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【365カレーエベレスト街道トレッキング2024:本編5】

(2024年春のネパール旅行の20日間を日記形式で綴っております。)



【ネパール旅行5日目】2024年3月29日(金)

起床。そして始まっていない。

朝4:00頃、目が覚めた。
空港から少し離れた宿(A.G.S HOTEL & LODGE)だったからか、だいぶ静か。それもあるし、昨日よりもいいベッドだし、よく寝られた気がする。

この旅では、寝る前と起きた直後の歯磨きに加え、うがいと乳酸菌整腸剤の服用は欠かさないようにしている。
高山病とか肉体疲労ならまだしも、歯が痛くなったり、お腹が痛くなったり、そういうことでトレッキングを中断や中止したくない。
そんな予防もあいまって、お腹の調子は悪くない。はず。
そもそも、毎日毎日スパイス料理でも大丈夫なのは強みかもしれない。
トレッキングが好きだとしても、ネパール料理が味覚的に合わなかったら、けっこうツラそう。

さあ、ラメチャップ空港で待つのも、今日で三日目だ。
滞在しないとわからなかったラメチャップ地域のことが少しだけわかった気がする。それはそれでいいことだ。とはいえ、ルクラに飛んで行きたい。
エベレスト街道トレッキングの旅のはずが、まだトレッキングは始まっていない。

まだ暗いが、5:00過ぎに宿のロビー的なスペースでガイドのSさんと待ち合わせ、トゥクトゥクでラメチャップ空港へ向かう。
昨日ぼったくられて怒っていたのと同じドライバーだけど、何事も無かったようにしている。Sさんは大らかなのか、心中穏やかではないのか、表情や言葉からでは判断できない。ドライバーはドライバーで気まずくないのだろうか。

開門前からトレッカー大集合のラメチャップ空港

顔パス。そしてチヤ。

ラメチャップ空港に着くと、まだ開門されていないのに、トレッカーたちが大集合している。
中には一昨日から見た顔もちらほら。
今日こそ飛べると期待している気持ちはみんな一緒だろう。

5:30頃、開門された。
いよいよ仕組みがわからなくなってきたが、今日は窓口に押しかけずともチケットが用意されている。
三日目にもなると顔パス、なのかどうかはわからないけれど、荷物検査は荷物検査で更に簡易的になった気がする。
すんなり待合室へ。
空もかなり明るくなってきた。
とりあえず、チヤを飲む。

熱いからと二重にしてくれた、んだと思う

朝は降っていたらしいエベレスト街道トレッキングの玄関口ルクラの雨が上がり、テンジンヒラリー空港の滑走路が開いたという朗報が届いた。
しかし、肝心の機体がこちらの飛行場にない。
僕らが使う航空会社の機体が来れば三巡目くらいには飛べる、とSさんがうきうきした表情で話す。
Sさんの経験としても三日間も飛べないなんて珍しいようだ。何日待つことになっても飛びたいという僕らのような日本人も珍しいのかもしれない。
待つことに耐えきれなかったのか、陸路に切り替える人もいるとかいないとか。きっと、Sさんも退屈だろう。でも、付き合ってもらう。


期待と機体。そして搭乗ゲート通過。

7:30過ぎ。
僕らとは別の航空会社の機体が、この二日間を待合室でともに過ごした人たちを乗せて、いくつか飛び立っていく。
それだけで感動する。実際に歓声も上がる。
片足が無い紳士がいた御一行もルクラに行けたようだ。今日は戻ってくることはなかった。自分はまだ飛べてないけど本当に嬉しい。

半券が切られた搭乗券!

8:00過ぎ。
僕らの搭乗券の半券が切られた。
搭乗者のみが通過できる(とはいえ厳重さは感じられない)ゲートを越えて、僕らを乗せる予定の機体の近くで待機する。
いよいよだ。

期待の機体!

