魔法少女🎀VITTE 第1話「それは不思議な再会ナノ？」

　深脊界市、瓦利斯飯店。今日もたくさんの来客で賑わうこの店は、現実世界で挫折した過去を持つ少女たち6人が、歌やダンスなどのショーを開いて客をもてなしている中華料理店だ。

「ヴィッテ、これあちらのお客様にお願いね」

　料理担当のミューから、できたての一皿が渡される。彼女のオリジナル料理は飯店の目玉の一つでもある。

「ハーイ！」

　ヴィッテは元気よく返事をし、皿をひっくり返さないように慎重に持ち上げる。香辛料の良い香りに目を細め、軽い足取りで席まで足を運ぶ。

「ヴィッテ、あっちのテーブルの片付けお願い！」

　フロア担当のララが遠くから指示を出す。今しがた退店した客の会計を終えた彼女は、キビキビとした動きで次の作業へと向かった。

　新規来客の案内、注文の確認、できあがった料理の配膳、食べ終わったテーブルの後片付け、退店客の会計などなど、ウェイトレスであるヴィッテは、店内のあちこちへと動き回る。最近では旅行に出掛けているニナに代わってデリバリーも始めた。

　一段落して事務所に戻ると、みんなが揃っていた。

「さすがにショーの時間が近くなると、お客さんも増えるね」

　普段姿を見せないソートの代理で店長を務めるチノは、時計に目をやり、そう溢した。

「そうだとしても、 なんだか今日は一段と多い気がするわ」

　ミューが不安げな表情で続ける。その緊張が伝染して、数秒間の沈黙が訪れた。ショーの前はいつだって緊張する。あのいたずら好きなネフィも、この時ばかりは真剣な顔をする。

　さらにここのところ五人でステージに立つことが増え、ひとりあたりの負担が大きくなっていることも、より一層、緊張感を高まらせている。

　そんな静寂を切り裂いたのは、珍しい人物、ヴィッテだった。

「大丈夫ナノよ、ヴィッテ達はいつも通りやるだけ、むしろお客さんがたくさんいてくれて、ヴィッテは嬉しいナノ！」

　ふふ、とララとネフィが同時に笑う。

「そうだね、なんか変に緊張しちゃってたね、あたし達」

　チノが腕を組み、その様子を眺める。

「みんな、用意はいい？　We are ーー」

　円陣を組み、手を前に差し出す。ララの掛け声とともに、一致団結した声が響いた。

「「「VALIS！」」」

　VALISショーの開幕だ。

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　イメージOPテーマ
「狂愛レゾナンス」
歌：VALIS

＊　＊　＊

「今日のショーも楽しかったね～」

「始まる前はあんなに緊張してたのが噓みたい」

　ショーを終え、ステージの裏に集まった五人。観客の歓声や拍手を目の当たりにすると、彼女らに笑顔が零れる。

「今日もいっぱい歌って踊ったら、お腹空いたナノ～！　ミュー、何か作って～」

　ヴィッテが甘えた声でミューに話しかける。チノもネフィも、その様子を見て、またか、という顔をした。ララも便乗しようと思ったが、当のミュー本人の顔を見て、言葉を呑んだ。

「ミュー、どうしたの……？」

　なぜかショーの後だというのに、浮かない顔をしている。たしかに今日のミューは、失敗こそしなかったが、どこか上の空というか、集中しきれていないようだった。

「うん、なんだかね、今日のお客さん、いつもと違って……なんだか嫌な感じがしたの」

　その発言を聞き驚いたララが少し顔をこわばらせた。たまらずにネフィの顔を見る。

「え、そうかな……？　ミューの気のせいじゃない？　ねえチノ？」

　何やら考えごとをしていたチノが、ネフィの突然のパスに出遅れて反応した。

「え？　あ、うん……」

　ネフィもララも、そんな二人の様子に困惑した。

「……とにかくさ、あたしもお腹空いたし、ミュー……は作る元気ない、か……じゃあみんなで何か食べて帰らない？」

　たまらず切り出したネフィの助け舟にも、ミューはぎこになく笑いながら返した。

「ネフィごめんね……今日はこのまま帰るね」

　チノはその間何も言わず、ミューを見つめていた。ネフィがそっか、と零すと、それ以上は誰も何も口にせず、黙々と後片付けをして、解散した。普段はマイペースなヴィッテでさえもこのざわついた空気に違和感を感じていた。

