鑑賞ログ「梅切らぬバカ」

211205@シネスイッチ銀座

ポスタービジュアルを見た時から観たいと思っていた作品。塚地の顔がいんだもの。加賀まりこの数十年ぶりの主演作らしい。

自閉症の息子と暮らす母親の物語。ずーっと2人きりで暮らしてきたけれど、自らの老いもあるし、将来を見越して新しい一歩を選ぶけれど…というストーリー。
ある日、小学生の子どものいる一家が隣の家に引っ越してきたところから物語が始まる。新隣人の夫婦役は渡辺いっけいと森口瑤子。

作品の中で、問題は何もと言っていいほど解決しない。けれど、人生ってそんなものじゃない?そこに豊かさを感じる作品だった。
よくありがちな、感動ポルノではないというところに好感が持てる。自閉症のチュウさんを演じる塚地武雅の演技も過剰でなく、信頼できる感じがする。もちろん、実際はもっと大変なこともあるだろうし、映画を通してはその生活の一片を知ることしかできないとは思うけれど。
70分台という極めて短い時間の中に、いろいろな感情が盛り込まれている作品だった。

チュウさんは馬が好きで、高島礼子が演じる奈津子が経営する乗馬クラブに馬を毎朝見にくるけれど、馬は彼を怖がるし、奈津子はもチュウさんを受け入れられない。そして、奈津子たち地元住民は、チュウさんの仲間が暮らす施設が近所で運営されることに反対する。
チュウさんたちのような存在がいることが多様性なんだから受け入れればいいのに、という気持ちになる。けれど、自分が奈津子のような当事者になったら、本当にそう思わずに受け入れられるだろうかと考えてしまう。人が心を寄せられる範囲はきっと限られているし、理解できないものは怖いし、排除したいと思うのは本能的なことだと思う。理解できないものを理解しようとすることは本当に難しい。こう言うことに限らず、社会には本当に見えない壁というのがあるように思う。
けれど、それを乗り越えるだけの知恵を人間は持っていると信じたい。そして、自分もその力を持っていたいなと思った。

加賀まりこが演じる母親の珠子はズバズバいう占い師なんだけれど、元気がなくなった彼女に占いを断わられるお客を演じてたのが『あゝ、荒野』の木下あかりだった。久しぶりに観れて嬉しかったな。珠子は、ざっくばらんな感じの母親だけれど、息子想いで、繊細なところを感じた。奥行きを感じるというか。ああ、チュウさんを育てる中で色々あって、色々感じてきて、今こういう親子の関係性になったんだなということが滲み出てくる感じ。神様はそれを乗り越えられる人にしか試練を与えない説ってあるけれど、珠子はチュウさんとそれをやっぱり乗り越えられたんだなと感じて、じーんとしちゃったな。

こういう小ぶりの作品を観るのもいいな。
現代アートだけが芸術じゃない。葉書絵だって芸術だぞ、と言う感じだ。


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