誰かの名前を呼ぶ彼の夜
こんばんは。今日もお疲れさまでした。
そのボーイフレンドは、たまに私ですら忘れている事を覚えているのです。その日、ドライブしていったホテルは、恋人が甘い時間を過ごすためによく使われるホテルでした。出会ったばかりの頃に、私が不意に口に出したホテルの名前を彼は覚えていたのです。
彼は、チェックインして妻の名前を書く欄に、私の下の名前を書きました。実は、彼の元の奥さんと同じ名前だったのです。名字のわからない私の名前を悩んだ彼は、以前彼らがそうしていたように書きました。
彼の元奥さんの名前ははじめて聞きました。私たちは、それらを共有する仲ではないのです。私は彼の本名を知っているけど、私の苗字を彼は知りません。特に隠しているわけではないけれど、それは都合の良い距離でした。
そんな事を別のボーイフレンドの腕の中で考えます。彼が呼ぶ私の名前は、本当に私の事なのでしょうか?私の名前など、どこにでもあるありふれた名前です。このボーイフレンドの大切な人が同じ名前でも何ら不思議な事はないのです。
「かわいいよ、名前」「大好きだよ、名前」
私の顔を見ずに、耳元で囁かれるそれは、彼の大切な人の事なのかもしれません。そんな事が頭をよぎると、彼に手を握られたまま、漏れ出る甘い吐息とは裏腹に、体の中はだんだん乾いていく気がします。彼の唾液がいくら私を包んでも、それとは別のものなのです。
彼にパートナーの名前を聞けばいいのです。でも、それをして、最悪の結果だったら、私は彼の声に「私もよ」と返せるでしょうか?
言葉をグッと飲み込んで、彼が私と同じ名前を夜に呼ばない事を願っている私がいます。どうかこの不安は今夜だけで。おやすみなさい。
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