鑑賞ログ「先生、私の隣に座っていただけますか」
210915@TOHOシネマズ池袋
ちゃんと演技できる俳優2人、黒木華と柄本佑。そんな2人とアッパーな作品の雰囲気。緊急事態宣言も延長されてちょっと落ち込んでるし、肩凝らずに観られそうだし、不倫する夫に漫画を使って復讐するなんて、ちょっと面白そうじゃないか。
芸術的に優れた作品だけがいい作品な訳じゃない。その時の気分にあった作品を自分でチョイスできることも映画の魅力。じゃあ配信でもいいじゃん、とはならない。映画館のスケジュールに合わせて、炭酸を飲みながら集中できる環境で物語を楽しみたいのだよ。
さて、漫画家のサワコは、夫のトシオが不倫をしていることに気がついている。相手は自分の担当編集のチカ。2人の女はタイプが全く違う。髪は天然で色白、ほわほわした雰囲気のサワコと若手のキャリアウーマンでストレートの黒髪、ぎゅっと要素を引き締めた雰囲気のチカ。トシオもまた漫画家だが、4年も執筆から離れており現在は肩書きに”元”がつく。
トシオとチカは不倫している。サワコはそれを確信している。チカと共に取り組んできた連載の最終回の原稿を持って、出版社に戻るチカを送るようにトシオに言うサワコ。2人が出て行ったドアを見つめて、そのドアノブを押し開けるか逡巡するサワコ…というところが冒頭に説明され、ひょんなことで夫婦はサワコの母と暮らすために田舎暮らしに。生活での必要に迫られたサワコは自動車教習所に通うことになり、出会うことになるのは金子大地演じるイケメンの教官。出会いにときめくサワコ。彼女は夫とは違う若い男との車という密室でのときめきと夫の不倫を盛り込んで新規連載のネームに取り組むことにする。密かに妻が練った物語を読んでしまったトシオは自分の不倫がバレていること、さらにサワコが自分を裏切っているかもしれないと言うことに気づく…という話。
まず、オリジナル作品であることがすごいと思う、純粋に。フツーに漫画原作だと思っていた。それぐらい、しっかりしていると言うか、タイトルも作品の作りも練られている感じがした。そして、キャスティングもいい。作品の中の現実とサワコが描く漫画がパラレルワールドのようになっていて、作品を見ながら、「え、漫画の話?本当の話?どっちー!?」と感情が揺さぶられるのが楽しい。
ちょっとミステリアスさを感じさせる黒木華が役にハマっていたと思う。人は見かけによらない。あと、妻を裏切って不倫しながらも、それがバレたり妻が不倫しているかもしれない状況になると妻に執着せずにはいられない、ズルくて情けないトシオを演じる柄本佑もよい(アゴのニキビが最後まで治らなかったのはメイクかな?)演出の力ももちろんあると思うけれど、妻の漫画とまるで会話しているかのようなシーンでは、観客(たぶん男性)から笑い声が漏れていた。うまい。でもトシオは全く好きになれないw。体細いのに包み込む母性を感じさせる、母親役の風吹ジュンも良かったなぁ。奈緒演じる、図々しく強かに生きるチカは憎くてキーッとさせられる。朴訥さと大胆さをしれっと兼ね備える金子大地は好き。
キャラクターとしては黒木華が指揮者で、柄本佑がコンサートマスターのような印象。大きな川の中で、この2人がスリリングさと滑稽さのバランスをとりながら、物語の舟を進めていっているようなグルーブ感がある。メインの役者は5人で、登場人物たちの行動範囲は広くなく、舞台のような感じも受ける。コンパクトな物語ではあるけれど、漫画というツールが作品の世界に広がりを持たせているように感じた。そして、タイトルが思いのほか意味深なことに最後に気づかされるのも面白かった。結局そこにハラハラして、ハマっていくんだけれど。余白を残した終わり方も良い。気の置けない友だちと一緒に観て、あーだこーだ話すのにもぴったりな作品だな。