わくわくが止まらない。
待機列で同じ飛行機に乗る人に写真を頼まれてシャッターを押す。
みんないい顔しちゃってるねえ。
このわくわくを止められる奴なんかいるはずがない。

と思ったのも束の間、止まってしまった。

微妙な表情をしている空港の係員。
ルクラまでの飛行経路の重要ポイントに雲がかかってしまったらしい。
その場で少し待機したものの、待合室に戻るよう言われてしまった。

確実に前進はしたものの、色々な意味で遠い。

心折れたかのように、車でのアクセスに切り替えたり、ヘリに切り替えたりする人もいる。
飛行経路が違うのか、小型飛行機だと行けなくても、ヘリコプターだとルクラに行けるらしい。
陸路の方はお金はそんなにかからないが時間がかかる。三日だったかな。
ヘリコプターはお金がかかる。一人500USDだったかな。
僕とコトリちゃんは、まだ小型飛行機での移動をあきらめたくない……。

まだ朝8:30。
雲が取れれば、チャンスはある。そう信じたいし、実際に可能性は残っている。そのために自分が努力できることが無いのが苦しい。
お金があればヘリコプターで行ったのだろうか、自問してみるが、お金が無いのだから、愚問だと気づく。
お金の無さはさておき、ルクラの空港の世界一短いと言われている滑走路のドキドキ感を味わってみたい、という気持ちを優先したい、ということにしておきたい。


空腹。そして待つ。

こんな時だって腹は減る。
一度テンションが上がってしまったから、余計にカロリー消費したことだろう。

空港の売店ではダルバートが置いていないため、チョウミン(漢字で書くなら炒麺だろうか、ネパール式やきそばみたいなもの)を買った。
ほぼ具無しで、ケチャップがかかっている。

ラメチャップ空港売店の具無しケチャップチョウミン

かかっているケチャップを眺めていたら、ふと、こんな時のために日本から持ってきたある物を思い出した。
宮島醤油の「ひとくちカレー」だ。

小型のカレーが頼もしい

チョウミンにカレーをかけて、飛行再開を祈りながら食べた。
本当に祈ることしかできなくて、自分の無力さを思い知る。と同時に、何かできると無意識に思っていた傲慢さに少し凹む。

祈りながら食べたカレーチョウミン

9:00を過ぎ、待ち時間が合計50時間を超えた。人生で最長の待ち時間を更新中だ。いや、更新したくない。

お昼になって、再開の目処も立たず、欠航の決定もされず、ただ待つ。

暇を持て余しているようにも見える空港の係の人たち

昨日と一昨日は、ただ待つだけの簡単なお仕事だと思えたけれども、今日はそうも思えなくなってきた。待つのも簡単ではないのかもしれない。

慰めなのか、本当はトレッキング中の栄養補給のために持っていてくれたはずのリンゴをSさんがくれた。
やっぱいい人だ。

Sさんがくれたリンゴ

また空腹。そして奇跡。

待っている間、Sさんと色々なことを話す。
ガイドという仕事のこととか、家族のこととか、これからの行程は進みながら調整していこうとか。
そんなおしゃべりがひと区切りついて、「お腹すいた?」とSさんが聞いてきた。ほぼ座って待って話しているだけなのに、確かにお腹が空いてきた。

ラメチャップ空港特有、なのかどうかは知らないが、今日もセキュリティエリアからいったん外出できてしまう魔法を使って、昼飯を食べに出ることになった。

一昨日泊まったラメチャップ空港すぐ前のB.N.Hotel & Restaurantへ。
お昼もミックスチョウミンを食べる。
本日、二度目のチョウミン。カレー以外も食べます。
ここのはやっぱり具がたくさん入っている。
そして、ここ何食べてもうまい説浮上。ダルバートもうまかったし、チョウミンもうまい。

B.N.Hotel & Restaurantのミックスチョウミン

昨日や一昨日よりも、飛行機待ちの人が増えているようで、B.N.Hotel & Restaurantの食堂も、なんだか賑わっているというか、読書したりしている人もいて、また別の雰囲気になってきた。

待ちくたびれている人が多い感じ

コトリちゃんはまだ食事をしていたが、ひと足先に食堂を出たら、見たことがある日本人のシルエットが目に飛び込んできた。

プロ登山家の竹内洋岳さん!

