
この寂しさに、私の精一杯の強がりと、涙と何倍量もの大好きと愛してるを混ぜて
実家に帰るといつも迎えにきてくれて、家の前までを一緒に並んで歩いてくれる優しい黒猫がいた。去年の秋頃から、思えばもう随分と姿を見ていない。

春がきた。
世界を真っ白に染めた雪はいつの間にか溶けて空にのぼってしまって、街や人はあらゆる形でカラフルに彩られた。
寒くて冷たくて閉じこもっていた草木や花や人間は続々と顔を出し始めたのに、何故かあの黒猫だけが私の前に現れない。
そんな温かいのに少しだけ寂しい、今年の季節。

今以上に顔の見えない声も聞こえない、私の知らない遠い場所に行ってしまうあなたへ。
どうか毎日健やかに。これから向かうその日々さえも全てあなたの糧になって、実りになっていきますように。
誰よりも先に飛び出して、今日までを全速力で駆け抜けてきたホソクさん。
目まぐるしい毎日と、制作活動のスランプと本番へのプレッシャーとを抱えながら。ロラパルーザの大ステージを全てやり遂げた最後、廊下の端に座り込んだままふにゃふにゃになって笑うホソクさんをみて。
いつの間にか力の入っていた肩が楽になって、安心してしまって、なんだかずっと涙が止まらなかった。
格好良かった。格好良かったでは足りないくらいに格好良くて、もう既に最高地点でホソクさんが大好きだったはずなのに、まだ上があったのかと思うくらい更にずっとずっと大好きになった。
「僕はこういう人なんだと思います」
「ただ休むことができない人」
作業が中々上手くいかなくてイライラしてどんどんネガティブになっていって、でも全て投げ出して楽に生きる事はしたくないし望まないと話す彼の強い瞳を、今も覚えている。
ホソクさんの持つ希望って、こういった日々の痛みや自分自身への苦しい自問自答から生まれているもの達なんだ。この仄暗い箱の中でもなお、決して離さず見失わなかった彼自身の強さとか意思の、その内側から生まれた炎の光だったんだ。そういう事を、ずっと見せてくれた半年間だったように思う。
そんなパンドラの箱そのものみたいな彼の生き様はきっと、彼が不在の間の私にとっての大切な大切なお守りになっていくんだろうな。
彼の生身の苦悩と葛藤は私の勇気になって、
彼の真ん中にある誠実と実直は、私の意志になる。
大切な大切なチャプター2のはじまり、見せてくれてありがとう。

私の大好きなお気に入りのとある本に、こんな一節がある。
誰かを愛(いつく)しむことは、
いつも悲しみを育てることになる
愛する事は同時に悲しみを大きくする事にも繋がって、愛すれば愛する程比例して別れは耐え難いものになるらしい。
最近またこの著者の本を読み返して、そうしてからふとホソクさんの事を考えた。
いつも自分の口に運ぶよりも先にメンバーの口にご飯を運んでしまう人。ヘアメイクに呼ばれるけど誰も動き出さない時、率先して1番に立ち上がる人。
7人の中で上から3番目、真ん中にいる人。だけれど7人で並ぶ時にはいつも端っこにいる人。
猫のたてた物音に大きく肩を跳ねさせて驚いてしまうし、敵役のスタッフさんを見つけたら靴も履かずに外へ駆けだしちゃう人。プールの上でゲームをする前には終始へっぴり腰で、胸の辺りに水をかけて体を慣らす事も忘れない人。ちょっぴり、いやかなり怖がりな人。
ゲームのやり方をちゃんと理解するのに時間がかかってしまって、メンバーに少しだけ呆れられちゃう人。白の画用紙に白のマジックを使って「何で見えないんですか?」って周りに尋ねちゃう人。
お仕事も日常も、おもちゃの飛行機もパズルも絵も、一度始めたら絶対に最後まで投げ出さずにやり遂げる人。
「格好いいって何だと思います?」という質問に、「仕事を全うし責任感があり、挑戦することを恐れない」事って答える人。
「アミに少しでも楽しんで欲しくて」「アミに良い姿をお見せしたい」を、いつも口癖みたいに繰り返してくれる人。
優しくて温かくて繊細な人。
少しだけ抜けた所のある可愛い人。
真っ直ぐで誠実で、とても格好いい人。