　そして翌日のこと。

「ヴィッテ、これ配達お願い。六丁目ね」

　昨日の違和感はすっかり消え、みんなはいつも通りの表情だった。ヴィッテはなんとなく、こっちのほうが居心地が良いなと感じていた。

「はーいナノ！」

　だから張り切って今日もヴィッテはあちこちへ駆けまわる。お店が繁盛するように祈りながら。ニナの代わりに配達もするようになり、これまで行ったことの無かった深脊界の場所に足を運ぶのが、ヴィッテの密かな楽しみだった。

　今日はどんな景色を見れるのかな。ニナはいつもこんな気持ちだったのかな。届けたお客さんはおいしく食べてくれるかな。そんなことを考えながら、上機嫌でデリバリー先へ向かった。

「ありがとうございましたナノ〜！」

　配達を終えると、ヴィッテは軽い足取りで飯店へと戻った。店に戻った時のララのおかえりという言葉や、ミューが褒めてくれるのが好きだ。今日は誰が声をかけてくれるんだろう、とヴィッテは心を躍らせた。

「ん〜？」

　しかしヴィッテの帰りを待っていたのは、メンバーの誰でもなかったーーメンバーどころか、誰一人として、飯店にはいなかったのだ。

「ミュー？　ララー？」

　ネフィのいたずらには思えなかった。倒れて散ったグラス、踏み荒らされた絨毯、破損した内壁やカウンター、穴の空いた天井……どう見ても店が何者かによって荒らされていた。

「おーい、みんな〜？」

　返事が無い。ヴィッテの声が静かに店内に響くだけだった。

「みんな……いなくなっちゃった、ナノ……」

　驚きで立ち尽くしていると、何処からか、声が聞こえた。

「おやおや、非道いですねえ。吾輩がいますよ、ここに」

　いつの間にか現れ、いつの間にかヴィッテの目の前のテーブルの上に、ソートはいた。神出鬼没なVALISの団長。ネズミの姿をしているが、その正体や目的は不明で、ヴィッテたちをVALISにしたのも、獣の力を与えたのも、ソートその人である。

