青春18きっぷ鬼ごっこ
※18きっぷ鬼ごっこを実際に開催しようとして、参考資料としてこのnoteに辿り着いた方は、最後の「改善点」まで飛ばしてくださって結構です。
2022年3月30日、朝6時半。私はとある人物と共に京都駅にいた。「一緒に18きっぷで出かけませんか」という誘いは、気付けば訳の分からない企画へと変貌していた。これは、その戦いの全貌を記事にしたものである。
開戦前
旅行の計画は概して「めちゃくちゃ前から立てている」か「めちゃくちゃ直前になって立てる(orそもそも立てない)」の2択(3択?)である。今回は後者であった。それがこんな企画に化けてしまったがために、急ピッチで進んだ準備。
18きっぷの他2万円を自由に交通費として使用可能。位置情報はZenlyの「あいまい」で共有し、正確な位置情報のリクエストが回数限定で可能。企画に不可欠なゲームマスターは交通や地理に明るい後輩を5000円で雇った(なお、私の金欠と怠惰により5月中旬になりやっと給与が支払われたらしい)。
開戦
じゃんけんの結果、逃走者と鬼が決まった。これを当日のじゃんけんで決めるのは私の発案だが、これは非常に良かったと考えている。スリルがあるし事前に計画もあまり練られない。私は鬼になった(呼吸法に詳しい漫画とは一切関係ない)。
午前7時、開始。鬼は30分後にスタートする。
First Missonは私のハンドルネーム「さくら川」から、「さ」「く」「ら」「か」「わ」で始まる駅をひとつずつ訪れろ、というもの。
ポイントは「ら」である。「ら」で始まる駅は、京都に3駅(洛西口、嵐電天神川、嵐電嵯峨)ある他は、楽々園(広島)があるくらい、あとは新潟と北海道にあるという。7時半に京都駅をスタートした私(実はこっそり大津まで往復していた)、まず向かうのはまあここでしょ。
阪急の洛西口駅だ。
しかし、実はほぼ徹夜でこの企画に参加している私、朝から既に頭が回っていない。逃走者が来るだろう、しめしめと待ち伏せするも、逃走者は高槻から上り新快速に乗車…洛西口駅に近接するJRの桂川駅を颯爽と通過する。
そりゃそうだ。お前が30分も遊んでいる間に、逃走者はとっくにここに到達している。
こんなことにも気づかずに西院(西大路四条)に移動、嵐電にも睨みを利かせる。
その間に逃走者は滋賀県へ。はよ追え。
逃走者が米原を出たところでようやく私も何かに気が付いたようで、西院から丹波口まで徒歩30分、嵯峨野線で京都へ、そして東へ。
First Missionは私が洛西口と西院で遊んでいたせいで呆気なくクリアされてしまった。
舞台は東へ
さて、逃走者から数時間遅れて東へ進む私。京都からは野洲、米原、大垣、豊橋、浜松で乗り換え、静岡へ。ここで興津行き、沼津行きが先発する関係で、熱海行きは乗換待ちが24分。一般に幹線で乗換待ちが24分もあったら長いと思うだろうが、私にとってはやっと昼食を食べられるチャンスなのだ。むしろありがた…
は?
