沈む寺 #毎週ショートショートnote
新年早々に半島を襲った大地震は甚大な被害をもたらし、地域住民は誰もが我が身の事で精一杯となった。
そんな中、地元の寺を気にかける男がいた。地震で境内は液状化、地盤沈下も激しい。このままでは寺は沈み、倒壊するだろう。「ご本尊の阿弥陀如来様をお助けしなくては…」男は思案に暮れていた。
数週間後…。早起きの住民が高台を散歩していると道端に大きな物を発見。よく見ると寺のご本尊、阿弥陀如来様ではないか…。やがて集まった人々が大騒ぎする中、阿弥陀様にじっと手を合わせていたおばあさんがぽつりと言った。「よう逃げてきなさったな…」仏像が自分で逃げるはずはなかろう…しかしその場にいた人々は皆、「本当によく逃げてこられた」「ご無事で何より」などと同調し、「早く仮のお堂をお作りしなくては」などと話し始めた。一人、ある少年だけが「朝早くおじさんたちが仏様を運んでいるのを見た」と言っているのだが、大人たちは誰も取り合わないのだった。
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