息子が急性散在性脳脊髄炎になって倒れた話1
慌ただしい土日を終えて、保育園に向かう子供達を笑顔で送り出した月曜日。
あたたかい日差しが差し込む窓際で、これからどんなことが起こるのかもわからないまま私は電話に出た。
(保育園から?今日の朝、次男の鼻が少し出てたけど、熱がでちゃったのかしら。)
そんなことを思いながら通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『もしもし?ママ?土日なにかあった!?』
いつになく焦った様子の園長先生の声に、得体の知れない不安感が私の背後に見え隠れしていた。
「え?土日ですか?土曜日は公園でピクニックして…日曜日は家にいましたけど、何かありましたか?」
『それが…歩けないのよ!お散歩には普通に行ったんだけど…』
「え…?ちょっと待ってください。長男ですか?次男ですか?歩けないって怪我をしたってことですか?」
『長男くんよ!お散歩から帰ってきて、お靴が上手に脱げなくて大泣きしていたんだけれど、その後立ち上がれなくなっちゃったらしくて…お母さん、すぐ来れる?!救急車呼ぶ!?』
長男はその日風邪の症状も無く、朝保育園に行く笑顔を見送って3時間しか経っていない。
救急車?怪我じゃないのに立てない?
頭の中が途端にパニックになった。
「す、すぐ行きます!」
このとき、すぐに救急車を呼んでと何故頼まなかったのか。今でも私は後悔している。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そこからすぐさま保育園へ向かった。
電話を切ってから15分程で保育園に着くと、玄関に担任の先生に抱えられてグッタリとしている長男の姿が見えた。
目は開いているのに焦点が合わず、全体的に左側に傾いていて、眼球もそちらに寄っていた。
「救急車、救急車呼んでくださいっ!」
とっさに叫ぶように出たその言葉の直後、園長先生が救急車を呼んでくれる声が聞こえた。
「長男!ママだよ!わかる!?」
一瞬こちらに視線を向け、頷くような動きをした直後から、しゃっくりのようにヒック…ヒック…と継続的に動いていた。
救急車の到着を待っている間、
お散歩では元気よく歩き、ご機嫌で遊んでいたこと
公園で水分補給のためにお茶を飲んだこと
お散歩から帰ってきて、靴がうまく脱げずにへそを曲げて、教室で寝転がって大泣きしたこと
お昼ご飯の時間だから、食堂に行こうと声をかけると、寝転がった体勢から起き上がれないと言ったこと
その直後にドロっとした粘度の強い嘔吐物を吐いたこと
最初は会話が出来ていたけれど、その後から反応が無くなったこと…
担任の先生が、一つ一つゆっくり話してくれた。
動揺していた私への配慮だろう。
冷静に、ずっと長男を抱き抱え、息子にもわたしにも声をかけ続けてくれていた。
救急車は5分とかからず到着したけれど、その時間が恐ろしく長く感じた。