1990年代のアルファレコード後期の(黒)歴史:Alfa In The '90sシリーズ、あるいはSPINレーベルについて(1)
数年前、YMOのリミックス音源を集めようと思い、苦戦しながら買い集めていたことがある。その流れで、昔から知っているものの聞いたことのなかったAlfa In The '90sのシリーズも集めてみようと思い、レコ屋などに入るたびに棚をチェックしてみるものの、思った以上に集まらずに年月が経つ。
それが、最近になって立て続けに数枚手に入ったので、一念発起して残りを手あたり次第、ヤフオクやマケプレを通じて集めてみた。合わせて、In The 90'sのレーベル元であるSPINについても買うことに。結果、まだ見つからないものがいくつかあるが、かなり見通しは立ってきたので、ここで一度記事にしておこうかと。ちょうど、アルファミュージックがnoteで連載していることもある。
ちょっとどう書いても長くなりそうなので、何回かにわけることにする。
ALFA In The '90sについて
Alfa In The '90sシリーズの全貌はおそらく、Discogsで見るのが一番手っ取り早い。親切なコレクターがまとめてくれている。
YMOのやつが出た時点ではまだALFA In The '90sというシリーズではなかったようだが、その後、シナロケ、スネークマンショー、カシオペアと企画が続いてシリーズ化。さらに途中からSPINというレーベル名称もついて、アルファの中の企画ものダンスミュージックレーベルとして動き始めた様子。時期的には91年リリースの戸川純 In The 90'sあたりと思われる。
SPINレーベルについて
SPINレーベルは途中から、In The '90sだけでなく、独自のクラブ風のカバーもの企画を始めたりして、だんだんレーベルの方向性がついていく。SPINとしての最初は木戸紅男 & オリエンタル・ギャング・スターズ(キッドクレオールを元ネタにしたファンカラティーナ風バンド)の模様。ただし、その前にリリースされたTF Productionや富樫春生の作品などのいくつかも後にSPINの中にまとめられていく。さらにはUKのAdrian SherwoodのレーベルON-U Soundの国内規格盤もリリースされる。
SPINレーベルの品番自体はALFAのコードALCAが使われており、独自の品番は無いので、レコード会社内のサブレーベルという扱いだったのだろう。
下記のDiscogsのレーベルページで、ある程度まとまっているが抜け漏れはそこそこある。まず、In The 90'sのSPINになってからのリリースが全部入ってないし。日本人アーティストのアルバムで、Discogsに作品ページがないものもある。
こつこつ収集していて、今のところ集まってるのはこんな感じ。
レア度高めなタモリを入手できたので、ここで一区切りにして、記事にしてまとめてみようと思ったわけです。なので、ここからは、一通り聞いてみた感想を交えて紹介していこうかという記事です。(つまり、ここまでが前段)
In The '90sシリーズ
YMO In The '90s - The Pete Lorimar Remix
収録曲は
a Firecracker
b Behind The Mask
c Technopolis
d Nice Age ~ La Femme Chinoise ~ Rydeen ~ Castalia ~ Solid State Surviver
e Computer Game
f Cosmic Surfing
90年9月25日リリース
企画の最初はもちろんYMO。これが出た当初のAlfaのディストリビューターはワーナーパイオニアだったのだが、直後に日本コロムビアに変更になったので、初期プレスのワーナー盤はマニアの間でレア扱いされてるっぽい。リミキサーはPete Lorimer。UKのダンスポップ系プロデューサー。Betty Booあたりの仕事が有名かな。意外と最初の2曲にたっぷりと時間を使ってるんだけど、後半からはかなり断片的な音の出入りになる。(というかdパートはどこで使われてるかがほぼ分からないNice Ageのイントロくらいしかわからない)2回も入るサックスソロはなんなのだろうか。
Sheena & The Rokkets – Sheena & The Rokkets In The 90s The Craig Leon Remix
収録曲は
a. Ukabi No Peach Girl
b. You May Dream
c. Pinup Baby Blues
d. Heart Ni Hi O Tsukete
e. Propose
f. Relevance
91年4月1日リリース
YMOが評判良かったのか半年後にリリースされたのがシナロケのリミックス。3人のソロに行かなかったのは少々不思議。リミキサーは Craig Leon。BlondieやRamonesなどのプロデューサーだそうで、まあ、人選的にはなるほどか。とはいえ、中身はなんかPete Lorimerのやつと似てるのはなぜなのか。こっちの方がもっと音を断片的にしてる。鮎川誠のギターが中盤出てくるのは良いものの、ほとんどの曲はサビのフレーズをサンプリングしただけ。
Snakeman Show – In The '90s (The Adrian Sherwood Remix)
収録曲はジャケには記載されていない。ドラマパートが中心。「ごきげんいかが 1・2・3」とか「急いで口で吸え」がフューチャーされてる。
