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小さな女子高生だった夜

こんばんは。今日もお疲れさまでした。

その夜、私は高校生で、家の近くの大型古書店に来ていました。買いたい本を見つけて帰ろうと思った時、駐輪場で彼に声をかけられました。

「お前、足踏んだだろう」

振り返ると20代くらいのラフな格好の男性がそこにいました。会社員には見えません。どんな仕事をしているのかも想像ができないと思いました。

そんな覚えはありませんが、辺りは暗く、私は謝りました。彼は「認めたな。血が出ているぞ。慰謝料を寄越せ」と迫ってきました。私は、彼のサンダルを履いている素足を自転車のライトで照らしました。血は出ていませんでした。彼は、ドギマギしながらも変わらずイチャモンをつけてきます。20分は彼の文句を聞いたところでラチがあかないと思ったのか、彼はようやく私を開放してくれました。

自転車で10分も走ったところで、彼がまた私を呼び止めました。「お前笑っただろう」とまた謎のイチャモンをつけてきます。「お前の為を思って、大人として教えてるんだ」という様な彼の話を聞きながら、私は泣きました。泣いた理由を聞かれたので、「こんなに人を思っているいい人の時間を奪ってごめんなさい」と謝りました。彼は笑顔になりました。そして、連絡先を交換することで私を解放してくれました。彼の連絡先は家に帰ってすぐにブロックしました。

次の日、学校でその話をしていると、家の近い女の子が同じ目に遭っていました。足を踏んだ慰謝料から、その後彼がつけて来るところまでは私と同じでしたが、彼女は泣きませんでした。その代わり、彼に胸を揉まれ「いい胸してるな」と笑顔になったところで解放されたのです。

その場にいた友人たちは、彼女に警察に行った方がいいと言いました。でも、彼女は絶対に嫌だと拒み続けました。彼の前では泣かなかった彼女が泣きました。「そんな事をされた事を大人に知られたくない」と言いました。

私たちは、それ以上何も言えなくなりました。ここは田舎で、そんなことが分かれば全てはすぐに周りに伝わってしまう小さなまちなのです。私も警察に言うことはしませんでした。彼に合わないように、夜に一人であの古書店に行く事をやめました。

彼の話はあの後聞きませんでした。もう満足したのか、警察に捕まったのか知りません。ただ、私たちは高校生といえど小さな女の子だったと、今思うのです。彼女が彼に胸を触られたことは一生忘れられないでしょう。そしてあの時戦うこともできなかった小さな存在だったことも。

夜は暗く、私たちは小さく、そして守られていませんでした。夜の暗さは好きだけど、誰でも明るい気持ちでいられる夜を願うばかりです。おやすみなさい。

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