慣れる夜
こんばんは。今日もお疲れさまでした。
彼からもらうキスマークには私には特別なものでした。何も彼にねだったことなどなかったけど、それは初めてのおねだりだったのです。彼が首に唇を当てて、強く強く吸い込まれると、その小さな跡がつくのです。その瞬間は特別でした。彼からもらうどの快楽とも別物の小さな、でも深い悦びを感じるのです。
服を再び着て、帰ろうとする時に、そのおねだりをしました。その時間を惜しむように、最後に触れたい気持ちを抑えられない事を表すように、彼にその跡をねだったのです。もう、甘い言葉はくれないのに、彼はそのおねだりを聞いてくれます。小さな跡を鏡で確認して、私は笑顔で手を振ってそれぞれ帰路につくのです。
彼はでもそれを知ってしまいました。その小さな跡を、私が悦びと感じている事に。
彼はおねだりをしなくても、その跡をくれるようになりました。服を着る前に、いつもその跡は私の体についている事を確認できました。それはベッド脇の小さな鏡の飾りだったり、グラスに向こうに映る私だったり。
私は帰る前のおねだりをできなくなりました。だって、そのおねだりはすでに体にあるのです。服を着ていてわかる位置にあっても、もう気になりません。それは小さな秘密ではなくなっているのです。
夜、お風呂の前に鏡を見ます。前ははにかんだ私の顔をみたものですが、私の顔はにこりともしません。それは日常で、その跡から匂いを見つけることができなくなりました。
私たちはこうやって一つ一つ何かを失って、最後は何も残らなくなるのでしょうか?それはいつ?おやすみなさい。
いいなと思ったら応援しよう!
サポートありがとうございます。いただいたサポートは、他の応援したい方へのサポートや、女性やお子さんを応援する機関への寄付に当てさせていただきます。