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夏目漱石のせいで月が綺麗だねと言えない

何度めかの人生の分岐点を通り過ぎたばかりの私は
地元から電車で3時間かかるところでひとり暮らしをしています。

今まで知り合った友達は私と同じようにひとり暮らしをしていたり、地元に残って実家ぐらしを続けたり、誰かとルームシェアをしたり。

それぞれ楽しそうでなにより。でもそのほとんどが人伝に聞いた話です。実際にまだやり取りしている友達なんてごくわずか。そんなものですよね。

高校はまだしも中学校の友達で今も関係が続いている人は、思いつく限りは2人。

そのうちの1人は男の子です。彼とはラインでしか話さないけれどなんだかんだ1番ラインしています。
会話、と言っていいのか微妙なやり取りが繰り返されていて、例えば

その日食べた料理の写真
面白い動画のリンク
空の写真
どうでもいい疑問
その日学んだこと

などを一方的に送りつけ、満足するというもの
既読無視が基本です。日記のような、機械のような関係が成り立っています。

中でも私がよく送るのは空の写真。今住んでいるところは本当に田舎で、畑と田んぼと川で溢れています。車を持たない人には住みにくく実家に帰りたいと思いながら過ごしていた4月、唯一空の綺麗さには毎日感動していました。田舎だからね。

写真を撮る趣味はないのだけれど、頻繁に撮って彼に送っています。
これは朝焼けでしょうか、夕焼けでしょうか
というクイズを出して、忙しない日々を送る彼の、空が綺麗だと思う人間的本能を忘れさせないようにしているのです。彼はよく飯テロをしてくるので仕返しもかねて。

私は早朝5時から働く日が多いので夏は朝日を見ながら自転車を漕ぐという贅沢な時間がありました。今はすっかり夜も同然。朝まで月が居残りしてくれることもあります。

そう、問題は月です。

月が綺麗だねと聞いて思い浮かぶのは満月ですか?
半月ですか?

私は半月が思い浮かぶけれど人に伝えたくなるのは満月のときです。
満月の日のたびに私は頭を悩ませます。
月が綺麗だねと言っていいのだろうか、と。
変な意味に捉えられたくないし、でも今さら弁明するのもなんか違うし…。

月の周期を調べ、満月に頭を悩ませるなんて私と狼人間くらいでしょう。

綺麗、という言葉を使わなければいいのではないか
と思い毎回異なる言い方で紛らわしています。
例えば、

今日の月切り絵みたい
月美味しそうだよ
今日の月の色、名前つけて後世に残そう
円周率求めたくなるくらいまんまるな月

とか。
変な文章ですね。
こうしてどうにかその日の月の具合を伝えているのですが、そろそろ私の語彙力が追いつかなくなってきます。

相手は知的な人なのでインターネットで調べた難しいお洒落な言葉も理解してくれそうですが、調べてしまったら負けな気がしてしまって。

どれもこれも夏目漱石に責任があります(?)
責任転嫁にも程がありますが話を進めましょう。

そう、月が綺麗という事実を伝えたいだけなのに
I LOVE YOUが脳裏にちらつくのはよろしくないです。

純粋な自然に対する感動をどうして邪魔してくれようかと思うわけですが、普通はこんなこと気にしないのでしょうか?

私がひとりで気にしているという説も十分にあります。なので次の満月ではそのまま思ったことを伝えてみようかなと思うのです。

しかし私には前科があるので(以前別の男の子と心中について話し合っていたときに、相思相愛の中にある男女という最も大事な条件を忘れて相手に変な誤解をさせてしまったことがあります)、細心の注意をはらって伝えることにしましょう。

そして次の満月は5日後だそうです。
楽しみですね。

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