新樹集 吉川宏志選若葉集(前田康子選)より新樹集に取っていただきました。(P.27に7首掲載) 仕込んでる梅酒の瓶を振ってみる ふと思い立ち、エゴサのように 吹き上がるそうめんの鍋をなだめつつ昔の写真を見る母を見る あの曲とおんなじ曲を『アイドルは飛んでいく』という題でやる エヴァ缶のペン立てのある鬱病の六畳一間に旧友が来る 黒点の増えゆくバナナ太陽の黒点異常のわが家の事情 シンクへと逃げたトリンテリックス錠拾えば指にぺたりと懐く 十八の娘がなにかを諦めて、ある
宇宙スペクトラム 団塊の世代て都市伝説でしょ。渋谷駅前の交差点はリアルに人間多いけど。 「IT革命はインターネット革命の略」だと時の首相が言ったから、IT革命はインターネット革命の略。 ウルトラマンは宇宙人らしくなってきた。仮面ライダーはバッタじゃなくなってきた。 一国の首相が「未曾有」を「みぞうゆう」と読んだなら、「未曾有」の読みは「みぞうゆう」です。文句言うな。 このあいだ田中は田中でいいけれど俺は俺じゃだめだと思った。 嘔吐して吐いても吐いても吐ききれぬ己の
2002.8.27.19:43:28~2002.11.10.22:40:40、とのメモがついていました。もう22年前。自身の内面の、学生時代の精算のように書かれたものです。 22枚の短編です。 (早稲田文学新人賞予選通過作品) 青い 水沢穂波空の拳で突き破った空の穴から宇宙の風が吹き込んでくる。透明な、青い白い風。流れのような一反の布のような風。そんな日曜日もある。 窓の外はよく晴れた青空で、その空の下は住宅地の屋根々々の照りかえすまっしろい世界、明るくて白く
つきぬける空を渦巻く蜘蛛たちが抜け低気圧の目をまっすぐに You love a candy and yourself; you love the world, so I love you. 雲の子よ飛べいのちづなを風に乗せいのちづなを大空に繋ぎ 宇宙が慟哭し涙を流して地球を濡らす濡れた地球に涙があふれる 涙は、生きています。命のあかしです。私たちとナトリウムと海。 成層圏にも逆さに雨が降りましょう対流圏は今日も雨です。 蜘蛛の子が成層圏に降りそそぐ青空を超えて降る
桜冬枯れの枝をかくしてまっ白に過剰にけぶる満開のサクラ 冬を睡り春の寝覚めの枯れ桜いま見し夢をうつし咲くらむ たましいの声いのち血を吐き絶叫す桜の意思ただ花を咲かさむ 満開の桜にはただ花しかない葉もない100%の切実 春の夜の夢はかなくもただ咲いて咲くさくらの悲壮を嫌悪す 咲き狂うさくらの姿せつなくて理不尽に怒るは吾が焦るか 春の世の桜に先を越されりと吾覚ゆ吾青春にありける 冬を過ぎ春こそ暑きものなめれ梅に蚊柱宵桜に蝉 春暑し鼠吾が部屋の隅に死し日々かげろふと
塔2024年10月号 若葉集 山下洋選潮騒に沖を見遣れば水平に島影船影ガス田の影 遙かにはほそき塔あり海鳥と目が合いながら走る国道 ささやかな漁港に光かたくして愈々白き船体の壁 厳冬の海へ向かいて刺さりたる赤きセリカを幻視する夏 土曜日の心療内科の混みあった待合室の息のしやすさ ふらふらとメンクリ患者の歩くのを薬で元気になった目でみる クリニック外周の草を抜いている精神科医の午後の背中だ きえてゆくはずの航跡わたくしをちぎってぽとぽと落としていても _____
若葉集 三井修選シャンプー台を倒せば肩の辺りなる枕へずり降りる程の座高 炭酸のシャンプーのままスチームで蒸されて頭皮亜熱帯なう パンゲアの継ぎ目(あるいは分かれ目)へ届きそうで届かぬ按摩 スコールのごときシャワーで熱帯の頭皮が洗われもう芽が出そう 男性用スカルプケアを依頼する女性もいるとの話は、つまり 熱風に乾かされたる吾の髪のふわふわたるや綿花のごとし ______________________________ 今回は6首掲載でした。また、選歌後期にてスコー
若葉集 村上和子選 連休の果てて雨天の神社には参拝者なし巫女は作業す 仰向けで尚尖りたる乳頭を天へ向けたり神なる弥彦 足首のちいさき傷の瘡蓋を昏き赤さで画家は描きぬ __________ 3首掲載でした。 前月よりも好い感じに詠めたつもりでいたのですが、選を受けると納得感しかありません。勉強になります。 ※2首目、弥彦山を神体とする彌彦神社の主祭神・天香山命は男神です
