飲食店未来学86:価格転嫁して売価の限界にチャレンジする飲食企業4例
飲食業界の吹き荒れる嵐の中で、最先端の努力を尽くし、未来への突破口を開こうとする飲食企業の価格の壁を考えてみました。
吉野家
かっては超低価格飲食業態。その後はワンコイン飲食業態に。現在は食材やランニングコストの高騰を受けて、「現状の顧客を維持しつつ客数と客単価を増やすジレンマを抱えて努力する」飲食企業です。いま低価格路線から中価格路線への脱皮を図ろうとしています。
●客数減は客単価アップで補う
●売上減は客単価アップで取り戻す
いまやこういう客数増が不確実視される傾向は、すべての飲食店が共通している課題です。その場合、「確実に売れる商品力、高くても売れる商品力がある新メニューを生む力」があるかどうかで決まります。まさに商品開発の達人がいるかどうかが今後の成否を分けます。
★丼を膳に変えると、売価が379円上がっています。(しかし原価は100円どまりのよう)~売上も客単価も上がり、平均原価率は下がりますが、作業の手間は2倍ほどかかります。
この飲食企業の行き着く限界価格は999円の壁。乗りこえるための武器をどうつくるかが今後の課題です。
焼肉きんぐ
かってこの飲食企業に注目した時のコース売価は、2,480円、2,980円、3,480円の3コースでした。焼肉食べ放題の大繁盛店。
現在のコースは、
★以前の2,480円コースはなくなり、58品コース(3,168円)になった。ほかに、ランチコース(2,288円)がある。
★2,980円はきんぐコースという標準コース(3,608円)に変り、2,000円台から3,000円台に上昇。628円売価が上がった。
★同じく3,480円コースは、プレミアムコース(4,708円)となり、10年前後で1、228円上昇した。
主な値上げの原因は、日本の焼肉方式が東アジア(中国、韓国)や東南アジアに広まり、需要が増して品不足になり食肉価格が高騰したからです。
私はこの焼肉食べ放題企業は、年々上がる一方の食肉価格を吸収しつつ食べ放題の魅力を保つには、食べ放題売価5,000円の壁にチャレンジするか、回避した形で食べ放題コースを維持するか、岐路に立つだろうと考えています。
また、国産牛の肥育農家の減少もあり、乳牛の頭数減による基本食材の品不足も解決すべき問題です。大規模チェーンならではの業態維持の難しさが激しくなると予測しています。
いま一部で、30代の男性が40代半ばを過ぎると、一種の食べ放題離れ、カルビ離れが起こってきている。そして、45歳以降になると、量から質に転換する、寮が食べられなくなるため、食べ放題業態はニーズ違いになる。そういう意味では、きんぐさんも脱焼肉食べ放題の比率を高める方向になるかもしれません。
食べ放題だから安いという時代から、定額だから安心という時代になったととらえています。食べ放題と飲み放題の両方をオーダーすると、一般店よりも高くなる場合があります。(幼児、子ども、高齢者の場合は除く)
スシロー
先月元町店の前を通る時に「赤シャリデー」ののぼりがあり、表示が少し親切になったなと感じました。この回転寿し業態も、もともとは立ちの寿司店よりは安くてお得な格安業態が売りの業態です。最近の変化は、
★シャリは国産米を使用。(寿司の最適米は粘りのない古米や古古米)
★1貫のシャリのグラム数が小さい。(米価の値上げ後は特に)*12g
★鮮度のバラツキが大きい
★同じ商品でも形の不ぞろいが多い
★寿司ネタの商品力がその都度バラバラ(商品確保が熾烈な証拠)
★同じ食材が多量にないため、期間限定ネタでつないでいる
かって一時的に45%近くまで下がったと言われる食材原価率も、品切れを起こさずに調達優先にせざるを得ず、55%を超える状態という。
焼肉きんぐさんやスシローさんの業態は、従来の飲食商売と違い、調達コストの上昇で否応なしに価格の壁に向かって進むしかない業態です。
個人的には、スシローさんを定期的によく利用しています。1人1,500円がもう2,000円になります。将来的には、1人予算で3,500円がこの企業の壁価格ではと考えています。
叙々苑游玄亭
改めて価格を見て、流石に超高級店と感じた。もう金額的に「至福」の領域の価格となっている。
私も数えるほどしか利用していない高級焼肉店です。まさにQSC(商品力、接遇力、空間の居心地)のハイレベルさがその売価に表れています。
しかし、店舗によりコースの売価も違うようです。叙々苑さんであっても、このQSCの完成度の高さが維持されていないお店については、売上が合格ラインを下回っているようです。
総じて食材やランニングコストの高騰を価格転嫁するためには、QSCの向上と売れる新メニュー開発力が欠かせません。
非情な時代でもあり、実力本位の時代でもあります。負けたくなかったら、全力で励むしかありません。
ともに励みましょう。
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(了)