好奇心
今日も残業。
ああ、辛い。嫌だ。死んでくれ。殺したろか。
いつものように、怒りを原動力として仕事を倒す。
ひとまず片が付いたので退勤。
むしゃくしゃが収まらなかったからそのまま夜のお散歩に出かけた。
夜道を歩くのは大好きだ。
風が気持ちいいし、昼間は明るくて広く感じるから怖いけど、夜は暗くて小さな世界に思えるから落ち着く。
カンカンカンカン。
歩いていると踏切に遮られる。
待ちながらぼおっと眺めていたら、小さかった頃のことを思い出した。
絶対にやってはいけないことだけれど、電車が走っていない隙を狙って線路の上を歩いたことがあった。
千と千尋の神隠しのとあるシーンに憧れて真似をしたのが始まりだったのだが。
もしかしたらもうすぐ電車が来るかもしれない。
電車が猛スピードで僕に向かってきたら僕はきっと粉々になるだろう。
そんなことを考えていたら、なんだかテンションが上がってきてしまったのだ。
心臓がドクドクドクドクバクバクバクバクものすごい速さで鳴っていた。
恐怖を感じたからなのか、粉々になる自分の姿はどんなものなんだろうという好奇心からなのか、分からないけどとにかく高揚していた。
いけないことだと分かっていたし、やっぱり怖かったのですぐ線路から出たが、その時から僕は一般的に危険・怖いと言われるものに惹かれるようになってしまった。
包丁を足元に向かって落としたら、どんな感覚がするんだろう。
そう考えながら、包丁の先を足に向けて胸の前で持ってみる。
電車が来るときにホームから落ちたら、体は、僕はどんなふうになるんだろう。
そう考えながら、黄色い線からははみ出さないように線路を覗き込む。
踏切が上がった。
線路を歩いていた時のことを思い出したら、あの時感じた高揚感が少しずつ戻ってきた。
そして今も、興奮状態のまま考える。
今、知らない人が後ろから近寄ってきて背中を刃物で刺されたら、僕はどうなるんだろう。
背中がヒヤリとした。
心拍数が上がって、呼吸がだんだん荒くなる。
なんだか眩暈もしてきた。
さすがに恐怖のほうが勝って、家路を急ぐ。
そのとき、背中に何かが当たったような気がした。