私はかつての経験から、(利用したことはないが)静岡駅のホームに立ち食いそば店があるのは知っていた。そのため店探しなど全くしていなかったが、流行り病の影響はここにも。つらい。昼食難民の誕生であった。
さすがに駅ビル内の飲食店に行く時間はないとの判断で、改札内のコンビニでパンを買った。最低限の補給はできたが、またすぐに空腹に襲われることになる。
熱海からはJR東日本の管内へ。この頃既に逃走者は東京にいた。ミッション対応と逃走者の舐めプによって差は縮まっていたが、それでも時間にして1時間以上先にいるのには変わりない。
横浜に着くころには日が暮れ、すれ違う列車はスーツを着た人々でひどく混雑していた。
私は品川で下車、五反田駅近辺の松屋で夕食。生き返った。
そしてその足で新宿へ乗り込む。ここから、戦いは次のフェーズへと入っていく。
夜の攻防戦
さて、追う側の私。19時半の時点で逃走者は東京を出て北に向かい始めていた。私は新宿駅新南口へ。なんか友人が近くにいたので会って話したらしい。
新宿駅からこの時間にすることなんてひとつしかない、そう、夜行バスである。
…しかし、まだこの時間、とんぼ返りされるのが目に見えている。私が切ったカードは「昼行の最終便」だった。
バスタ新宿。言わずと知れた日本最大のバスターミナルである。
ここで私は「20:30発 高速あぶくま号 郡山行き」のチケットを購入。郡山到着は0:37だ。
しかし、想定通りのとんぼ返りに遭う。バスの欠点は目的地付近までどこも降車できないことである。逃走者は私がバスに乗ったのを察すると、黒磯から北上していた列車を降り、すぐに宇都宮に引き返してきた。
郡山まで買ったチケット、もったいないが、最初の降車地である西郷BS(白河)で降車しよう。
私は西郷BSで降車。最寄り駅は新白河、徒歩20分で着くため十分良心的で会る。郡山着後最寄りの快活CLUBが徒歩30分以上なのを思うと、駅前には東横インがあるし…
しかし、無情にもサイトには「予約不可」の文字。はい、野宿します。
(実はミッション2の結果により逃走者は朝6時半まで移動が禁じられており、新白河→黒磯を4時間ほどで歩けば黒磯から宇都宮線の始発に乗って宇都宮を封鎖できるのだが、さすがに24km徒歩は友人に止められた)
野宿
5:25の始発まで、約4時間の野宿である。ロータリーのベンチは別の人に取られていたが、すぐ近くに公園があるし余裕だ、と高を括っていた私。ベンチで横になって、10分くらい経った時だ。
雨が降り出した。
小雨であり、歩いているなら傘は不要な程度。しかし、寝るには気になりすぎる。駅の跨線橋の下に入ったが、ここは横にはなれないらしい。地はコンクリートだし、貨物列車も多数通る。寝られない。
この時の気温は11度と、決して極寒という訳ではなかったが、結局途中で寒さに耐えられずコンビニへ。温かいお茶を飲むが、大して変わらない…
過酷な野宿であった。すぐそこに見える東横インが憎い。結局朝4:40頃に駅が開くまでは寒さに耐え、そこからは駅の待合室へ(風は元々なかったので屋外と何も変わらなかった)。
5時10分頃、改札が開き、ホームへ。
私はここから大攻勢をかける気満々であった。
新白河上り始発で黒磯へ。乗り換えて那須塩原へ。
新幹線課金だ。
新幹線降車後は30分間移動手段が徒歩のみとなるため、新幹線の速達効果は大きく下がってしまう。しかし、ここで使わないわけにはいかない。
地震の影響で臨時ダイヤとなっている東北新幹線に乗車。
ミッション3は駅名の長い駅を制覇すればいいらしい(文章が少しわかりにくいが、「さいたま新都心」なら9文字である)。とりあえず大宮まで向かうのは必須であろう。
…しかし、大宮駅で降車するまでの間に、私のスマートフォンが通信エラーを起こしてしまった。本当にごめんなさい。
色々あったが無事復旧、ミッションは1時間遅れで開始することに。
しかし、このミッションは鬼が圧倒的に有利である。
私は確保を無視して駅を巡り巡り、改札で18きっぷを提示してそのままホームへと走っていく。結果、81分の無敵を獲得。逃走者のミッション終了時最初の停車駅は池袋。私も池袋まで追いかける。
地上決戦
池袋到着。正確な位置情報をリクエストし、追い詰める。しかし、ここでと逃走者はハレザ池袋に籠城、我慢比べになってしまった。
1時間以上、読み合いが続く。上層階まで突入したり、降りて入口を封鎖したり…
しかし、この場面、動いたら負けだが全く動かないのもゲームとして面白くない。それを感じ取ったGMが…
私は移動を迫られた。仕方ない。
私は埼京線ホームへと猛ダッシュ。逃走者も数分遅れで出発。
この過程はあまりに過酷であった。野宿で疲れた体に鞭を打ち、乗り換えを急ぎ、駅を出てから商業施設までダッシュ。またダッシュで駅に戻ってくる。つらい!
