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【短編】コテイキジ

誰でもない誰かの話

例えば、
君との楽しい思い出だけの記事を固定記事にした
とするじゃない?

そうするとさ、それにけっこういっぱい、「いいね!」つくわけ。固定記事が誰かにシェアされたりして。「いいね!」の通知もたくさんくるし、なんか、人気者になった気分になるんだけど、僕が眺めるのは、タイトルと「いいね!」ばっかりで、その記事の内容なんてもう、おぼろげにしか覚えてないし、それに、なんで固定したのかさえ覚えてないんだよ。
だから、君との楽しい思い出を綴ったって事実は覚えてるんだけど、どんな思い出だったかは、…あんまり正直覚えてないんだよ。

「なんで?」

いや、もう一回読むのはめんどう…いや、照れくさいんだよ。だから、記憶が薄れても書き留めたかったって言うその記憶だけが…。

「まあ、もういいじゃん。」

うっすら笑う君の顔をずっと記憶に焼き付けたかった。楽しい思い出を増やしたいと願った。


単純だった。
本当に、その記事に書いたことは、今読み返せば至極最低で、人間としての自分を汚いとすら思うほど。吐き気こそなかったが、自分という人物をどこまで責めればいいだろう。
これが、これが楽しい記憶と認識しているのだから、どれだけ最低な人間であるかは、周囲の人物は知っているのではないか。
これをシェアされ、読まれ、「いいね!」をもらうこの状況は…快感でしかない。
背中に汗が滲む感覚に、言い知れぬ興奮がある。

人は結局、他人の不幸を望む。
僕は君を再起不能にした。生きてはいる。しかし、もう意志のある目は見せてこない。精神的苦痛に肉体的苦痛。君の表情が歪むほどに僕の息は荒くなった。もう、君を全て支配してしまいたいと、その欲求のまま、モラルを欠いた君を責めたて暴力を振るう。興奮、快感、快楽。泣き叫ぶその髪の毛を掴んで、顔を地面に押し付けた。血が滲むその顔は、とても、美しくて。

「好きだよ」

そんな言葉をかけたんだ。
君は、涙を流して悲しい顔をする。

いいね。

その顔、たくさん見せて。
僕は君のその顔が大好き。

「嫌いだ。」
黒い瞳を滲ませながら君がいうから、楽しくて。

いいね。


僕は、こんなことを記憶に留めようとしたんだ。僕の横に今あるのは、彼の左腕。薬指には金色の指輪が光る。僕があげたんじゃない。

「苦しいなら外してあげるね。」
彼のことが欲しかった。綺麗で長い指。左腕だけもらったことは誰にも絶対内緒なのだけど。

「泣いていたけどさ、怖かった?」
指輪を外して捨てた。少しだけ、指の皮が剥ける。腐り始めるのが早くて、脆く崩れていった。
液体のように存在は残るのに、あっという間に蒸発して消えた。

「んふ。んふふ。ふふふ。ふぅふは。ははっ。はははっははははははっ。」

好きだけど、一緒になれない。
だから、毎日。あきらめるために記事を書いて、殺すんだ。

虚しい。
彼を欲する僕が憎らしい。
僕はもう、他の誰も愛せないから、毎日、毎日、彼を殺す。

今日も「いいね!」って通知がくる。

心を殺して、想像で彼を殺して、諦めようと思うことに、「いいね!」なんて、どういうつもりだ。


固定記事が一人歩きしている。
一生に一回しか書けないベストセラーのように。



#肉森さんの写真お借りしました感謝
#捻れ #短編小説 #短編 #歪み

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