クリスマスカラス #毎週ショートショートnote
俺の仕事は、市電の洗車だ。ボディをブラシで擦り、高圧洗浄器で洗い流す。一日その繰り返しだ。
操車場の詰所には、車掌達が昼食に集まってくる。連中が残飯を与えるので、カラスも集まってくる。その様子を眺めていると、カラスは軒下に置かれた水の溜まった牛乳瓶に小石を落とし入れている。いくつか溜まると中の水位が上がり、水面に嘴が届くようになった。そして水面の何かを摘みとり食べはじめた。じっと見ていたら背後から「カラスは賢いよな」と、ベテラン車掌に声をかけられた。驚いて振り返ると、その目の奥がガラス玉のようで、俺は目を伏せた。
今年のクリスマスイブは大雪。電車はクリスマスの広告で飾られ、屋根に雪を載せると一層華やいで見える。
夕暮れ、車両が操車場に戻ってくると、屋根に一羽のカラスが止まった。雪の中、じっと佇んでいる。「クリスマスカラスだ」そう思った時、カラスと目が合った。「メリークリスマス」…声が聞こえたような気がした。
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