息子が急性散在性脳脊髄炎になって倒れた話9
その後、しばらくして再度面会をしても良いと許可が出た。
しかし、説明の時間も面会時間に含まれる為、残り30分ほどで出て欲しいとのことだった。
そして、今回だけ特別に再度夫が入室し息子に会い、その後私と入れ替わることを許可された。
5分ほどの短い時間で出てきた夫と交代して中に入ると、他のベッドより明らかに人も機械も多い一画が目に入った。
そこで静かに規則的に呼吸をしながら横たわる長男の姿を一日ぶりに見ることができた。
その瞬間、とてもホッとした。
今、この瞬間まだ彼は頑張っている。
生きようとしているのだと感じた。
そして、沢山のコードが繋がり、点滴の針が刺さる彼の手を恐る恐る握りしめ、その柔らかさを懐かしく感じた。
彼の前で泣いてはいけない。
咄嗟にそう思った。
涙を堪え、ぎこちない笑顔を作り、おでこを撫でたり、腕をさすったりしながら話しかける。
「長男…。ずっと頑張ってたね、えらいね!
ママ、会いにきたよ。会えない時間もずっとあなたのことばっかり考えてたよ。
ずっと会いたかったよ。
さっきパパも来たでしょ。昨日会えなかったから、パパに先に来てもらったんだ。
いつも、お風呂も寝る時も、ずっとそばに居たのに、少し離れただけでこんなに寂しいなんてびっくりしたよ。
あなたはのんびり屋さんだから、少し疲れちゃったかな?
いっぱい寝て、そろそろ遊びたい!って思ったらちゃんと起きてね。
ママ、ずっと待ってるから。
寝るときトントンしてって言われたらいつまででもしてあげるよ。
抱っこしてって言われたら何回だってしてあげる。
だから…お願いだから…、ママ達のところに帰ってきてね…!」
言葉はいくらでも出てきて、あっという間に25分がたった。
最後にぎゅっと抱きしめて、
「また必ず会いにくるからね…!」
と約束して、部屋を後にした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・その後は次男を迎えに行った。
出来る限り普段通りの生活をしていたが、夫も私もふとした瞬間に涙を流してはお互いに言葉を掛け合う、ということを繰り返していた。
長男が倒れた当日から食欲は失せ、お茶や水しか喉を通らない。
でも、今私達が倒れたらそれこそどうしようもなくなってしまう。
そう自分を奮い立たせて、最低限の食事を飲み込み、せかせかと動いては余計なことを考えないようにしていた。