だから私は、再会を知っているはずの別れがこんなにも耐え難くて泣いてしまうんだろうか。いつの間に、私はそこまでの愛を育てていたんだろうか。
彼に出会わなかったら、知らなかった思い遣り方があった。知らなかった寄り添い方があった。
知らなかった感情があって、知らなかったこころがあった。
パフォーマンスへのプライド。
人と対した時の細やかさ。謙虚さ。
私は、ホソクさんに憧れてはホソクさんの沢山ある素敵な部分を少しずつ真似して、そうやって一緒に素敵な人になりたいと頑張るそんな瞬間の自分が、ちょっと好きです。
憧れる人とか目標とする人なんて今まで一度もいた事がなくて、なんとなくただ「良い人になりたい」と思ってはぷかぷか行く宛もなく生きていた私に、明確に「こうなりたい」を見せてくれたのは、目指す場所のようなものを教えてくれたのは全部ホソクさんです。

ホソクさんが行ってしまう事が、すごくすごく悲しくて寂しい。もっと今のホソクさんが作る音楽が聴きたいし踊っている姿が見たいし、今日で一旦の節目になるなんて、一緒に歩いてくれていた道が今日から分かれてしばらく離れ離れになってしまうなんて、そんなの堪らなく嫌だ。
昨日までよりも確実に静かになってしまうだろうInstagramやWeverseのアカウントとか、アレンジされてふわふわだった髪が短く刈り上げられた事とか、カラフルだった服やネイルは多分もうしばらく着られないし出来ないんだろう事とか。そういうもの全て、彼の意思ではないだろう全てが、全部ぜんぶ嫌だった。
毎日美味しいご飯が出ますように。お布団と枕はふかふかで太陽の匂いがしますように。痛い事や怖い事がありませんように。怪我も病気もしませんように。周りの人が優しい人達ばかりでありますように。
ホソクさんを困らせてしまうばかりだろう言葉達にそっとベールをかけて、こうやって代わりに思いつく限りの沢山の小さな幸せに願いをかけて手を振るしか出来ない事が、ちょっと切ない。どうしようもできない事も、分かっているけれど。

でもそういうものを全部置いておいて、今ホソクさんに真っ先に伝えたいのは。
ずっとずっと希望すぎるくらいに希望でいてくれた彼への、大きすぎる感謝と愛と信頼です。
「心配しないで」とか「大丈夫だよ」ってこちらへの心配りばかりをしてくれた、優しいホソクさんに。「忘れないで」って冗談めかして話しながら、最後に少しだけ目元を拭って、やっぱりおどけて笑って見せたホソクさんに、私が伝えたいのはいつだってそういう気持ち。
この寂しさに、私の精一杯の強がりと、涙と何倍量もの大好きと愛してるを混ぜて。そうして綺麗なハート型にしてから、両手を空いっぱいに伸ばして今日からの貴方にお見せしたいです。

ジンくんの事を、今日まで一度も思い出さなかった日がなかったように。ホソクさんの事も、きっと欠かさず一日も忘れたりしません。毎日大好きなまま、毎日堪らなく寂しいままでずっとホソクさんの事を待っています。
だから大丈夫、どうかこちらの事は心配しないで。
両手に有り余ってしまうくらいに貰ってしまったホソクさんからの愛を毎日ひとつずつ道の上に並べて、そうして歩いていればきっとすぐに季節は廻って秋になる。
ねえホソクさん。
이젠 우린 믿을 차례!!
(これからは私たちを信じる番だよ)
春が、少しずつ通り過ぎて行く。
ピンク色に染まった町は風に乗って運ばれて、でもその鮮やかさは消えないままで、空気になってそこら中に漂い続けている。
葉桜の緑を横目に、久しぶりに帰る実家までの道程を歩いていると、どこからかあの黒猫がやってきて。
まるでずっと居なかったのが嘘だったみたいに、尻尾を揺らしてスピードを合わせながら私の隣を歩いてくれる。
心配していたよ、お元気でしたか。
どこで何をみて、何と出会ってきたの。
帰ってきてくれて、また姿を見せてくれてとっても嬉しいよ。
ねえ、会いたかったよ。おかえり。

少し先の未来でホソクさんにも聞いてみたいな。
こうやって道を歩きながら、キラキラの希望みたいな顔をしたあなたにまた会いたい。迎える時もちゃんと笑って……!と思うけれど、多分我慢できずに溢れて、やっぱりきっと私は泣いてしまうんだろう。
なんて考えながら、黒猫に話しかけてそっと笑った。
黒猫は慰めるみたいに足元に擦り寄って来てくれて、なんだか鼻の先がツンとなって、私は笑いながらちょっと泣いた。
今以上に顔の見えない声も聞こえない、私の知らない遠い場所に行ってしまうあなたへ。
「See you on the street.」
行ってらっしゃい。
2023.04.18