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スカイリムプレイ日記~狩人ちゃん~ #88

こちらの続きです


リフトの従士①


リフテン水産

 ムジョルさんたちと別れ、リフテン水産のヴィリヤさんに会いに来ました。
「こんにちは。何か釣りの仕事を……ん?」
 ヴィリヤさんの足元に、何かいます。よく見るとマッドクラブの幼生でした。私が捕獲したカニの幼生はすっかりヴィリヤさんになついているようです。
「スニッピーだ」

スニッピー…

「順調に育っているようですね」
「そのようだ」
 いつものように仏頂面のまま、手紙を渡されました。
「行き先はホワイトランだ」
 手紙を読むと、ホワイトランのミラ・ヴァレンシアからの依頼書です。ミラはたしか、街を走り回っていた女の子です。
「金魚ですか。ペットにでもするんでしょうか」
 ヴィリヤさんに笑いかけてみましたが、無駄話をするつもりはないとばかりにマッドクラブの生態を観察を始めてしまいました。

子供からの依頼も受けてるのか

 リフテン水産の事務所に立ち寄ると、ウジータという従業員のアルゴニアンがただならぬ様子で声をかけてきました。
「力を貸して。リフテン水産の仕事を失いそうなの」

どういうこと?

「リフテン水産の仕事を辞めさせられそうなの。またこんな状態で職場に来たらクビにするって、社長のボリーに言われたわ。こんなんじゃダメだって思ってるけど、どうしようもないの。1年前、ちょっとスクゥーマを試してみたら、もうやめられなくなってしまって!」

スクゥーマ中毒かぁ

 スクゥーマといえば、依存性の高い違法薬物です。一度ハマるとなかなかやめられない上に、精神を蝕み、日常生活にも支障をきたす代物として忌避されていますが、常に人々の生活の影に潜み、心の隙を狙って誘惑するのです。つい最近ファルクリースでスクゥーマ常習者の衛兵に痛い目を見せる仕事をこなしたばかりなので、ここリフテンでスクゥーマ中毒に悩めるアルゴニアンがいたところでそう驚くこともありません。

「治療薬をくれたら、毒を体から取り除いて、人生をやり直せるわ」
 そう簡単なものならわざわざ法規制されることもないと思うのですが、真面目にここで働きたいという彼女の心を折り、さらに追い詰める理由もありません。荷物から治療薬を取り出して渡すと、瓶を握りしめ、
「この親切は決して忘れないわ」
そう言ってダイヤモンドの指輪と回復の薬をくれました。ありがたくいただくことにします。

「スクゥーマですか。……実際どうなんです?」
「原料は分からないけど、一度口にしたら、他のものには目もくれなくなる。大昔にダンマーが最初に作ったの。法で禁じられているし、手に入れるのは難しいでしょうね。ソリチュードの商船で経験したけど、人生最大の過ちだったわ」

後悔しますね

 怖いですね。『何事も経験』『みんなやっている』などという口車に乗って、戻れなくなった人たちがたくさんいるのでしょう。一度ハマるとやめられなくなり、売人に金を搾り取られるうえ、神経への作用で仕事はままならなくなり、スクゥーマを買う金のために裏の世界に身を落としていく……
 悪事へ加担する様々な理由のうち、スクゥーマは無視できない割合でシェアを広げていることでしょう。スクゥーマ中毒者が増えれば増えるほど、そのマーケットは広がってしまう。そしていずれ子供たちも……

「スクゥーマは、どこで手に入れたんですか?」
 ただの興味本位として聞こえるよう問いかけますが、ウジータさんは顔色を変えて首を横に振りました。
「言うわけにはいかないの。だって殺されちゃうわ」
 警戒するのも当然でしょう。彼らのやり口はそういうものです。だからこそ、ウジータさんは話さねばならない。薬を絶つためには、供給源を破壊するしかないのです。
「私はあなたに貸しがあるはずですが?」
 ウッと口を結び、逡巡したあと、周りをしきりに気にしながら小声で教えてくれました。
「サルティス・アイドレンからスクゥーマを手に入れたの。彼はリフテン倉庫に精製施設のようなものを持っているわ。」

リフテン倉庫に?

