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タンバリンを叩く赤い彼女の夜

こんばんは。今日もお疲れさまでした。

幼少期、私は南の有名な温泉街で過ごしました。その街では掘ればどこでも温泉が出るので、家にお風呂を持つ人も少なく街の至るところにある温泉に行くのが日課でした。

その夜、母は赤ん坊の妹とどこかに出かけていました。私は父と温泉に行って、父の友人が経営するスナックへ行ったのです。

あの当時、小さな子どもを連れて繁華街に行っても、誰も咎めることはありませんでした。近くには、キャバレーもポルノ映画館もありました。賑わうあの街では商店街も夜遅くまで明るく、楽しい様相でした。

お風呂あがりの子供の私に、父の友人はコーヒー牛乳をこしらえて飲ませてくれました。トマトスライスやチーズ、銀色の紙に包まれたツナピコをつまみに私はさくらんぼが添えられたオレンジジュースを飲んで一人で静かに過ごしていました。

その時、彼女が現れました。赤いタイトなドレスに、真っ赤なルージュ、ふわふわとしたソバージュが似合う女性でした。彼女はお店の従業員で、ほとんど声を発しませんでした。

私は、父がスナックのお客さんたちを話をしている間、もらったおつまみを食べることしかできなかったので、ずっと彼女を見ていました。彼女は、自分の母とも自分の周りにいるどんな女性とも違いました。

声を発することもほとんどなく、誰かがカラオケを始める度にやる気のないタンバリンを叩いていました。それが、私の声よ。とでもいうように、規則正しく、その役は絶対でした。

彼女は誰ともほとんど話さず、テキパキとお酒を注いだり、グラスや灰皿を片付けていました。お店のマスターも、野暮に私の相手を彼女にさせることはありませんでした。そのお店の中で、赤い彼女の存在は不思議でしたが、赤いベルベット風の生地が貼られた椅子を揃えたこのお店に一番ぴったりだなと小さな私は思ったのです。

今はもうあのお店もありません。あの街もかつてのような華やかさはなく、シャッター街となった後、多国籍商店街へと変貌を遂げようとしています。

今もたまにあの慣れ親しんだ街を訪れます。子どもを連れて、あの繁華街の側を通ると、彼女がどこかにいるのではと探してしまうのです。もしかしたら、憧れていたのかもしれません。赤い服も口紅も私には今でも特別な存在なのです。

タイムスリップできるなら、彼女をもう一度あのキラキラした街で眺めていたいと思います。おやすみなさい。

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