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M-1グランプリが好きなプログラマーが多いのはなぜか?

私の知る限りでいえば、優秀だなと思うプログラマーさんには笑いが好きな人が多いと思う。エンジニアジョークというものも昔からあるし、下らない与太話が大好物というプログラマーもよく見る。

そして、ここ日本は漫才、落語、漫談、コントなどの多彩な笑いのフォーマットがある世界屈指のお笑い大国である。

特に漫才や落語・漫談は、「話芸」とも呼ばれるように、会話を中心とした言葉と論理(+演技力)によって笑いを生み出す芸能である。この言葉と論理という部分にプログラミングとの共通点がある。

言うまでもなく、プログラマーの仕事も言語と論理を駆使するものである。プログラミングをやっている時は、とにかく朝から番まで言語と論理のことばかかり考えているといっても過言ではない。

プログラミング言語はもちろんのこと、図形言語や自然言語なども使い、システムの構造や、要求仕様とアルゴリズムの論理的整合性などに神経をとがらす。わずか1ビットの誤りがあるだけでも、システムの不具合につながるので気が抜けない。それゆえ、プログラマーは言葉や論理に非常に敏感な体質になってしまう。

逆に、プログラマーとして生きていくためには、言葉や論理が好きでないとやっていられないとも言える。よいクラス名や変数名を決めるために何時間も悩んでみたり、システムを美しい論理構造にするために試行錯誤を繰り返す。そういったマインドセットを持ったプログラマーにとって、漫才などの話芸は逆説的な快感をもたらすのではないか。その仕組みを以下で説明してみる。

落語なら一人、漫才なら二人以上で演じるという違いはあるが、日本の話芸で演者が笑いが生み出すための基本的な仕組みはだいたい似ている。

まず演者は「フリ」と呼ばれる、ストーリーのイントロ部分で観客に前提となる世界観や条件を提示する。このフリによって、そこから期待される「普通なら次にこういう展開になるだろう」という観客側の論理的な予想が作られる。

次に、演者は逆に予想されるであろう展開に対してズレていたり飛躍していたりする話(これを「ボケ」という)をする。観客は予想を裏切られるので「え?どういうこと」という疑問や違和感を抱く。そこですかさず演者は「ツッコミ」という訂正(ないしはボケに対する説明+訂正)を入れる。これにより、観客は違和感が解消されそれが笑いにつながるのである。(もちろん実際には、ボケのテイストや予想からの距離感、ツッコミの間やそこでのワードセンス、そして演技力などの要素が複雑に連動して、観客が笑うか・笑わないかが決まり、そこに演者やネタ作者の技量が問われる。)なぜ違和感が解消されると脳は笑うのか、についてはよく分かっていない。今後の研究が待たれる。

この笑いの仕組み、すなわち「フリという前提条件に対して、ボケる=条件から逸脱する論理をひたすら展開する」という部分が、プログラミングとは真逆となっている。プログラミングでは前提条件を満たし、論理的に整合したソフトウェアを作ることが第一の目的だからだ。だからだろうか、論理からの逸脱・飛躍を巧みにやってのける話芸を見聞きすると、プログラマーは、脳内の言語や論理を扱う部位が激しく刺激されるような快感を覚えるのではないか。(少なくとも私はそうである。)

さらに興味を惹かれるのが、話芸の絶えざる進化である。特にM-1グランプリがスタートして以降、漫才ブームが続いており、多くの若く才能のある人たちが漫才師を目指すようになった。必然的に非常に激しい競争環境が生まれ、各芸人さんも他の芸人さんとの差別化のため、多種多様なネタの内容・形式や技術を開発しつづけている。この絶えず進化しつづける技術という部分も、常に技術革新と向き合っているプログラマーの興味を引く部分であろう。

実際、上で説明したようなボケとツッコミの基本形だけで勝負している芸人さんは今や少ない。

たとえばフリの進化。演じている場所や周囲の環境をフリに使ったり、先に演じた芸人のネタをフリに使ったり、というのは昔からある。最近では「漫才の構造自体をフリに使う」といった、メタなネタを演る芸人さんもいるぐらいである。たとえば「ボケたらツッコむものだ」という常識をフリにして、ボケてもツッコまないというメタな「ボケ」を使う、などである。

これって、どことなくプログラミングにおける抽象化やメタプログラミングに似ていないだろうか? お笑いとは真逆の目的だが、常に言葉と論理を使う仕事をする者として、似たような発想が見えるのはなんだか嬉しい。

他にも、たくさん進化パターンがあるが、とても書ききれないので省略。

などと言っているうちに、今年もM-1の季節がやってきた。決勝進出者も決まったようだ。どのような新しい「言葉と論理の仕掛け」が展開されるか楽しみである。




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