ずっと好きだった。 2
卒業してちょうど1年が経とうとしていた。
仕事にも慣れ、恋人もできて
私は学生の時とは違う私になっていた。
なのに、白川くんからの電話は
私をあの頃に引き戻した。
もしもし白川です。
うん、びっくりした。
どうして?
ちょっと三葉さんに話したいことがあって
今度会えるかな?
私はドキッとした。
なにも起きてないのに、
恋人にひどく悪いことをした気がした。
でも私は白川くんと会う約束をした。
桜がちょうど咲き終わって、
かわいい桃色の花を見送ったあと
美しく鮮やかな緑が溢れている季節だった。
彼に会うまで
私はなにをしていたんだろう?
きっと恋人にもあっていたと思うし
仕事もしていたと思うけど
なに一つ覚えていない。
もうすぐ白川くんが来る。
それだけで十分だった。
三葉さん
顔を上げると
私の大好きだった白川くんがそこにいた。
学生の頃とは少し雰囲気が変わっていて
髪も短くなっていたし
逞しくなっていたのがなんだかさらに照れ臭かった。
すこしだけ
賑やかな街を歩いて
日が暮れてはいたけど
どこかお店に入るには勿体無いくらい
気持ちの良い夜だったから
私たちは賑やかな街の音が遠くに聞こえる
静かな場所に座って
どちらからともなくまた話を始めた。
はるちゃんって呼んでいい?
白川くんは私の顔を見ながらそう言った。
もちろん。
私も白川くんを見ながらうなづいた。
そのあと、白川くんは私が予想もしてなかったことを
私に伝えてきた。
突然ごめんね。
でもどうしても伝えておきたくて。
学校にいるときは言えなかった。
でも今は、学校にいないし
お互い社会に出てるしだから勇気を出そうと思って。
どうしたの?
ずっと好きだった。
学校帰り、一人で帰ってるはるちゃんを見て
こんな子が学校にいるんだって思った。
気になって色々調べてたら
原と仲良しだったよね。
だからこっそり色々と
はるちゃんのこと聞いたりしてた。
番号を聞いたのも原なんだよね。
何が何だかわからなかった。
白川くんが私のことを好き?
なにが起きているんだろう?
原くんは私が学校でよく話す男の子で
性別関係なく一緒にいて楽しい子だった。
当然私が白川くんのことを好きなことも知っていたはずだし
白川くんが今私に話していることが本当なら
在学中も原くんは、白川くんが私に興味を持っていることを
知っていたはずなのに、何故言わなかったんだろう。
あとで原くんに聞いてみようと思った。
卒業前にさ、原にライブに誘われなかった?
記憶を辿ってそのことをすぐに思い出した私は、
あ、誘われた。
けど、直前で行くのをやめて断ったんだよね、私。
そう、それ、僕が誘ってって頼んだんだ。
でもはるちゃん来なかった。
その時に告白しようって思ってたんだけど。
え?そうなの?
夜も遅かったし、なんだか気が乗らなくて
後から原くんに結構怒られたんだよ。あの時。
部活休むみたいにドタキャンすんな。って。
え、原くんと話したりしてたんだよね?
じゃあさ、私がずっと白川くんのこと好きなのも知ってた?
うん、知ってた。
えーーっ言ってよー!!!
学校にいる時に言ってよー!!!
だって話しかけようとしたら
いつも逃げてたじゃん。
あっ。
そうだ、当時私は彼が眩しすぎて
近くにいるのがわかるとそそくさを隠れて
陰からこっそり見るという
なんともかわいいことをしたりしていたのだ。
一度だけ逃げそびれて
原くんの後ろに隠れながら
白川くんと話したことがあったのを思い出した。
当時流行っていたバンドのチケットが
手に入らないか?と聞かれたことがあって
どうしてそんなことを私に聞くんだろう?って
白川くんは私をからかってるんだろうか?と
結構深刻にそのときは悩んだりした。
だから、嫌われてるのかな?って思って
話しかけようとしても逃げられるし
話しかけても原に隠れるし。
だからライブにも誘ったりしたんだけど
来なかったし(笑)
あ〜
そうだったんだ。。。
私たちは微妙なすれ違いを
なんだかおかしく笑いあった。
それから時間を忘れて私たちは
ちょっとだけ早い夏の匂いを感じながら
お互いのことをずっと話をした。
私がずっと好きだった白川くんが
私を好きだった。
この事実は私の人生に大きな何かをもたらした。
衝撃なのか、プレゼントなのか
なんなのかはわからないけど
すごく大きくて、大事な何か。
白川くんが横にいるその時間は
全身を柔らかい何かで包まれたような
刺激的でほっぺの奥がキュウっとするような、
優しくて甘美な忘れられない時間だった。
チューしてもいい?
突然白川くんは私に言って
大好きな白川くんの顔が
わたしにそっと近づいてきた。
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