ハイジャックする女の子の夜
こんばんは。今日もお疲れ様でした。
私が通っていた小学校の側には、児童養護施設があり、その施設の子どもが多く通っていました。私がお友達になった彼女も、その施設から通う一人でした。
細くて、サラサラの短い髪に、男の子の服が、綺麗な彼女の顔によく似合っていました。彼女には、児童養護施設以外にも、毎日帰れる家がありました。鉄筋コンクリートのそのマンションに、私もよく遊びに行きました。
彼女は、お父さんと二人暮らしでした。お父さんが夜勤になる事も多いから、児童養護施設にも通っているのです。彼女のマンションのダイニングには、いつも何もありませんでした。果物もお茶のポットも、麦茶も、使われた形式がある炊飯器も。いつも遊びに行くと、お水を出してくれるのです。
「女はいつもいるんだよ。でも続かなくて、すぐ出ていっちゃうだけで。先生もそうだった。」
彼女のお父さんはいつも彼女を連れてくると言っていました。そして、彼女たちは、いつも私のお友達のお母さんになろうとしてくれるらしいのです。でも、それはいつも数ヶ月です。お父さんの彼女が、私のお友達をいじめるわけではありません。ただ、彼女たちはすぐに去ってしまうのです。
児童養護施設の先生も彼女のお父さんとお付き合いをして、数ヶ月、この家に住んでいたと言いました。でも、最後は泣いて出ていってしまうのです。
子どもの私には、それはいつも非道いことのように思いました。お父さんが恋に落ちても数ヶ月で冷めてしまう事はよく理解できませんでしたが、彼女が傷ついている事だけがよく分かりました。
ある夕方、彼女は、私の家をハイジャックしました。しょっちゅう、私の家に遊びにきていた彼女は、私がいない時も遊びに来て、私の妹を人質に、玄関の扉越しに「ハイジャック」宣言をしたのです。何がしたかったのかは今もよく分かりません。でも、彼女は、私の妹以外の家族を締め出しました。
大人の言うことなど聞かない彼女を何とか説得して、家を開けてもらい、私たち家族は家に入りました。私の母親は呆れて、彼女を怒ったり、学校に電話をしたりしませんでした。ただ、静かな声で「気が済んだなら帰りなさい」と言っただけでした。
すでに夜になっていました。彼女は何故かスッキリした顔をして、ひとり夜の道を帰って行きました。母が夕飯の為に炊いたご飯を彼女は一人で食べたので、お腹がいっぱいだったのかもしれません。
翌日も、彼女はいつも通りでした。でも、何故かとても楽しそうでした。
あの夜、彼女がどんな夜を過ごしたのか、私には想像もつきません。XーJAPANのCDでいっぱいなあの部屋でひとり過ごしたのか。お父さんと一緒に過ごしたのか。その彼女がご飯を作ってくれたのか。何も知りません。
今でも、自分の事を秘密にしている男性の肩に寄りかかっている時、いつも思い出します。この肩の向こうに、彼女のような女の子がいるかもしれない事を。その女の子は、いつもどんな夜を過ごしているのだろうと。おやすみなさい。