91年4月21日リリース。
シナロケの次がスネークマンショー。リミキサーはなんと、Adrian Sherwood。さすがにちょっとダビィな音使いはAdrian Sherwoodを思わせるが、意外と普通にダンスポップ。ただ、その上を伊武雅刀の声が駆け巡るので、かなり変。こんなのをやったら次が無いのでは。On-Uサウンドは当時ALFAとライセンス契約の縁もあり、何度かこの企画に登場している。
Casiopea – Casiopea In The '90s - The Taavi Mote Remix
収録曲は
a) Mr. Unique
b) Asayake
c) Coast To Coast
d) Galactic Funk
e) Conjunction
f) Something's Wrong
g) Transformation
91年5月21日リリース。
次がカシオペアというのは非常に面白い。すでにYMOファミリーではなくなっている。リミキサーはTaavi Mote。アメリカのスタジオエンジニア/リミキサーらしい。マドンナとかジョディワトリーとかU2をやってるらしい。これがまた原曲のかけらが薄い80'sダンスミュージックで、ちょっと反応に困る。ASAYAKEも使ってるのにあのギターカッティングを使ってないのめちゃくちゃもったいない。組み合わせが良くない。
Sandii & The Sunsetz – Sandii & The Sunsetz In The '90s - The Bomb The Bass Remix
収録曲は
1. Kingdom Without Corners
2. Gong Loop
3. Shantih
4. Zoot Kook
5. Dhyana Pura
91年5月21日リリース
同時発売がサンディ&ザ・サンセッツ。リミキサーはなんと、Bomb The Bass。ティムシムノンかよすげーな。でも、なんつうかBomb The Bassらしいカットアップが聞ける感じではなく、ちょっと出来は残念。悪くないんだが、もうちょっと何とかならなかったのかと。
Jun Togawa – Jun Togawa In The '90s - The Infinite Productions Remix
収録曲は
a) Suki Suki Daisuki
b) Sayonara O Oshiete
c) Radar Man
d) Mushi No Onna
e) Osozaki Girl
91年7月21日リリース
2か月後のリリースは戸川純。リミキサーのInfinite Productionsは帯によるとテレンス・トレンド・ダービーなどを手掛けるユニットらしいのだが、Discogsなどネット上で検索してもいまいち情報がみつからない。これも正直、今までのこのシリーズと同じような出来で、あまり面白いもんではない。まあ、戸川純の声を色々使ってるので、多少聴き所はあるものの。
Yukihiro Takahashi – Yukihiro Takahashi In The '90s (The David Lord Remix With The Hidden Hand Of Peter Hammill)
収録曲は
1a Glass
1b What Me Worry?
1c Good Time
1d Are You Receiving Me?
1e Extra-Ordinary
1f Kagerou
1g Charge
1h The Real You
1i My Bright Tomorrow
1j Sayonara
91年8月21日リリース。
連続リリースで高橋幸宏。YMO人脈にちゃんと戻ってきた。イギリスのスタジオエンジニアらしいDavid Lordがメインリミキサーだが、いっしょにPeter Hammilも参加してるらしい。Peter HammilはVan Der Graaf Generatorの人で、プログレ系の著名ミュージシャンだそう。(ごめん、プログレは全く履修してないので知らなかった)。幸宏の声を使いまくってて、全体の質感はファンにも聞きやすい感じにはなってる。
Toshinori Kondo & IMA – Toshinori Kondo & IMA In The '90s - The Bill Laswell Remix
収録曲は
a) China Demonstration
b) F1 Republic
c) No More Borderline
d) Cool Okesa
e) Metal Bind
91年10月21日リリース。
日本が誇るトランぺッター近藤等則のバンド、近藤等則&IMAもIn The ’90sの餌食(と言うな)に。とはいえ、リミキサーはなんとBill Laswell。のちにコラボレーションも行ってる二人なので、こればかりは適材適所としか言いようがない。もし、これが最初のコラボだったらそれはそれで熱い。内容もこのin the '90sの中ではかなり良くできていて、今の耳でもちゃんと聞ける。
Ryuichi Sakamoto – Ryuichi Sakamoto In The 90's - The Mark Plati Remix
収録曲は
1a The Left Bank
1b The Arrangement
1c Just About Enough
1d Once In A Lifetime