僕はトークイベントに行ったり、サインをもらったりするくらいに竹内さんのファンだ。
だから、SNSを見て竹内さんがエベレスト街道にいるのは知っていたけれど、まさかまさか、ここで会えるとは思わなかった。
僕は叫ぶ。「竹内さんっ!」
こちらに気づいて返事をしてくれる。「はい。竹内です」
ダッシュで食堂に戻りコトリちゃんを呼ぶ。「ちょ、ちょっと来て!」
食堂にいた面々がこいつら食事中にどうしたんだ? という感じでじろじろ見てきたが、かまっていられない。

左から、コトリちゃん、竹内洋岳さん、僕

コトリちゃんも竹内さんに会って興奮気味だ。
ご挨拶を済ませてから、ルクラから戻ってきた竹内さんなので、ルクラ側の天気のことを聞いてみた。
朝一はギリギリ晴れていても、昼前から雲がかかってしまい、離着陸は難しい状況が続いているらしい。
ラメチャップはこんなに晴れているのに……。
図々しくも、そんな話までさせてもらった上に、一緒に写真を撮ってもらった。
なにはともあれ、待ち時間が報われた気がする。


去る。そしていつか。

竹内さんはラメチャップを去り、そのまま時間も過ぎ去り、14:30頃、今夜もラメチャップに滞在することが決まった。つまり、今日中の飛行再開はしないことが告げられた。
ラメチャップはこんなに晴れてるのに……。
色々な人の体験談や著書で見聞きした、ルクラ行きの飛行機が飛ばなくて足止め的な話は誇張なんかじゃないこともわかってきた。

飛行機が飛ばないことに怒りは全然無い。
怒りというよりも、やや落胆気味。
それより何より、確約が無いことによるギャンブル性に困る。
いや、ギャンブルというのは語弊があるかもしれない。むしろ、天気に左右されることの方が自然だ。
予定通りに行くことのありがたみを改めて感じる機会にしよう。

何度も聞いたことだが、ルクラのテンジンヒラリー空港は世界一危険な空港とも言われたりすることもあり、滑走路が短く、崖っぷちに位置している。
それもあって、離着陸に失敗したり、飛行中に視界が雲で遮られて山に激突したりと、死亡事故が絶えなかったため、飛行許可の条件が厳しくなったそうだ。
厳しくない条件で飛行が許されていた時の方が、よほどギャンブルだったと言えるかもしれない。

ネパール国内の小型飛行機の各航空会社が、こうした不採算経路のための機体の確保も後回しになりやすいと話す人もいた。
世界からトレッカーが集まるので需要はあるはずだ。危険性も割に合わないのかもしれないし、飛べずに待つだけの機体を置いておけるほどの余裕が無いのだろう。

なにはともあれ、天候条件と機体が揃った時に飛べる、ということだ。

待てばいつか飛べるはず。しかし、それが明日なのか十日後なのか、誰も知らない。

さすが、三日待っているだけあって、明日は朝一の順番に僕らはいるらしい。今日までのパターンだと朝の一便は飛んでいる印象だが、それも定かではない。希望を持ちたい気持ちと、落胆したくない気持ちが共存する。

とにかく、今日もルクラには行けなかった。

ラメチャップはこんなに晴れてるのに……

今日も散歩。そしてダルバート。

今夜もまた泊まる宿をSさんが探してくれた。
まあガイドをお願いしているわけだから、当然と言えば当然かもしれないけれど、毎日工夫をしてくれているのが伝わってきてありがたい。

今夜泊まるLaliguras hotel and lodgeはラメチャップ空港からは少し離れていて静かそうだが、徒歩で空港まで行ける場所。
昨日や一昨日よりもややローカル感強めで英語表記すらほとんど無い家族経営っぽい宿も兼ねた食堂という感じだ。

