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#69 静寂なる深海都市

深海都市はとても静かで暗かった。

メインとなる道の街灯しか頼るものがなく
時折、光の向こうで大きな何かの影
ゆっくりと通り過ぎるような
気配がしていた。

雪が舞うようにプランクトンのような
小さな白いものが
街灯の近くだけはっきり見えた。

他に見えるものと言えば
街灯に照らされた平らな道と
石造りの建物たちだったが
その輪郭はぼんやりとしか見えなかった。


ほとんどの建物には人の気配はなく
開きっぱなしのドアや窓の中は
建物の外と内の違いがないようだった。

どこもかしこも
海藻やひび割れ、欠けがあり
まるで数百年も前に
沈んでしまった都市
だった。


30mほど進んだ右手に
建物の中から漏れている光があった。

その建物のいくつかの窓にはガラスが
きちんと備わっていた。

建物に近付くと
建物のすぐ前に標識のようなものを見つけた。

【深海生物研究所】と書かれていた。

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低い二段の石段を上がって
扉のない入り口をくぐると
すぐ目の前に幅2m強の壁があり
左右に道が分かれていた。

なんとなく右側へ進み、
壁の裏を覗き込むと
ぼんやりと漏れていた灯りが
一段と明るくなった。

左から進んでも同じようで
また入り口のようになっていて
同じように幅2m強の壁があった。


今度の壁の裏は非常に明るく
いくつかのベンチの奥に
受付のようなカウンターがあった。

カウンターには
赤茶色のロングヘア―の女性が
何か作業していた。

私は恐る恐る近づいて、声をかけてみた。

「すみません…」

「わぁ!びっくりしたぁ!」

女性は驚いて顔を上げ、
慌てた様子で咳ばらいをした。

赤茶色のナチュラルウェーブの髪が
深海の水の中でゆらりと揺らいだ。

「えーと…
本日はどのようなご用件でしょう?」

急にかしこまった口調になった。

「えっと、、、
Cedricという方はいらっしゃいますか?
お渡ししたいものがあるのですが。」

「あぁ、Cedricね!少々お待ちを!」

明るく答えたその女性は
近くを泳いできた小さな魚に何かを囁き、
その魚は奥の階段の方へ
スーッと消えていった。


カウンターの女性は
ニコニコしながら私を見ていた。

数十秒後、
同じ魚と思われる小さな魚が戻ってきて
女性に向かって口をパクパクし、
またどこかへ泳いでいった。

「Cedricはすぐこちらに来られるそうです。
良かったら、お好きなところに
お掛けになってお待ちください。」

そう言いながら髪をかけた耳は
不自然にとがっていた。

「あ、ありがとうございます。」

私は近くのベンチに腰掛けた。


1分ほどした頃、
奥の階段から白衣を着た背の高い男性が
駆け下りてきた。

その男性は一度私に目をやった後、
他の誰かを探すようにキョロキョロしていた。



これが静寂なる深海都市
踏み入れた時のおはなし。
続きはまた次回に。


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