立方体の思い出 #毎週ショートショートnote
君と親しくなったのは小学生の時。きっかけは、算数の授業でした。あの日君は、黒板に向かうとあっという間に立方体の展開図を描き、展開図は全部で11種類ある事を説明してくれました。クラフト紙で立方体を作る課程になると、誰よりも美しい立方体を作ってくれた。あの日から君は、僕の憧れの人なのです。
やがて君は、中学の教師となりました。新入生の最初の授業では、いつも立方体の展開図の話から始めたそうですね。一枚の紙から立方体が立ち現れる瞬間に、多くの生徒が学ぶ喜びに気づいた事でしょう。
長い教員生活。そして定年後の悠々自適の日々にも、教え子達は悩み事を抱えて君を訪ねて来ました。そんな時はいつも白いクラフト紙を出し、黙って一緒に立方体を作っていたと奥様から伺いました。
君との別離にあたり、奥様と相談して白磁の箱を用意しました。君の遺骨をそっといれて、お別れしたいと思います。今まで僕らの憧れでいてくれてありがとう。さようなら。
本作品はamazon kindleで出版される410字の毎週ショートショート~一周年記念~ へ掲載される事についてたらはかにさんと合意済です。
(410文字)
たらはかに様の企画に参加させていただきます。
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