1e The Garden Of Poppies
1f Relache
1g War Head
1h Lexington Queen
1i Differencia
1j E-3A
1k Riot In Lagos
1l Not The 6 O'Clock News
1m The End Of Europe
91年11月21日リリース。
世界の坂本もここでリリース。リミキサーのMark Platiは当時は若手プロデューサーだったらしいけど、90年代はDavid Bowieと仕事したりと名うてのプロデューサーの一人になっている。Daid Bowieがドラムンに取り組んで話題になったEarthlingの共同プロデューサーの一人。とはいえ、まあ、なんか普通にあの時代っぽいダンスリミックス。とはいえ、使ってる曲数は非常に多い。
Various – Sumo Stomp
91年12月21日リリース
ここで、今までのIn The '90sをまとめたコンピを発表している。しかし、これがものすごく中途半端なやつで、収録されているものが
1 YMO– In The '90s
2 Yukihiro Takahashi– In The '90s
3 Jun Togawa– In The '90s
4 Sheena & the Rockets– In The '90s
5 Snakeman Show– In The '90s
6 Sandii And The Sunsetz– In The '90s
7 Toshinori Kondo + IMA– In The '90s
つまり、カシオペアと坂本龍一が収録されていない。直前にリリースされた坂本はわかるのだが、カシオペアはなぜ? そして、1曲15分くらいあるLong Versionと5分くらいのShort Versionのどちらを入れるかと思ったら、なんと、これ用にさらにエディット。つまり、この7アーティストについてはもう一つバージョンがあるということで、マニアはこれも買わないとならない。そんなマニアいないけどさ。
S.E.T. – S.E.T. In The '90s - The On-U Sound Remix
収録曲は
a. S.E.T. (丸越萬太探偵事務所)
b. CBB Radio News Hour (大学受験講座、英語編)
c. CBB Radio News Hour (あたしと遊ばない?)
d. S.E.T. (村祭り)
e. CBB Radio News Hour (お見合い)
f. S.E.T. (フランシスコは死にました)
g. S.E.T. (大学受験講座、国語編)
h. France Extra Radio News Hour (牛丼屋の心得)
92年1月21日リリース(おそらく)
一回Sumo Stompでまとめた後にリリースされたのが、なんとスーパーエキセントリックシアター。リミキサーはOn-U Sound、つまり、Adrian Sherwood。Doug Wimbishも一緒にやってるらしい。これはまだ未入手。だって、プレミア付きまくってるんだもん。街のレコ屋でも一度も見かけたことないです。超レア。中身はスーパーエキセントリックシアターなのに…
Haruomi Hosono – In The '90s - The Michael Brook Remix
収録曲は
Japanese Rhumba
Asatoya-Yunta
Femme Fatale
Living-Dining-Kitchen
In Limbo
Luminescent / Hotaru
Shambhala Signal
Platonic
Birthday Party
92年3月21日リリース
いよいよ細野も出たので、これでほぼ終わりかなと思わせる1枚。リミキサーはMichael Brook。カナダの人でブライアンイーノ周辺の人脈らしい。00年代以降は映画音楽でも有名らしい。らしいらしいで申し訳ない。まあ、人脈的には割とわかる。選曲に安里屋ユンタが入ってるようにちょっとワールドミュージックというか、エスノっぽさがあるリミックス。
Hajime Tachibana – In The '90s - The Mark Gamble Remix
収録曲は
1 H (Theme From Clubfoot) (Mark Gamble Remix)
2 Mr. Techie & Miss Kipple (Mark Gamble Remix)
3 Theme From "Nihon No Sugao" (Mark Gamble Remix)
4 Replicant J. B. (Mark Gamble Remix)
92年5月21日リリース
このシリーズとして最後にリリースされたのは立花ハジメ。リミキサーはMark Gamble。90年代のYMOのリミックスなどもやってる人で、Rhythmatic名義が一番有名かなあ。これはメガミックスではなく、曲単体を4曲リミックスという形。もしかして発注間違ったのだろうか。でも、一つ一つをじっくり作った結果、正直、一番出来は良い気がする。
最後の立花ハジメのCDブックレットに、SPINレーベルのカタログが入っており、そこには次回リリースとして、タモリin the '90sとあったものの、タモリはこのシリーズとしてはリリースされなかった。
このタモリ他、SPINレーベルの他作品については、次回書きます。ね、長くなったでしょ。