詳細はもはや記憶がない。しかし、私はタッチの差で負けた。ららぽーと横浜が鴨居駅から結構距離があったのが原因だ。
もうなす術もない。この後もゲームは続いたが、無敵カードを持った逃走者を捕まえるのは不可能であった。万事休す。敗北だ。
終了後
終了後は東京駅で合流、ミシュラン掲載店(!)で夕食。対戦相手は翌日まだ帰路に着かないそうなのでそのまま解散。
翌日は10時まで宿で爆睡、京都大学東京オフィスを見学しようとしたがセキュリティーに阻まれ(一応有効な学生証を所持する身分ではあるが、用がないのに入れてくれるか不安で来客ゲート的なものを通る勇気がなかった)、天竜川でさわやかに寄りつつ、寄り道含め11時間かけて京都に帰った。一番過酷だったのは帰路かもしれない。新幹線で帰りたかったな。
改善点
以下はこの企画を自分でやってみようと思った人向けの内容である。
私は今回の企画にあたって、YouTuber「西園寺」の「日本の半分で鬼ごっこ」を参考にした。
ルールは使用する乗り物が違うことからかなり自分達で手を加えているが、基本的な発想は同じである。
まずはルールをおさらいしよう。
・ゲーム時間は36時間(am7:00~翌日pm7:00)、休止時間はなし
・位置情報はZenlyの「あいまい」で常に公開状態になる
・それぞれのプレイヤーは6回ずつ1回につき30分、正確な位置情報をリクエスト可能。リクエストされた側に拒否権はない。
・18きっぷの他に2万円を交通費として自由に使用可能
・鬼or逃走者は当日朝のじゃんけんにより決定
・新幹線を利用した際は、降車後30分間移動手段が徒歩のみに限定(全プレイヤーに適用)
・ミッションは適宜行われるが、数や内容は事前にはわからない(ただし、今回はミッション3に限り前日終電後に公開された。戦略を練る必要性を考慮したと思われる)
そしてミッション内容。
・ミッション1 to逃走者
「さ」「く」「ら」「か」「わ」から始まる駅を1つずつ訪れろ(ただし、「ら」を除く4駅はJRに限定、またそれぞれの駅では降車が必須、乗ってきた同じ列車への乗車は不可)
時間:ゲーム開始~12:30
成功報酬:90分間位置情報を隠せる
失敗罰:90分間正確な位置情報を公開
・ミッション2 to逃走者
日本100名城の中から5つ訪れろ
時間:14:00~翌0:00(つまり日付変更まで)
成功報酬:なし
失敗罰:到達3つ以下なら6:30まで、到達4つなら6:00まで逃走者の移動手段は徒歩のみ
・ミッション3 to双方
9:00~11:00に到達した埼玉県内のJR駅の「文字数」が多い方が勝利。駅では改札を出ることで到達とみなす。同じ駅は2度以上カウントしない。
逃走者勝利報酬:合計文字数の半分(小数点切り上げ)の時間(分)だけ、鬼の移動手段が徒歩のみ
鬼勝利報酬:合計文字数の時間(分)だけ、逃走者の移動手段が徒歩のみ
・ミッション4 to双方
それぞれ別の都道府県に存在するイオンモール、イトーヨーカドー、ららぽーとを各1店舗ずつ、相手より先に訪れろ
時間:特に指定なし
勝利報酬:1時間完全に位置情報を隠せる「無敵カード」を獲得。任意のタイミングで使用可能。
・ミッション5 to双方
列車の行き先方向幕(デジタル表示含む)を撮影し、アップロードせよ。JRの車両であれば2点、私鉄の車両であれば1点とし、より点数の高い方が勝利。相手が先にアップロードしたものは無効。
時間:ミッション4終了~17:30
勝利報酬:なし
ゲーム時間に関しては本家と同じ36時間がベストであろう。これ以上は体力的にも厳しい。なお、ゲーム終了後の次の日は帰宅のため空けておく必要がある。
位置情報に関しては就寝後も移動が可能である以上、本家のように30分ごとに共有するのは互いに負担になることから、「あいまい」で常に公開とした。「あいまい」では数十メートルから数百メートルの誤差をもって位置が公開されるほか、移動速度は非公開となる。これは参加者が共に単独であり位置情報公開時刻に寝ている可能性があること、夜行バスなど就寝しながら移動する可能性があることを考慮すると良い負担軽減策であったと考える。ただし、システム側は常に正確な位置情報を取得している関係で、電池の消耗量は30分ごとの公開に比べて非常に多くなる(私は3.3回分充電可能なモバイルバッテリーをほぼ使い切った)。
