心お弁当　#毎週ショートショートnote

　弁当屋「心お弁当」は、夫婦二人で開業して10年。栄養バランスにこだわった弁当を売りにしてきた。だが店の近隣に弁当チェーンが出店、コンビニも増えて経営は厳しい。
夫婦には子供がいたが仕込みで忙しく、いつも「手作りだけが愛情じゃない」と言いきかせて売り物の弁当を持たせていた。
　その朝もいつものように売り物の弁当を手渡していたおかあちゃん。その時はたとひらめいた。「ねえアンタ、これでいこう！」
　やがて店頭にはためくのぼりに「お弁当を作らなくてもよい日」の文字。お客に手渡すチラシには「手作りだけが愛情じゃない！忙しいお父さんお母さん、お弁当作りを休む日があってもいいんじゃない？」とあり、前日弁当箱を持ち込めば翌朝中身を詰めてお渡しします、と案内されていた。
　この「弁当代行」は街の話題を呼んだ。あまり注文は入らなかったが、弁当屋の姿勢に共感したお客さんが立ち寄ってくれることが増えたのは夫婦にとって嬉しい誤算となった。

（410字）

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