#毎週VALIS感想 - 006 ◆ 道化師ブランケット

作詞作曲煮ル果実さん、ファンキッシュなロックナンバー。VALISの獣化が見え始める曲。歌詞の各所にも連想されるワードが多い。MVでもベースに合わせて切り裂き痕が描かれるなど、赤を基調に不穏でヒヤッとするような演出が続く。ややアングラなデザインや歌詞の内容は、現実世界から裏世界へとやってきた、胸のうちに沸沸とした気持ちを抱いたVALISにピッタリのイメージだ。ニヒルな雰囲気とどこかクセになって離れない曲調は流石は煮ル果実さんだ。

現実に居場所を見出だせない「僕」が、本来なら笑い者であるはずのピエロに勇気をもらった歌なんだと思う。「僕」は「僕」なりに、こんな現実だとしても、誰かに元気を分け与えられる存在になれればいいなって思うんだ。願っていればいつかはきっと叶うと良いな。VALISのテーマも踏まえるとそんな感じのメッセージがある気がする。歌詞の内容もサーカスとリンクしていて味わい深い。

「恥を吐いて膨らませた風船」という表現と感性がすごいなと思った。そしてここからピエロに掛かるのがすごい。(失敗して)笑われるのも、(風船を配って)笑顔を届けるのも、ピエロの大事なファクターだ。それをうまく落とし込めているのは脱帽。

サーカスのライトやピエロの派手なメイク、人々の笑顔、ファンキッシュな曲調、ギターリフ、そんな夜の喧騒をうまく表現した様子からスタートした曲は、次の歌詞で一転、現実に絶望してどうしようもなく身動きが取れなくなっている「ぼく」の様子が描かれていく。この対比も鮮やかだ。

サビでは明るく力強く元気の出るような曲調と歌詞になる。きっとこれは「僕」がステージで歌っている様子を思い描き、自分もいつかのピエロのようにーーと歌っているのを表しているのだろう。何度も出てくる「ブランケットはもう要らない」の歌詞も印象的で、まさしく「僕」が歌っている部分なのではないかと思う。

ブランケットや毛布といえば「ライナスの毛布」という言葉が思い出される。執着による安心感、子供によく見られる現象だ。VALISのストーリーでは執着が能力に表れていたり、過去のトラウマそのものが何かへの執着だったりしていた。その毛布を取っ払い、もう要らないと宣言する歌は、新しい世界で生きていくんだという決意を感じる。また、この箇所は「毛布」から「ブランケット」に変えていることでカタカナの持つ語感・硬さが無機物的に感じられて、自分を包んでくれていた暖かいものからただのモノに変化したようにも感じられる。

Bメロでワン、ツー、スリーをそれとなく表現している。ワンツースリー(1・2・3)といえばデビュー曲の残響ヴァンデラーも想起させるのも見事。

歌声も他の曲と比べて力強さがある。サビでは元気になるように、AメロBメロでは内に秘めたパッションを感じるような歌いわけもすごい。

あとこのMVのメンバーの立ち絵や表情がかわいくてとても好きだ。

なんとなく元気が出ない夜に、ぼくはこの曲を聞くことが多い。そんな時には、毛布のような暖かさよりも、現実や世界に対するカウンター的な熱い思いをくれる。ガソリンのような曲だ。

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