交通費はお互い1万円以上を残す結果となった。追加交通費が切れたせいで行動が制限されるとゲームの面白さを削いでしまうともいえるが、予算が厳しい中でどこで注ぎ込むかの戦略性も上がる。ここは次回再考の余地がある。
新幹線降車後の待機に関しては、次回があれば緩和、場合によっては撤廃するに違いない。このルールのせいで新幹線課金の必要距離が無駄に伸びてしまい、参加者の財布を圧迫する(実際にはこのルールのために速達化のための新幹線課金のコスパが猛烈に悪くなってしまい、そもそも新幹線課金がゲーム全体でわずかとなった)。できれば費用は安く済ませたいのが本音であるし、たとえば、特定特急券区間(概ね隣の駅まで)であれば待機を免除する、などというのもひとつの案である。
ミッションに関しては事前告知は不要であると考えるが、ミッション3のような戦略型ミッションでは、移動に影響しない範囲で事前告知も有効であることが分かった。特にエリアが限定されるミッションでは、ある程度早い段階で告知しないと明後日の方向に向かっていき大損をすることになる。
ミッションは公平性の担保が非常に難しい。しかし、報酬や罰を調整することで、たとえ偏ったミッションであっても公平にすることができる。もちろんそんなミッションばかりでは面白くないが。
そしてこれは企画全体で言えることだが、勝利より面白さを求める参加者でないと、企画がつまらない耐久戦になってしまう。たとえば逃走者を私が数時間遅れで追っていた際に逃走者がそのままで北上を続けていたら、そのまま追いつけずゲームを終えてしまう。また、池袋のビル籠城の際にミッション4を私が無視していたら、そのままゲーム終了時刻を迎えていただろう(これに対しては「不参加罰:1つも到達しなかったら負け」などの設定により合理的回避は可能である)。無敵カード使用中に1時間ずっと中距離電車で逃げていたら?など、考え出すとキリがない。対策は、良識のある人と一緒に開催することに限るだろう。
また、この企画にGMは必須である。私のように後輩を雇うのが一番手っ取り早い。
では、最後に私がかつて似たような企画のGMを担当するはずだった(参加者の日程が合わず流れた)際のボツミッションを掲載しておく。先輩の命令でGMをやらされることになった不運な後輩がいれば、参考にしてほしい。
・「空港で離発着する航空機を撮影せよ」
意外と難しい。便数の多い都市の空港を狙うか、タイミングを合わせて地方空港に行くか。地方空港では航空便に合わせてバスが出るため、撮影だけするには余分な滞在を迫られることにもなる。
・「高い建物に登れ」
制限時間終了時により高い記録を持っている方が勝ち。逃走者側が不利なため逃走者への罰は小さくする予定だった。同じ建物は先に到達した方のみ記録認定。都市にいればあべのハルカスや東京スカイツリーのようなシンボルに早く着くだけのゲームになるが、地方にいた場合そもそもここ一帯で高いビルは何だ?という問題から始まるのがミソ。
・「大きい数字が書かれた掲示物を撮影せよ」
最も大きな数字を持っている方の勝ち。運ゲー要素と発想力要素を加えてみたもの。現時点では宝くじ売り場が最適解と思っています。それより大きい数字は運ゲー。もしくは加算方式で合計を競ってもいいかも。これなら宝くじ売り場ローラーが始まる。京都市内の企画では「素因数」をたくさん集めてその積を競うみたいなことを考えたこともあった。
以上です。最後まで読んでくださりありがとうございました。
今年(2022年)秋にはJR東日本が乗り放題きっぷを発売するそうですし、またそんな感じの企画が見られる日が来るのでしょう。期待が高まります。
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