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くず餅の老舗 船橋屋さんにお邪魔しました。

文化二年(1805年)創業、くず餅の老舗 船橋屋さんにお邪魔しました。

「くず餅ひと筋真っ直ぐに」を経営理念に掲げ、昔からの製法・味を守り続ける船橋屋さん。

450日かけて発酵させてつくられ、製品になったくず餅の消費期限は・・・なんと2日!!

「ぱぱっと作って、長く持つ」
そんな食品ほど【儲かる】時代。
ことごとく逆行するくず餅を続ける老舗は一体どんな想いなのか。
知りたくて。

船橋屋 広報室 猪瀬さんにお話を伺いました。

吉川英治が書いた看板。芥川龍之介や永井荷風も愛した船橋屋さんのくず餅。

そもそも…くず餅とは

「くず餅」と呼ばれるものは、大きく2種。
関西の「くず餅(葛餅)」は植物の「葛」から作られ、半透明でぷるるんとしたゼリーのような触感のもの。
全国のコンビニスイーツなどでも見かけるくず餅はこちらのタイプ。

一方、関東の「くず餅(久寿餅)」は小麦澱粉を発酵させてつくられ、もちもちした触感。

今回取材させて頂いた船橋屋さんは、関東で「くず餅と言えば!」という老舗。

船橋屋さんのくず餅は黒蜜ときな粉がからみやすいように台形なのが特徴。
くず餅は和菓子で唯一の発酵食品

くず餅の苦労

くず餅は小麦粉の澱粉質をじっくりと450日もの間、木樽で乳酸発酵させたあと、職人さんの手で一つずつ丁寧に蒸しあげてつくられる。
ほとんどが人の手によって作られており、気温や湿度などで状態が異なる為、細かな調整が必要になる。
中でも、蒸しあがったくず餅の出来具合を職人が指先の感覚で判断する「あたり」という作業は、「一生を要する」ともいわれる職人技。
あたりができる職人は現在2.3人だそう。

指先の感覚で、最適なくず餅の蒸しあがりを瞬時に判断する「あたり」。

また、消費期限が2日と短いことから先を見越して生産し、売り切れを出さず、且つロスを少なくする努力も非常に神経を使うところ。

「儚さ」が魅力

「儚い(はかない)ところ」
くず餅の魅力を尋ねた時の、猪瀬さんの言葉があまりにも綺麗で。

450日かけて発酵させ、職人技で仕上げて・・・たった2日しか日持ちしないくず餅。
「遠方のお土産にしたいのに・・・」という声もやはり届くそう。
それでも、自然のままの味を楽しんでほしいという想いで、添加物等は一切使わない。
こんなにおいしいくず餅。保存料等を使えばもっともっと遠くの人にも楽しんでもらえる。商売が広がる。だけどそれをしない選択。

広報室の猪瀬さん

近年、流通は日進月歩で発達し、全国各地、いや世界中の美食がネット通販などで簡単に手に入る時代となった。どの食品も賞味期限がみるみる長くなり、場所も時も気にせず、各地の名産を楽しめるようになった。

そんな時代にあって、消費期限2日のくず餅はあまりにも儚い。
だからこそ、「今」「ここで」食べられる、その有難さ。
一瞬の輝きに至るまでの長い積み重ねの時を、愛おしく感じられる心。

極めて日本的なその感覚は、今を生きる子供達にも是非伝えていきたい大切なものだと思った。

船橋屋さんのくず餅に限らず、昔ながらの原料・製法を変えずに作られた商品に「賞味期限が短い」のはよくある話。
そこには、「守りたい大切なもの」と、「お客様の声に応え商売を存続させなければならないという使命感」の狭間で、作り手の大きな葛藤があるはずだ。
それでも伝統を貫く覚悟。
その作り手の覚悟と想いを、消費者がくみ取り、その「儚い」魅力を楽しめたなら。そう思う。

※購入はオンラインショップでも可能。
 日持ちは北海道・九州・沖縄を除き到着日の翌日まで。

ママたちへ

船橋屋のくず餅は乳酸発酵でじっくりと熟成させてつくられる。乳酸発酵でお腹にも優しい。小麦粉からグルテン質を取り除く分離行程を経たものを発酵させているため、小麦粉を原料としながらもグルテン含有率3ppm未満。グルテンフリーを心掛けている人にも嬉しいスイーツ。
無添加で大人から子供まで安心して楽しめるので、もちもち独特の触感と、シンプルで飽きないおいしさを楽しんでほしい。

1歳の8か月の娘も細かく刻んだくず餅を食べて「おいしい」と笑顔。

最後に

「保存料 無添加」の商品は、体に優しいので取り入れたいと思いつつも、やはり賞味期限が短いことが購入のハードルとなるシーンもある。
特に、誰かに贈る手土産は、賞味期限が近いと
「すぐに食べてもらわなければならなくて、ごめんなさい」
という言葉を添えて渡すことが多かった。
でも、頂く側になった時のことを考えると、日持ちやおいしさを考慮して、自分に会うこの日に合わせて用意してくれたというその気持ちがとても嬉しいものだ。
何日もかけて手作業で丁寧に作られ、この味を届けたい人に、手から手へ。

添える言葉は「ごめんなさい」なんかじゃ絶対なくて
「今日、あなたに食べてほしくて」

そんな想いを込めて渡たせる手土産は、素敵だ。


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