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跳ね馬を探す夜

こんばんは。今日もお疲れさまでした。

その人に会ったのは12歳の時でした。真っ赤なオープンタイプのスポーツカーに乗った彼は、道路の向こう側に田んぼが広がるその道路で私に声をかけてきました。

「何してるの?乗って行かない?」

12歳の私は、早く大人になりたいと思っていました。その日着ていたのは、体のラインが出るピッタリしたカットソーにAラインスカートが付いている黒いワンピース。ミディアム丈の黒いローヒールブーツでした。後ろ姿は大人に見えなくもありません。

しかし、私は子どもでした。

「友達とバスケするから」と答え、走って家に帰りました。

バスケ着に着替え、その場所を通るともう彼はいませんでした。彼はバブルなスーツに、髪が光って見えるほどワックスで固めているのが分かりました。彼はいくつかわからないけど、とても大人に見えました。

その時は、何故だかその事を誰にも話せなかったのに、中学生になった私はフッとその事を親戚の集まりで話しました。きっと「大人っぽくなったね」などと、大人たちに言われて嬉しかったのでしょう。大人に間違われた話として、私はその話をしました。

最初は笑っていた大人たちですが、その内誰か一人がポロッと言いました。

「それって子どもの誘拐事件なんじゃ…」

その場の空気が変わりました。親戚の大人たちは、少しかしこまった顔をしながら、ひきつった笑いをうかべ始めました。父は、黙っていました。きっと、彼は私が余計な事を言ったので怒っているのだと分かりました。父は怒れば怒るほど、口を開かなくなる人でした。

父はよく私に言いました。「男を勘違いさせる行動をするんじゃない」小さな頃から言われましたが、12歳の私にはまだわからない言葉でした。

誰かが言ったその言葉を気にかけるように、私はよくニュースや新聞をみるようになりました。彼が誰かを誘拐したのかもしれないと思ったのです。ドラマの中では、ナンパされた男性の車に乗った大人の女性が殺されていました。

しかし、どんなに注意深く見ても、彼のあの赤いスポーツカーの話題はこの田舎町の報道に乗る事はありませんでした。

田んぼが見える道に現れた跳ね馬は、幻だったのかもしれません。それとも夜が来る前にこの街を出て行ったのでしょうか?おやすみなさい。

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