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大の野球好きが突然Bリーグにハマった話 〜後編〜 1月13日 天皇杯 川崎vs千葉

(こちらは後編です。よろしければ前編もご覧下さい)

https://note.com/381_note/n/na34e386a0712

推しごとはじめ

川崎ブレイブサンダースのYouTubeチャンネルを見て、私には推しができていた。

辻直人選手。

彼がBリーグ屈指のシューターであり、日本代表にまで選ばれる選手であることを知ったのは、あとから色々調べてからのことだった。ただ単純に顔がかっこいいと思ったのと、言動がいちいちお笑い芸人のようにおもしろくて、プレーのことをほとんど知らないまま私は辻選手を推すことにした。

彼を中心に川崎の試合を見る日々がはじまった。第14節、川崎vs京都のGame2。結果的に敗れはしたものの、彼は第4Q残り9秒、3点ビハインドから鮮やかなスリーポイントシュートを決めてみせた。
試合中、私は中野にある友人の家に行くため移動していたが、どうしても中継が見たくて中野ブロードウェイの脇に立ち止まってスマホで試合を見ていた。辻選手がスリーポイントを決めた瞬間、私は自分でも驚くほどのガッツポーズをしてしまい、通行人に怪訝な目で見られ恥をかいた。ただ、スポーツ観戦で我を忘れる感覚が久しぶりで、恥ずかしさとともに妙な爽快感があったことを覚えている。

この京都戦に敗れたことで、チームは2シーズンぶりの3連敗を喫してしまった。ただファン歴2週間の私にとっては実感がなく、その後もヘラヘラと楽しく試合を見ていた。

しかし、その後の琉球戦、三河戦でもチームは波に乗り切れない。東地区での順位は6位に落ち込み、にわかファンでもさすがに(あんまり良くない状況なのか……?)と思いはじめた。なにより、辻選手の調子が気になった。シュートが決まったか外れたかはド素人でも分かってしまう。特に1月5日の三河戦では2得点のみに終わり、シュートのことしか分からない私は落ち込んだ。

天皇杯、勝てるかな。

辻ちゃん、活躍してくれるかな。

約1週間後に迫った現地観戦に向けそんなことを考えていた。しかし私の心配は杞憂に終わることになる。

その日私はヒーローを見た

迎えた天皇杯第3次ラウンド、川崎vs千葉。悪化するコロナ禍の中、12月に楽しめた場内飲食は禁止になってしまった。

しかし私は前回と比べ物にならないくらいのモチベーションで試合を見に来ていた。なんといっても、辻選手が推しになってから初めて生で見る試合だから。
野球シーズンまでしまっておく予定だった一眼レフを片手に開場と同時に入場し、練習中の選手たちへレンズを向けた。

辻選手はもちろん、全ての選手の顔と名前が一致して感動した。YouTube効果恐るべし。

それからグッズショップに行って辻選手のタオルを買った。浮かれた私はタオルを広げている姿を友人に撮影してもらった。ただ、試合終了後ではなく前に撮ってもらった理由は、活躍せずに負けたら落ち込んで記念写真どころじゃなくなる、というネガティブ思考からだった。

練習風景を写真に収めているとすぐに時間は過ぎ、試合開始のブザーが鳴った。試合は一進一退の攻防で、第3Q終了時点で川崎52-55千葉の接戦。とりあえず試合前に一番嫌だなと思っていたワンサイドゲームにならず、私は安堵していた。(というのも、度々出てくる友人が実は千葉ブースターだったからだ)

そしてこの日の辻選手はノっていた。前半だけで3本のスリーポイントシュートを決める活躍。友人が試合前に「辻ちゃんは千葉キラーだから多分活躍するよ」と半ば自嘲気味に話していた通り、今日の試合のキーマンになっていた。

