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【第三弾】ABC理論 :情動と感情を理解してケアに活かす方法


はじめに

介護の現場では、利用者さんの「突然怒り出す」「寂しそうにしている」といった心の動きに触れる機会が多いです。その背景には、瞬間的な反応である情動と、長期的に続く感情が影響しています。これらを正しく理解することで、利用者さんの気持ちに寄り添ったケアが可能になります。さらに、心理学のABC理論を活用することで、感情や行動の流れを整理し、より効果的な支援につなげることができます。

今回の記事では、情動と感情の違いをABC理論を通じて整理し、具体的なケア方法を解説します。

情動と感情の違いを理解する


情動(Emotion)とは?

情動は、外部や内部の刺激に対して瞬間的に生じる反応です。たとえば、突然の物音に驚いたり、予期しない出来事に怒りを覚えたりすることが該当します。情動は短期間で発生し、生存本能に基づいた身体的な反応を伴います。
• 特徴
• 瞬間的かつ短時間で終わる。
• 心拍数の上昇、筋肉の緊張などの身体反応が伴う。
• 自動的・無意識的に発生する。

感情(Feeling)とは?

感情は、情動をもとにして生まれる、認識や意味づけを伴った主観的な体験です。「寂しい」「嬉しい」「安心する」といった感情は、情動よりも長時間持続し、個人の価値観や経験に影響されます。
• 特徴
• 長時間持続することがある。
• 考え方や認識によって変化する。
• 身体的反応を伴わない場合もある。

ABC理論で情動と感情を整理する


ABC理論とは?

ABC理論では、人の感情や行動が以下の3つの要素で構成されると考えます。
• A(Activating Event):出来事や刺激
• B(Belief):その出来事に対する信念や解釈
• C(Consequence):その信念に基づく感情や行動

情動と感情をABC理論に当てはめると、情動は「A(出来事)」に直接反応するものですが、感情は「B(信念)」を通じて形成されることが多いです。たとえば、突然の大きな音に驚く情動が生じた後、その音を「危険」と解釈するか、「偶然」と解釈するかで、その後の感情が恐怖になるか安心になるかが変わります。

介護現場での具体例


ケース1:突然怒り出した利用者さん

状況
利用者さんがスタッフに対して突然怒り出し、大声をあげました。

ABC理論で整理する
• A(出来事):利用者さんが不快な刺激を受けた(例:スタッフの声が大きかった)。
• B(信念):利用者さんが「無視された」「尊重されていない」と感じた。
• C(結果):怒りが生じ、その感情が持続している。

対応方法
まず、「A」に注目して情動を落ち着かせます。
• 「驚かせてしまいましたね、大丈夫ですよ」と声をかけ、安心感を与えます。
その後、「B」に働きかけます。
• 「どう感じましたか?」と利用者さんの気持ちを聞き取り、誤解があれば修正します。
この対応によって、怒りの感情が和らぎ、利用者さんの信念がポジティブな方向に変化する可能性が高まります。

ケース2:寂しさを訴える利用者さん

状況
利用者さんが「最近ずっと寂しい」と話しました。

ABC理論で整理する
• A(出来事):家族との接触が減った、社会的な孤立を感じる機会が増えた。
• B(信念):利用者さんが「誰にも必要とされていない」と考えている。
• C(結果):孤独感や悲しみが感情として長く続いている。

対応方法
「A」に働きかけるため、新しい出来事を提供します。
• デイサービスや趣味活動を提案し、孤立感を減らします。
「B」に対しては、信念をポジティブに変えるサポートを行います。
• 「あなたのことを気にかけている人がたくさんいますよ」と声をかける。
これにより、利用者さんの感情が和らぎ、寂しさから解放されるきっかけを作ることができます。

ケア現場での活用ポイント


1. 情動に即座に対応する
怒りや恐怖といった情動は瞬間的に生じるため、利用者さんが落ち着ける環境を作り、安心感を与えることが優先です。
2. 感情には寄り添いと信念の変化を促す
寂しさや悲しみといった感情は、個人の考え方や価値観に基づいています。利用者さんの信念を理解し、それをポジティブに変化させるような関わりが効果的です。
3. ABC理論をケアプランに活用する
利用者さんの出来事、信念、結果を整理することで、感情や行動の背景を深く理解し、ケアプランを作成する際の参考にすることができます。

まとめ:ABC理論で情動と感情に寄り添うケアを


情動と感情の違いを理解することは、利用者さんの心理状態を正確に把握し、適切に対応するための第一歩です。ABC理論を活用することで、出来事、信念、感情や行動のつながりを整理し、個々の利用者さんに合わせたケアが実現します。情動には迅速に安心感を、感情には寄り添いと信念の変化を。それが利用者さんの心を支えるケアへとつながると、日々現場で実践をしています。この記事が参考になれば幸いです。

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