも変な男なのだ。

その変な男との初めてのセックスも少しばかり変で、心や体どころか、思考さえ追いつかず「痛み」を初めて感じた。不感症じゃないんだ！という驚き。

やがて、彼の生い立ちや思い出を知って互いに心を開くようになり、関係を深めていくうちに、私は彼の純粋さに救われて惹かれるようになっていった。私自身の家庭の事情を知った時、彼は怒り、私を守ると言ってくれた。その時から、肉体関係に対しても感じ方が変わっていった。

交際２年が過ぎ、私たちはたくさんの喧嘩を乗り越えながら、何度も価値観をぶつけ合った。折り合うことの難しさも知り、別れを何度も考え、実際に何度も別れ話もして別れようとした。たくさん傷つけあったけれど、彼の弱さも強さも、そして私の弱さも強さも知り尽くした上で、何度も互いに一緒にいることを選んだ。

恋愛がどれほど難しいことか。私には奇跡に近い。
”普通の人”ならどうってことはないのかもしれないけれど、私も彼も未熟で何らかの問題を抱えた者同士。彼が私といることを選択し続けることの有り難さに気づいた時、涙が溢れてボロボロとこぼれた。

初めて、私は彼に性的な欲求を覚えた。彼と目があって、その熱に心から求められていると初めて感じ、私は初めて彼を心から求めてたいと思った。そして今、彼は私の安心できる唯一の場所だ。

私は他人のセックスに全く興味がない。
無関心だからかえって他人から相談されることは少なくないけれど、本当なら聞きたくもないのだ。フィクションですら見たくない。

他人とするセックスだって想像するだけで不快感を覚える。
できれば裸だって見たくない。人間のツルッとした体なんて動物に比べれば可愛くもないし美しくもない。グロテスクなだけだ。

けれど、彼とのセックスは好きだ。
彼の全てを本人以上に知り尽くしたい。私のことも知ってほしい。私たちはプライドも恥じらいもなく何でもあけすけに話し合う。時には血流がどうだとか内臓のつくりがどうだとかいう話までする。自分の体がどうなっているのか、互いに共有する。

彼の体は、私にとって安心のシンボルだ。
丸いお腹もぺったりした扁平足も彼というこの世でたった一人だけのもの。その体はこの世でたった一つ、私が心から愛情を抱き、また私へのアクセス権を持っている体だ。

デミセクでない彼は、きっとこの感じ方も考え方とも異なる感じ方や考え方をしているのだろう。
どれほど話し合っても、私はそれを知らない。彼は言わないし、きっと本人もそれを言語化したこともなく、したいとも思っていないのだろう。だから、私たちは互いにとって「セックス」の意味も異なる。私にとっても、その時々で意味は変わる。その都度、彼は同意したり、困惑して私の真意を推し量ろうとする。

これほど話し合っても、互いにする「意味」は共有できないのだ。
デミセクでない彼にとっても私たちのセックスは、恋愛感情や性的指向というよりも、私たちの関係性を映す鏡であり、私への気持ちを表す、繊細でシンプルな儀式だ。きっと私よりも、彼の方がナイーブだと感じる時さえある。

まだ知らない自分もきっといる。ここまで語って「あれ、もしかして私はデミセクとも違うのかな？」と思ったりもする。ただわかっていることは、私の人を好きになる方法はとてもシンプルで誠実だということ。

性のかたちは、人によって様々だ。
「男だから」「女だから」なんてものより、ずっと奥深く複雑で、当事者ですらわからない神秘がまだまだあるに違いない。

どんな人であっても、愛した人が同じベクトルの持ち主とは限らない。
だから、もっとシンプルであってもいいんじゃないかと思う。

誰を愛しているのか。
誰に愛されているのか。

その２つをパートナーと共有できていれば、愛は成立する。
と今は信じたい。