最終第4Q。3点ビハインドの川崎が大塚選手のスリーポイントで追いつけば千葉の原選手も負けじとスリーポイントでやり返す。激しさを増す両チームのぶつかり合いの中、キャプテン篠山選手がスティールから相手を置き去りにしてシュートを決め、ついに川崎が逆転する。しかし千葉も追いすがり、残り3分を切っても64-62の接戦。何度もガッツポーズとため息を繰り返しながら、BPM200くらいのテンポで鳴る心臓を鎮めることもできないまま、息つまる攻防はなかなか終わらない。

抜け出してくれ、川崎、勝負を決めてくれ。

祈りに答えてくれたのは、辻選手だった。

残り2分7秒、ヒース選手のパスが辻選手に渡る。千葉の富樫選手は素早く反応するがヒース選手が壁になりディフェンスに行けない。一瞬フリーになった隙を逃さず、辻選手がスリーポイントシュートを打つ。ネットが揺れ、川崎が欲しかった追加点がようやく入った。67-62。

そして、残り1分18秒。

インサイドに切り込んだ藤井選手が相手の隙をついてボールをコーナーの長谷川選手へパス。そしてトップの位置でフリーになっていた辻選手に回ってきた。ブロックしにきたディフェンスをドリブルでかわし、放ったシュート。

ボールはリングの上で何回か弾んだ。アリーナ中がボールの行方だけを見つめていたと思う。ほんの2、3秒の時間が、スローモーションのようにゆっくり流れる。

ボールがリングを通過した瞬間、川崎ブースターの歓声が響いた。辻選手が決めたその日5本目のスリーポイントシュートで、川崎が勝利を決定づけた。

ああ、これだ。この瞬間をずっと待ち焦がれていた。

世界の中心が今ここだと確信してしまうような、その場に集まる、選手、観客、全ての人々が生み出す熱狂の渦。

野球を見ているとき、何回か感じたことがあったこの感覚が忘れられなくて、毎日のように球場に通っていたんだ。

そしてそれをバスケでも感じてしまった以上、私はもうきっとバスケの魅力から抜けだせない。

試合後、すぐさまグッズショップに走って辻選手のユニフォームを購入した。試合前に来たときは気持ちがソワソワしていて気づかなかったが、グッズショップの壁には辻選手の写真が飾られていた。写真には、彼の今シーズンにかける意気込みを込めた一文が書かれていた。

"BECOME THE HERO"

その日とどろきを世界の中心にしたヒーローを、たしかに私はこの目で見たのだ。

冬が待ち遠しくなる日

天皇杯の直後に行われる予定だったオールスターは、未曾有の事態により中止になってしまった。それでもBリーグは諦めず、凄まじいスピード感でオンラインコンテストの準備をし、バスケットファンに楽しみを届けてくれた。

ちなみに川崎でコンテストに選ばれていた篠山選手と辻選手は、持ち前のユーモアで各コンテストの優勝者予想をする動画からファンに笑いを届け、コンテストでは全チームで唯一チャレンジの開始と終了に喋りを入れて解説役の茨城・平尾選手に「川崎の動画は長い」とツッコまれ、肝心の結果では優勝した千葉・富樫選手と三河・金丸選手の直前の出番で登場し見事な引き立て役になるという、これ以上ない活躍を見せてくれた。目立てばオッケーなのである。

もうバスケがない冬の過ごし方を忘れてしまった。それくらい、たった1ヶ月ちょっとでバスケにのめり込んでいる。あんなに生きがいが何も無くて、大嫌いだった冬が好きになってきている。

だいたい野球のシーズンは8ヶ月、つまりオフシーズンは4ヶ月なので、単純計算だとこれからの人生はいままでの5割増で楽しいはずだ。いや、野球シーズンとバスケシーズンは被るから、もっとかも。今から見に行きたい試合の日程がぶつかるのが心配だ。

そして、バスケがシーズンオフになったら、人生で初めて冬が待ち遠しく思う日がくるかもしれない。そんなこと、ほんの数カ月前の私が聞いたら驚いてひっくり返るだろうな。

これからの人生に何度も訪れるだろう、アリーナで熱狂する日々が楽しみだ。

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