間違われた話

《人物紹介》
僕:26歳。会社員。一人暮らし。瞳の色はブラウン。髪の色はピンクがかった紫。丸眼鏡をかけている。
男性:インターネット回線系の営業マン。黒い短髪。ハキハキと話し、雰囲気は爽やか。


【背景:僕の家・玄関(夕)】
ピーンポーン。ピーンポーン。
来客を知らせるチャイムが鳴り、慌てて玄関へ向かう。
ドアを開けると、そこにはスーツ姿の男性が立っていた。
男性「こんばんはー。すみません、今って少しお時間大丈夫ですか?」
男性「こちらの建物で新しく契約可能になった、インターネット回線についてお話させていただきたいんですが……」
男性がニコニコと愛想の良い顔でこちらの様子を伺っている。
しかし、正直面倒だなと思った僕は、忙しいと嘘をついて断ることにした。
僕「ちょっと今立て込んでて、今度にしてもらえますか?」
男性「いえ、5分もかからないので! 実はですね……」
だが、そんな僕の言い訳も虚しく男性は話し始めてしまった。

《暗転》

【背景:僕の家・玄関(夕)】
男性「それでですね、お兄さんが今契約されているサービスから僕が紹介させていただいたものに乗り換えていただくと、3,000円くらい安くなるんですよ」
(……5分以上かかってるし、前にも似たような営業来たことあったし、やっぱりセールスって面倒だな)
僕が心の中で大きなため息をついている間も、男性は笑顔でセールスポイントをペラペラと喋り続ける。
これは長丁場になるなと僕が腹を括った時、事件は起こった。
男性「お兄さん、インターネットと一緒にCSも契約されてると思うんですけど、正直CSって見てます? 宝塚とか、スポーツとか」
男性「セットで契約すると安くなるからっていうので契約したと思うんですが」
(まあ、確かに安くなるからって勧められはしたけど、見たい番組が元々あったから僕にはメリットでしかないし、なんか言い方ムカつくな……)
男性からCSを見ていないであろうこと、宝塚への興味なんかないだろうことを決めつけられて謎に腹が立ち、僕はやや怒り気味に返事をする。
僕「見ますけど?」
僕「演劇とか好きですし、あとはバラエティとか」
男性「あ、見られるんですね! CSのバラエティで何かおすすめとかあります? 僕最近CS全然見れてなくて……」
僕の態度に全く気づかず、依然として男性はニコニコ笑顔のまま。あろうことかおすすめ番組を訪ねてくる始末。
(お前はCS見るんかい! おすすめなんて聞かれても、僕が見てるのは大阪吉本の若手芸人が出てる番組だけだしな……)
男性にイライラしつつも、僕は馬鹿正直にメジャーなバラエティは見ていないことを伝えた。
男性「へー! じゃあ、新喜劇とかですか? あ、もしかして……」
男性「お笑い芸人の方、ですか!?」
男性が目をキラキラとさせながらこちらを見てくる。
これまでのどこでそう判断したんだと大困惑しつつも、僕は死んだ目で答えた。
僕「いや、違います」
男性「あ、そうですか」
それから、僕は現状のネット環境に満足していることを伝えて、男性にお引き取りいただいた。
あの瞬間、期待に満ち溢れた目で僕を芸人だと判断した理由は、彼のみぞ知る。

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