Laliguras hotel and lodgeの入口とコトリちゃんの後ろ姿

店先では、お店の人や地元の人やSさんが駄弁っているようだ。僕はネパール語はほとんど理解できないので、駄弁っているように見えても重要な話をしている可能性もある。
店頭では、お店のお嬢さんだろうか、だらだらと遊んでいるように見える。
それを眺めてまったり過ごす。これはこれで悪くないけれど、今日は飛行機の直前まで進んで飛べなかった残念さが脳裏にこびりついている。

のどかなLaliguras hotel and lodge店先

こんな時はチヤに限る。
ということにして、無理矢理まったりしようと試みる。
すると、不思議なことに、けっこう落ち着くんだからおもしろい。
本当においしいチヤのおかげなのかもしれない。

Laliguras hotel and lodgeのおいしいチヤ

しばらくして、夕食前に明日の朝の相談をしておこうと、Sさんを探したが、宿の中には見当たらない。
どこに消えたのだろう?
Sさんも飽き飽きして帰ってしまったのかもしれない、とまでは思わなかったけど、少し心配になって、片言の英語同士で宿の人にたずねてみたら、どうやらちょっと買い物か何かに出かけたらしい。
まだ15:00過ぎだし、この辺りの道もなんとなくわかってきたので、コトリちゃんと散歩に出かけることにした。

散歩の途中でSさんを発見!
そのまま髭を剃ってくると言って床屋に向かって行った。
なんというか、意外というか、唐突というか、とにかく和む。

床屋にいるSさん

16:30頃、やることもないので、毎日カレー生活を投稿しているInstagramアカウント @365curry でインスタライブをやることにした。
宿の部屋の窓からラメチャップの風景を写しながら、だらだらしゃべっていただけだが、色々な人が反応してくれて楽しかった。
一人で抱えていた複雑な心境を、ある意味ネタとして発表することで報われる感もあったかもしれない。
今日は人に報われてばかりだ。

Laliguras hotel and lodgeの部屋

夕飯は、もちろんダルバート。
もはやこの楽しみを奪われたら、もっと気持ちが落ち込んでしまいかねない。
仮に、おいしくなくても、おいしくなさを楽しめるくらいの境地には至っている自信がある。
おいしいのだから文句は無い。

Laliguras hotel and lodgeのダルバート

文句ではなく「ミトツァ」と言う。
ネパール語でおいしいを意味する「ミトツァ」、これを伝えたら、宿のお父さんが予想以上に嬉しそうで、こっちまで嬉しくなる。
そこにおかわりをすすめてくる。
いただきます!
食べ過ぎそうになるが、食べ過ぎ注意。
それにしても、ダルが特においしかった。

現地の人とはSさんを通してしか会話してこなかったけど、ひとつの単語だけでも、距離感が縮まった気がする。
これはいい発見だ。

距離感と言えば、僕らの待つ根気に付き合ってくれるSさんともどんどん仲良くなれてる気がするのも嬉しいことだ。

でも、明日こそ飛んで欲しい。
竹内さんも「朝の一便は飛ぶんじゃないですかね」と言ってくれていたし、明日の朝一番が僕の順番でもある。
祈る。
不思議なことに、明日も飛ばない状況が考えられない。



実は、2025年秋頃を目安に再びエベレスト街道トレッキングに行こうと計画して、いま資金を貯めています。図々しいですが、下記の[いいなと思ったら応援しよう!]のところ等から[チップで応援する]をしていただけると助かりますし、とても嬉しいですし、非常にありがたいです。そこまでは無理でも、とにかく、ここまで読んでいただいて恐縮です。本当にどうもありがとうございます!

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365curry 南場 四呂右(なんば しろう)
チップをいただけたら、貯金にまわします。嘘です。ちゃんとカレー活動メインで使い切ります。たとえば僕の好きなカレー屋さんが儲かったりします。