許せぬメディア、学者の偏向ぶり
——日本のメディアや「専門家」の立場は、これ(※注)とは全く異なります。彼らはパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム過激派テロ組織ハマスの暴力行使については、イスラエルの軍事力に比べて「圧倒的な差がある」と言って非対称性を強調することで論点をずらして擁護したり、あるいは「抵抗運動」だと賛美したりする一方で、イスラエルの自衛権を否定します——
これは、イスラム思想研究者で麗澤大学客員教授の飯山陽が、昨年5月に著した『中東問題再考』(扶桑社刊)の中で述べている、痛烈なメディアおよびイスラム・中東専門家批判である。注の「これ」とは、日本外務省が公開している「中東和平についての日本の立場」という文書を指す。「イスラエルとパレスチナ国家が平和かつ安全に共存する二国家解決を支持、問題は交渉によって解決されるべきで、暴力は固く拒絶されなければならない」と明記されている。日本の中東外交の基本方針である。メディアと専門家がこの日本の立場に反する報道や言説を流し、しかもハマスの暴力を賛美している、というのが飯山の主張だ。
飯山は、SNSを通じ自らを学界のメーンストリートから外れた「場末の一学者」とし、日本のイスラム・中東研究学界をこき下ろしている。実際、前出の著書の1年前に上梓した『イスラム教再考』では、イスラム教について欺瞞や嘘をまき散らす学者や知識人を名指しで批判している。まさにイスラム・中東業界の一匹狼的存在だ。
それはさておき、筆者が着目するのは、去る10月7日のハマス戦闘員によるイスラエル民間人虐殺・拉致に端を発した、ハマスとイスラエルのかつてない軍事衝突についてのメディアの報道姿勢や専門家の解説・言説がほぼ飯山の主張どおり、偏向極まりないものになっていることだ。
報道について言えば、元連合赤軍最高幹部の重信房子の娘で、母親の革命思想を擁護する重信メイを番組にコメンテーターとして出演させ、10月14に起きたガザの病院爆破事件をイスラエル軍による爆撃と誤報し、未だこれを訂正しないTBSである。専門家で言えば、ハマスを野球のリトル・リーグになぞらえて大規模テロ行為を矮小化し、同情を誘う国際政治学者・高橋和夫放送大学名誉教授、ハマスをガザ地区の「福祉団体」と言って憚らない東大准教授・鈴木啓之などが挙げられる。
戦後長きにわたり未解決のままになっているパレスチナ問題。その歴史や背景をよく知らない、いわゆる情報弱者はこれら報道や学者の話をテレビや新聞で接すると、イスラエルはアラブ人をパレスチナから追い出した悪者で、ハマスはそれに抵抗する弱者だとのイメージを植え付けられる、それが却って紛争解決をいっそう難しくさせている、というのが飯山の論法だ。飯山は最近のネット番組で、「紛争解決は簡単。過激派テロ組織ハマスが暴力をやめ、イスラエルとの話し合いに応じることだ」と語っている。
ハマスはこれまでの活動をみれば正真正銘の(?)テロ組織であり、日本も含め欧米各国もそう指定している。だが、日本の新聞は実態がテロ組織と分かっていても、そうは書かない。「イスラム主義組織」とか「イスラム原理主義組織」、あるいは単に「イスラム組織」で、イスラム主義とはいったいどんな「主義」か分からぬ者にとって目くらましにあったようなものだ。「テロ」という言葉が刺激的であることから表記を躊躇っているのだろうが、せめて「過激派組織」とか「武装組織」ぐらいにならないものか。確か、学生運動が激しかったとき、「過激派」という言葉すら禁忌になっていたような気もする。