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がらん
2022/09/13
千葉を離れて1年が経った。
当時は引越しに忙しく、悲しみに耽る余裕はそこまでなかった。それが、徐々にあの街に行くことはないんだな、バレンタイン通りが冬に変わってく姿を見ることはないんだなと思うたびに、思いは蓄積していった。
よく緑区や若葉区など、市内をハイエースで駆け回った。隙あらばイオンへ避難し、中古のCDや本を漁ったり、気にいったカフェで今後の人生を考えたりした。
ナンパ通りを何度も往復したし、色んなバーの扉を開けていった。扉の向こうにはピート臭のきついウイスキーがずらりと並んでて、瞬く間にわたしは虜になった。中でもボウモアがお気に入りになった。
海を目指して走る日もあった。内房と外房で表情はまるで違くて、その波の音と煌めきに涙を流すこともあった。あの海は今も綺麗なままであるだろうか。
千葉を離れて1年が経った。
新しい仕事が決まり、来月から働くことで段取りがついた。
嬉しい反面、やっぱり記者は楽しかったなといまだに思う。もう少しやっててもよかったかなとも思う。それでもわたしは今違う場所にいる。
左手の薬指にはかすかに擦れた指輪が光る。
きっとこれを捨てる日はないし、いつまでも肌身離さず持っていることだろう。それが嬉しくも、悲しくもある。
それなりの暮らしと仕事をして生きていく。高望みはしないけど、時折背伸びをしながら歩きたい。夢を捨てきれないから今日も字を書く。それでいいのかもしれない。
薄紫を含んだ青空が、今日は一層眩しく見える。まだあの街になにかを置いてきてたのかもしれないな、とやっと思えた。
千葉を離れて1年が経った。
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Rich Girl / ダリル・ホール&ジョン・オーツ