塔短歌会に入会しました。 2024年4月入会、月詠の初掲載が7月号でした。わくわく半分、どきどき半分。おそるおそる、でも、やっぱり心待ちにしていた初掲載号でした。 若葉集 真中朋久選 紙エプロンいらないけれど紙エプロンいりますかって訊かれなかったな 世に遍くあらゆるリズムに同期せぬ貧乏揺すりのカウンター席 わが耳を遠く疑いわが町に手遅れなほど春は来にけり 観測の起点を視床下部に置きこの世のありのままの色を疑う ひらきゆくエウスタキオ管生き延びてまた生き延びて日々に
「ナナロク社 あたらしい歌集選考会」へ初めて応募した。 投函して一日経過したらもう応募作を用意している間の心情のほとんどが揮発してしまったので、何とか思い出しながら書き留めておこうと思う。 応募の動機 ほんの数首とはいえ、多くの人に届いてほしい、読んでほしい歌がある。それを何とか届かせたいという願い。選者への手紙をしたためるつもりで応募作を用意した。 序盤 短歌を作り始めた2021年7月から現在に至るまであちこちで書き散らかしてきた中から良いと思うものをピックアップし
中秋の名月。 月にまつわる短歌俳句の既発表をまとめました。 (欠けた状態の月を詠んだものは除外) この光に混じれば夜空へ昇れそう満開の蕎麦畑へと月 雨上がり月に向かってまっすぐに光二本の轍が昇る ひさかたの光の轍に導かれ月へ至らむ雨上がりの畔 夏よりも透明な穹(そら) 水底の月の青さは地球の光 硬さ失ひやゝやはらかくありぬべし蟷螂の腹ほど満つる月 クレーターだらけの先輩の頬を指でなぞれば月の裏側 地の底の陽に炙られている月とヴィヴィアン・ウエストウッドの星空
愚痴を言うことの是非とは関係のないことですが、グッチ裕三さんは好きです。 たったいま、第6回笹井宏之賞に応募したところです。 何度も確認し、ついに観念して作品を送った直後の、妙なテンション。お分かりいただけるかと思います。 私の人生の恩人が推していた歌人(そして私も感銘を受けた)、笹井宏之を記念する新人賞。そして私の大好きな歌人たちに作品を読んでいただける新人賞。 短歌を始めたのが2021年夏。程なくこの賞のことを知り、毎年必ず出すと心に決めたのでした。 さて。短歌1年
地下深い玄室で核撃浴びてダイヤの騎士に試されている 伝説のダイヤモンドの騎士の試練総て乗り越えた先の暗闇 当世のダイヤの騎士は独りきり迷宮の奥を目指し戻らず 伝説の眠る迷宮で己がダイヤの騎士の伝説と化す 百年を経て若者が憧れを抱いて再び王都に集う 酒場へは近寄りもせぬ若造が宿にいる 荷物係をさせる 気に食わぬ偽善者どもだが腕は立つ三層五層は奴らに任す 四層で全滅しかけた奴はいう“生ける伝説”悪魔に遭った “生ける伝説”悪魔の呪いで石と化す仲間を救う決死の尼僧
岩倉曰さん(@wakuwakuiwaku)提供の付句お題100、やってみました。 付句はあまり経験がなく、楽しく挑戦させていただきました。 即詠がいいというわけではないのでしょうけれど、自分の抽斗や脊髄反射を試したいのもあり、即詠に徹しました。(所要時間は1首あたり50秒弱、または2分弱のいずれかというケースがほとんどでした) 陽の出ている時間か夜かで、作る歌の傾向が変わってくることが分かったのも収穫でした。 ともかく、2023ゴールデンウィーク後半5/4~5、とても楽しい時
先日、ちょっと落ちついた時間が持てた休日に思ったことを書きとめておく。 ■自分の中から生じたものを、信じぬく。 短歌をつくる。俳句をつくる。 思いつきでつくる。苦心してつくる。 毎月末を迎えて自選をまとめるにあたって自作を読みなおすと、作ったときの心の躍動が喪われていて、まったくつまらないものが並んでいる。いっさいの自信をなくし、心に不安が満ちる。 でも、 自分の中からつるつると引き出されて作品になったものは、自分の一部をちぎってこねて作った粘土細工みたいなものだ。仕
デスメタル八句 月岡方円 ____________________________ 絞り出すデスメタル未央柳かな 滝壺へブラストビートの過重力 知らぬ影朔日ごろの月独り 跫の病魔蟄虫戸を坏ぐ デスメタルなんて聴いてら立冬だ くだら野や貨物列車の遠き先 後悔を吼ゆる街路樹憂国忌 凍て風に月吹き散らす涙かな ____________________________ ♯1 CRYPTOPSY / Sire of Sin ♯2 NILE /