「ソート！　大変大変、みんながいないナノよ！」

　ヴィッテの報告を聞いても顔色一つ変えず、落ち着いた様子でソートは答えた。

「ええ、ええ、知っています、知っていますとも。いやいや、ヴィッテさん、貴女だけでも無事で本当に良かった。危うく6人全員を失うところでした」

　ソートは息継ぎ一つせず続けた。胡散臭さが服を着て歩いているような話し方で、ヴィッテにはソートが何を言っているのかわからなかった。

「ソートはみんながどこにいるのか知ってる？」

　結論を急ぐようなヴィッテの質問を躱すようにソートは答える。

「どこに、はわかりませんがーー誰の仕業なのかは、知っていますよ。知りたいですか？」

　ヴィッテは強く頷いた。このとき初めてソートの表情が変わった。言うのを渋っているようだ。しかしやがて、小さな溜め息とともに語り出した。

「彼らはーー」

　ソートがそう語り始めたときだった。地面が大きく揺れ、目の前の空間の裂け目から「それ」は現れた。

「犯人はこいつ、ナノね」

　ソートは頷いた。ガスが揺れるような、不定形の異形。頭部に目のような小さな光がついている。

「正確には、こいつら、ですが」

　ということは、似たような敵が少なくともまだほかにもいるということ。でもヴィッテの眼は絶望していなかった。

　異形はヴィッテを目掛けて腕を素早く伸ばした。ヴィッテは避けられず直撃。そのまま店の壁まで吹き飛ばされる。

「ぐ……こ、こんなの……ひとりでショーに立つ方が……まだ辛いナノよ……」

　それに比べたらこんな痛みなんて……。全身が悲鳴を上げる中、起き上がる。ヴィッテは諦めていなかった。しかし次の瞬間、あることに困惑する。

「あれ、ショー……？　何のショー？」

　記憶の一部がごっそり消えていた。まずいですね、とソートはこの状況を見て、ヴィッテの前に立ちふさがるように跳ねた。

「ヴィッテさん、悔しいですが、今の貴女のままではいとも簡単にやられてしまうでしょう……」

　そんなことはヴィッテは百も承知だった。でも、メンバーを取り戻すためにはここで諦めていてはいけない。傷だらけのヴィッテがそう零すと、ソートは観念したように言う。

「本来であれば、一度契約した貴女ともう一度契約を結ぶのはタブー中のタブーなのですが……やむを得ませんね」

　でも方法はこれしかありませんし、と小さく踊り、ヴィッテの方を向いて言った。

「ヴィッテさん、吾輩ともう一度契約して、魔法少女になってください」

「も、もちろんナノ！」

　いつか舞台裏で見せていたような、未来の不安に迷うな表情ではなかった。大好きなメンバーを取り戻したいーーただそう願うだけだった。

「その願いが吾輩と共鳴するのです！」

　次の瞬間、ヴィッテの身体の中から青紫色の光が溢れ、空中に小さな宝石が現れた。ヴィッテがそれを手に取ると、光が全身を包んだ。

「すごい、力がみなぎってくる、ナノ！」

　ボロボロだった衣装も新たに光を纏って様相を変え、より戦いやすいように変化した。そして、手には先程の宝石が先端についているステッキが握られていた。

「ヴィッテさん、今のあなたなら、あやつに太刀打ちできるはずです！」

　うん、と頷き、ヴィッテはステッキを振った。ステッキから溢れた光は異形を囲み、やがて縛り上げるように収束した。

　ヴィッテには次に何をすれば良いかがわかっていた。というより、頭の中はただただ、メンバーを助けてみせるの気持ちだけだった。

　ステッキを両手で力強く握り直し、頭の上に振り上げ、呪文を唱えた。宝石の放つ光が一段と強くなる。すると、ステッキが、釣り竿のように細長く細長く変化した。

「ニャニャーオ・ナノダーゾ！」

　そして、変化したステッキを異形目掛けて振り下ろした。ステッキから伸びた光の先端は、ハート型のルアーのようになっている。そのハートが異形の方に高速で飛んでいき、当たった！

　光に当たったのを確認したヴィッテは、そのままそのステッキをもう一度振り上げた。異形は光に包まれていきーーそしてそのまま、どこかへ飛んでいって消えた。

「一本釣り完了ナノ、エッヘン」

　ふう、と一息つくと、ヴィッテの姿はもとに戻り、ステッキもなくなっていた。コロン、とその場にアイオライトの宝石が転がる。

「さすがですヴィッテさん、初めてであそこまでできるだなんて」

　ソートが拍手しながらヴィッテを褒め称えた。ソートの表情にはいつもの胡散臭さはない。

「それは貴女と吾輩の願いを共鳴させ、わが輩の力の一部を力を増幅させて貴女に与える願いの石。それが無いと魔法少女になることはできませんのでーーくれぐれもなくさないでくださいね」

　ソートの願いと共鳴ーーソートもメンバーのみんなを取り戻したいと思ってくれている。なら、その分も背負い、ヴィッテは負けられないという覚悟を決めた。

「と、とにかく」

へたり、とヴィッテは座り込む。

「お腹空いたナノ……ソートじゃご飯作れないし……ミュー、みんな、早く助け出すから待っててナノ！」

　よく鍛えられた腹筋の周辺、胃の周りをさすりながら、もう片方の手で、アイオライトストーンを強く握りしめた。

ーーそんなヴィッテとソートの一連のやり取りを、遠く離れた場所で眺めている人物がいた。

「ふふ、いいわヴィッテ、よくできました。そう、そうやってそのまま、ソートとたくさん共鳴してたくさん力を得るのよ……ふふふ、力を十分に得たあなたとまた会えるのが楽しみだわ」

　ボブカットでショートのその人物の顔が一瞬だけ照らされる。右目の下に泣きぼくろがありーーその見た目はVALISのメンバー、ミューにそっくりだった。

〜アニメならここでEDが流れます！〜

イメージEDテーマソング
「魔法少女とチョコレゐト」
歌：VITTE（VALIS）

＊　＊　＊

　ソートと契約して、ヴィッテは新しい力を手に入れたナノ！　拐われたみんなはこの力で連れ戻してみせるナノよ！

　まずはソートと一緒にみんなの居場所に関する情報を集めないとナノ……って思ってたら、そこに現れたのはネフィ？！　でもなんだか様子が変ナノ……

　眼帯を外したネフィが不思議な光に包まれたかと思うと、ヴィッテに向かって攻撃してきたナノ！　ハワ……ソートが言うには本当のネフィじゃないらしいけれど……でもネフィは分身もできるし……まさかネフィの分身が魔法を、ナノ？！

　たとえ分身だとしても、ヴィッテ、ネフィとなんて戦えないナノよ……

　次回、魔法少女🎀VITTE
「それはとっても嬉しいナノって」

　願いを叶えてナノよ、アイオライト！

〜アニメならここで提供が流れます！〜

※続きません