仕事中の電気工事士

⑳車が要る、其の二。(床屋の話含む)

やって来た商業地域は人気が無かった。

車が要る、其の一。の続きです。
フィリピン女性の彼氏の作業場を探していたが、商業地域は場所によっては廃墟に見える。それに住所を頼りにするにもきちんとした表記が無い。かろうじて交差点の標識にある数字を頼りに場所を選定し、トタン板で中が見えない門を開け中へ入る。


週末だったためだろうか本当に人気が無く、

女性一人だったらこれ以上中へは入れないような場所だ。

因みにここはカナダです。


以前中華街の外れにあるそれこそゲットーへ行ってみたことがある。何でそんな場所へ行ったかと言うと、安くて腕のいい床屋を探していたからだ。

それまでに立派な門構えのストリップモール(平屋の商店街)の中の床屋で散髪してもらった事があった。雑で腕はいまいちおまけに無愛想で、あっという間に終わったかと思ったら、料金表よりも高いお金を請求されてしまった。

いろいろあるのだろうとは思うけれど無愛想な白人散髪士にむかつき、これからはアジア人の店にしようと思ったのだ。学生の頃に中国人の店で割りとよかったという経験があったため、中華街の床屋を目指していた。比較的普通の床屋で1000円くらい。しかしその店はいつの間にか閉店してしまっていたのだった。

困った私はその近辺を歩き回り別の床屋を見つけた。門構えも普通の人は入れないような場所だったが、店の中は九龍城そのものではないかと思えるスラム街の床屋風だった。(スラム街の床屋なんて見たことは無いが)

床屋の主人もこれまた産れも育ちも九龍城だが、押し寄せる高齢には敵わないという風貌だった。恐怖に駆られた私は別の人が入ってくるときに、外へ出ようとチャンスをうかがった。しかし今散髪している人が居る訳でもなし、ほかに人が入ってくるような気配が無い陸の孤島だった。

さらに驚いたことにその人は英語が全く話せなかった。始めに中国語で(多分)まくし立てていたが、こちらが英語しか話せないのが分かると、ただただニコニコしていて一言二言発した。

「髪を切ってよ」という手の動きを見せると、そこにある昭和初期の歯医者で使っていたような電気椅子に座るように手招きをしていた。笑顔が出ればまあ問題は無いだろう。いきなり椅子に縛り付けてられて金品をせびられるわけでもあるまい。

因みにその閉店してしまった床屋では、何故か人の出入りが激しく、しかもその人たちは店の奥へと消えて行き、奥のほうではジャラジャラという音と時折歓声が聞こえるという、そこもまともな九龍城の床屋だった。よかった点は店の前に料金表の看板があった。

見る物すべてが物珍しいこの昭和初期の九龍城床屋では、その歯の抜けた店主がやや震える手で私の髪の毛を切り始めたのだ。ここで気がついた!


はっ!散髪料を聞いていなかったぁぁ~


恐怖におののきつつ、話が逸れつつ、次編へと続く、、、



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