 ウジータさんによれば、戦争が始まってから厳重に鍵をかけているらしく、中には入れないそうです。しかし首長が倉庫の鍵を所有しているのだとか。とりあえず首長に話して鍵を借りる他ありませんね。

「サルティスとそこで会う時、彼はいつも護衛と一緒に外で待ってたわ。気を付けてね」
「わかりました。ウジータさんはこれからどうするんですか」
「もしスクゥーマの中毒じゃなければ、とっくにこの恐ろしい街を出てたところよ。持っていたゴールドも全部なくなったし、さあ、一から出直しだわ。二度とスクゥーマには手を出さない。ハチミツ酒を時々飲むくらいなら害は無いと思うけど…」

こらこら

 こんどはハチミツ酒中毒にならなければいいのですが。ゴールドなしで気ままに飲むのを許されるのは、カイネスグローブのロッジさんくらいですよ。
 真面目に仕事をして、つつましやかな生活を楽しんでもらいたいものですね。私が言うのもなんですが。

お大事に。

ミストヴェイル砦

 リフテン首長であるライラさんと話をしにミストヴェイル砦へやってきました。正直なところ以前面会した際には、その政治手腕の愚鈍さにがっかりしたものです。

 私がスクゥーマの製造ルートを壊滅させる話をしたところで協力してくれるのか懐疑的ではありますが、それでもやるだけやってみるしかありません。しかし、断られたら不法侵入か……陰鬱とした気持ちになりながら広間へ入ると、首長や執政達は食事中でした。

 食事を終えるのを待っていると、首長がおもむろに立ち上がり、私兵の男性に話しかけました。 

暗いなぁ

「アンミッド、街を見て回りたいの。護衛を用意してちょうだい」
 おや、ライラさんは視察する意欲があるようですね。これは意外です。きっと外に出てリフテンの現状を目の当たりにすれば、さすがに自分がなすべき事がわかるでしょう。

そうせい

 しかし護衛の男、アンミッドさんは、食事の手を止めず、立ち上がりもせずに答えます。
「あなたを殺そうと機をうかがっている帝国の密偵がいるかもしれない。そんな危険を冒すつもりですか?」
「いいえ。もちろんあなたの言う通りよ。アンミッド。今はここにいる事にするわ」
 なんと、これでは私兵ではなく看守です。このアンミッドという能無し無駄筋肉男は、自分の仕事の難易度を上げないよう、脅迫まがいのことを言って首長を砦に軟禁しているようにしか見えません。それに屈服する首長も首長ですが。

 ライラさんはここで仕事をすることに決めたらしく、今度は執政に話しかけます。
「この街に、スクゥーマという名の毒があるかもしれないんですって。何か知ってることはある?」

おや

 スクゥーマの件が首長の耳にも入っているのですね。これは朗報です。
 しかし執政のアヌリエルさんは、朗らかに答えました。
「たぶん、それは帝国が嘘をついたんだと思う。あなたには統治能力がないと国民に思わせるためにね」

はぁー?

 そんなわけがありません。実際にスクゥーマはリフテン倉庫で精製され、リフテン住民を苦しめています。首長はともかく、執政ならそれぐらいわかっているはずです。
「最高ね。だったらもう止めるために資源を投入することもないわ。ありがとう、アヌリエル。もう大丈夫よ」

はあああああああああ?

 何が最高だと?何が大丈夫だと?この首長、この執政は、この護衛は一体なんのために存在しているのでしょう?この砦は一体なんのための石の塊なのでしょうか?機能していないどころか、腐りまくっています。この街の腐臭の根源はこの砦だったのです。
 
 ライラさんが玉座に向かう途中で、街の権力者、メイビン・ブラック・ブライアが首長の前で腕を組んで話しかけました。首長が着席する前に足を止めさせ立ち話とは、完全に舐めくさった態度です。

