兄との思い出。お弁当
2つ上の兄とは別に特別仲がいい訳ではない。小さい頃はよく兄の後ろついて歩き、一緒に遊んだ。それも兄が小学校に上がるまでのことだ。
僕が小学校に上がった7月のことだった。親が離婚をした。僕と兄、それと3歳下の妹は全員母親についていった。母は仕事で家にはほとんど居なくなってしまったので兄と僕が二人で家事を分担することが増えた。洗濯、掃除、ご飯を作り洗い物をする。友達と遊ぶことはかなり減った。
僕が小学3年生の頃、友達数人と秘密基地を作っていた。雑木林の中に木材やブルーシートなどを使って割と本格的に作っていた(あくまで小学生にしてはだが)。日曜日に一人の友達がウチに来た。まだ当時は携帯電話は大人だけが持つものだった。友達を遊びに誘うのは家の固定電話に電話するか直接家に行きチャイムを鳴らすのが当たり前だった。
「秘密基地作りに行こうぜ」
ドアを開けると同時くらいに友達は言った。まだ掃除も洗濯もしていなかったから僕は断ろうとした。
「行けば?」
そう言ったのは兄だった。兄がそう言うということは家事は全部兄がするということだった。少し躊躇ったが僕は友達の誘いをOKした。
昼飯持ってて食おうぜ。友達はさらに言葉を重ねた。午前中で帰ろうと思っていた僕は慌ててそれを断った。友達は特にお弁当を持ってる訳ではなかったから「弁当は?」と訊ねると友達は少し自慢げに「今日は昼飯代もらったからコンビニで買う」と言った。ウチにはそんなお金がない。やはり断ろうと思ったが家の中で急にガタガタ音がし始めた。
後ろを振り向くと兄が台所で何かを作り始めていた。
「何してんの?」
「弁当作ってる」
兄はそれだけ言うと黙ってししゃもを焼き始めた。
お弁当はのり弁、焼きししゃも、ミックスベジタブルの炒め物と簡素なものだったが10分程度で出来上がった。
「行ってこいよ」
お弁当を渡され、僕と友達はそのまま一日中秘密基地作りをした。
兄はきっと覚えていないだろう。もう18年も前のことだ。別に特別仲がいいわけでもない兄との思い出。