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夏のアリスを恐れる夜
こんばんは。今日もお疲れさまでした。
子どもの頃、夜が恐くて仕方ありませんでした。特に夏の夜にはお化けが沢山出ると信じていたものです。そんな訳で、恐いテレビもホラー映画も見ずに過ごしていました。それでも、少女漫画雑誌に夏には1本掲載されている、ちょっと不思議な作品を必ず読んでいました。夜に読むのは嫌なので、夕方までに読むことがマイルールでした。
その年に読んだ漫画は、あらいきよこさんのアリスの話でした。日常にちょっとした不満なことが沢山ある中学生くらいの女の子が、不満のない国にいける本を手にし、その国のアリスという女の子と仲良くなるのです。
毎日のちょっとした嫌なことを忘れる為に、彼女はアリスの国に行く時間が、日に日に長くなってゆきます。そして、ラストでは、不満のない国のアリスと自分が入れ替わってしまうのです。本当は、うまくいっていないと思っていた恋も両思いで、ガミガミとうるさいと思っていた両親も彼女の為に愛情をかけていたことを知らされながら、彼女は本に吸い込まれます。
私はその話を一度読んで、本を封印しました。毎日、不満ばかりを言っていた自分が、その本を見つけてアリスに罠にかけられると本当に思っていました。
今、そのあらすじを書き出してしまえば、なんてことない話なのですが、私という子どもは信じていました。私より小さい妹が、その漫画を平気な顔して読んでいるのが信じられませんでした。
その年の私は、アリスに常に怯えていました。彼女に目をつけられないように、できるだけ不満を口にしないように、いつも唇を巻き込んで耐えていました。いつの間にかそれが癖になってしまいました。
私の唇がいつも赤いのは、アリスにつけられた罠でした。あの夏、私は本を買う時からアリスに目をつけられていたのかもしれません。
アリスに連れ去られないよう、あの夏を目を凝らして見ていました。あの夏の、トマトやきゅうり畑の匂い、仏間の夜の光り方、ビニールプールがぬるくなる午後3時、恐竜の本が沢山所蔵された図書館、お城の塀の中で行われるラジオ体操。。。
子どもの頃の夏で、あの夏だけが他の年より濃い記憶を刻んでいます。もう、存命していない祖父母の顔もくっきりと。
アリスの罠は巧妙でした。もう私が彼女に連れて行かれるのは怖くありません。ただ、私はいつか子どもを連れていかれることを恐れています。アリスは、夏に現れます。半袖のちょうちん袖、エプロンドレスに大きなリボン。彼女に連れて行かれないように、今年の夏も子どもを注意深く観察しています。おやすみなさい。
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