 メイビンは自分の貨物がキャラバンごと帝国軍に奪われた話を持ち出すと、「衛兵が必要とされる保護義務を怠った」などとのたまい、リフテンに損害賠償を求めました。ライラさんも衛兵を3人失ったと言い返しますが、聞く耳を持ちません。
「工面できなければ、ブラック・ブライアのハチミツ酒も作れません。」
 リフテンからブラック・ブライアのハチミツ醸造所が撤退すれば、すでに傾いているリフト要塞の経済が完全に破綻するでしょう。
 ライラさんは言葉を詰まらせ、力ない声で
「足りないのよ…」
 とこぼしました。

ライラさん…

 メイビンは恥をさらした首長に言い聞かせるように、しかし冷酷に伝えました。
「ライラ、リフテンが私の故郷とはいえ、当ハチミツ酒醸造所の安全が確保できないというのであれば、移転せざるをえなくなるのです」
 ライラさんは拳を握り、そしてまっすぐにメイビンを見て頷きました。
「それは必要ないわ。損失の埋め合わせはする」

そういうしかないよなぁ

 答えに満足したメイビンは「感謝しますよ、ライラ」と言い放ち、その場を離れました。

 こうしてみていると、ライラさんは彼女なりに首長として仕事をしようという意志を感じます。しかし周囲の人間によってそれを阻まれ、利用されているような印象を受けました。

 疲れ切った様子で玉座に腰かけたライラさんは、私を見るとまるでやけくそのように促しました。
「何か言って。部下の言いたい事は全部聞きたいの」

大丈夫?

「えっと、リフテンでスクゥーマの売人を見つけたんです…けど…」
 そんなことを言ったところで帝国軍の嘘だなんだとあしらわれるのではないかと身構えましたが、
「ええ、残念だけど、サルティスが倉庫にいる事は分かってるの」
「へ?」
 どうやらすでに、スクゥーマ製造売買について手を打っていたようです。

……だとしたら、さきほどのアヌリエルさんとのやり取りは、一体なんだったのでしょうか?

「残念ながら、衛兵の誰かが情報を漏らしているのは間違いないわ。何度捕まえようとしてもいつも逃げられてるのよ。慎重に対処すれば、不意打ちを食らわすことができるかもしれないわ」
「わかりました。やってみます」
 ライラさんは我が意を得たり、という表情で、”倉庫の鍵”を渡してきました。
「毒の販売人のところに立ち寄って、業務を停止するよう説得してみてちょうだい」

”説得”ね…

 ライラさんの意外な一面に驚きながら、砦の出口に向かいます。その道中で私兵のアンミッドがこちらに目を光らせ、「首長に近づくなよ」などと失礼な口を訊いてきたので、足を止めて対峙しました。

「あなたが首長を守っている、ということですか?」
 真意は皮肉のつもりですが、当然彼には通じません。
「その通りだ。これまでも首長の命が狙われる事件があった。相手が闇の一党なのか、それとも単に帝国軍の支持者なのかは不明だ」

そうなの?

「さらに、我々警護の弱みを調べようとする密偵との争いもあった。町の衛兵と協力して、諜報を阻止する努力をしている」
 どうやらライラさんが何度も危ない目にあっていたのは事実で、その首謀者が不明なだけに、アンミッドとしては彼女の命を第一に考えて砦から出ないという策を取らざるを得なかったようです。

「つまるところ、首長を守る最後の砦が自分だ。必ず彼女を守ってみせるさ」

 彼の言葉には嘘はないように感じました。その信念がリフト要塞の困難な政治を滞らせているのは間違いありませんが、私兵として首長の命を守るため、なるべく外に出ないよう伝えるのは当然ともいえるでしょう。それを飲むか、突っぱねるかはあくまで首長の判断です。
 事情を知らずに『能無し無駄筋肉男』なんて脳内で罵倒するなど、軽率なことをしてしまいました。心の中で謝罪しながら、砦を後にしました。

がんばってね

 人の心は複雑で、それらが絡み合う組織というものの様相は奇々怪々です。外側から中を覗いたその狭い視野だけでは、全貌の一部すら認識することができません。
 中に入り込み、飲み込まれてからでないと見えないことばかりで、『わかった』時には既に絡め取られて身動きが取れなくなっている。そんなものです。

 だから私はあくまで旅の狩人として、このスカイリムを自由に飛び回っているのかもしれません。身動きがとれない網目の間から、救いを求めて伸ばされる手を握るために。

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