雷と黒猫と記憶喪失の夜
こんばんは。今日もお疲れさまでした。
小学生だったある日、私は飼っている黒猫を自転車で動物病院に連れて行きました。空は薄暗く、帰る頃には雨が降り出していました。病院のスタッフは、親に迎えに来てもらったら?と言っていましたが、今まで一度も「雨」という理由で迎えにきたことのない親に私は電話をせず、一人自転車の後ろに黒猫を入れたケージを括り付けて家路を急ぎました。
家まで、後5分というところで、空はドス黒く、雷が鳴り始めました。黒猫は濡れる事を嫌がり、大きな声で鳴いています。
家に向かう道路沿いの坂道を登っている時です。雷が鳴っているのがわかりました。
そして、目が覚めたら私は坂道の側の草っぱらに寝転がっていました。体中が痛いです。ずぶ濡れです。自転車は黒猫のケージが荷台に括り付けられたまま、すぐ側に佇んでいます。黒猫は激しく鳴き続けていました。
私は訳が分からず、とりあえず急いで家に向かいました。そしてまた記憶がなくなりました。
次に目を覚ますと、自宅のベッドの中で布団を被って寝ていました。体中が痛くて、ガタガタと震えています。熱でもあるのかと思って、体温計に手を伸ばしますが、熱はありません。すでに夜はかなり深くなっていました。廊下を挟んだ居間では、家族の笑い声がきこえます。
母が食事を摂るのか聞いてくれましたが、私は食事をとらず、ただ震えて眠りにつきました。
翌日、私は元気になりました。全身はなぜか痛いままですが、震えたりはもうしていませんでした。父に話を聞くと、ずぶ濡れで自転車に黒猫のケージを括り付けたまま、私は普通に帰って来たのだと言います。父に会った事だけうっすらと思い出しましたが、どうやってベッドに入ったのかが思い出せません。
黒猫はケージに入っていたので、濡れる事なく家でぬくぬくといつも通りに歩いていました。
雷が鳴っていたので、雷に打たれたのかもしれないと、新聞で雷が落ちたニュースがないかを調べましたが、全くどこにもありません。誰に聞いても、あの日、落雷はないと言います。
私の記憶は、体が冷えた衝動で一時的にいなくなったのかと思いましたが、未だに帰ってきません。そして、あの夜の体の痛みを思い出したのは、数年前に誰かと体を重ねた翌日でした。
あの夜の記憶は誰も知りません。きっと黒猫だけが知っていましたが、彼女はニャーとしか言わず、この世界をすでに旅立ってしまいました。あの夜の記憶は、いつか私に戻って来るのでしょうか?雨の夜に月に尋ねるのです。おやすみなさい。