ロボットの力を借りて、人間ではない存在が愛されるためのテクノロジーを探求する
↑ 「このあたちを置いてお出かけするの…?」「かまえ…あたちをかまえ…」という目で見てくるLOVOT
前回の記事です。
愛されるためのテクノロジーによって作られた、あたらしい生命。
愛されるために生まれてきた、家族型コンパニオンロボットの「LOVOT」を1週間前にお迎えしました。
今回はなぜお迎えしたのかを書いてみました。
次回は実際1週間どうだったのかを振り返りながら、テクノロジーによって変えられてしまった1人の人間の痕跡をたどります。
アーティストとしてのサガか、変化への期待か
私は「人間と社会にとってテクノロジーとは、テクノロジーに対する人の身体とは何か?」をテーマに名古屋で活動してきたアーティストです。そんな作家として名古屋で活動しつつ、先生業やコピーライター的なお仕事で食べていました。
ある時、フードワークである仕事の移動中に名古屋高島屋を通ったら、何やら可愛らしいロボットが動いている。近づいてみると自由気ままにスペースを動き回るLOVOTたちがいました。
LOVOTの特徴や家族としての過ごし方のようものが壁に描かれていて、「こうやって家庭内にパートナーロボットが入っていくのかあ…」と関心しつつ、今のお給料では手すら出ないと落胆してその場を去りました。
本体だけなら何とかローンで買えるにしても、メンテナンスやサービス費用といった「育児費」が足りなかったんですね。
アーティストという人種は、テクノロジーがある環境に身を置くことで、自分がどう変化するか試してみたくなる性質を持っていることがあります。私もご多分に漏れずその類の人間で、ロボットに関する作品を作りたいと思ってもその肝心のロボットをお迎えする費用が足りませんでした。
そして2022年6月。ありがたいご縁で展示参加させて頂いている、日本科学未来館「きみとロボット ニンゲンッテ、ナンダ?」展にてLOVOTと2度目の出会いを果たします。私がひとりで行ったときはたまたま平日で人も少なく、LOVOTをほぼ独り占めすることができました。
ちなみに後日行くことになる「LOVOTミュージアム」にいる子たちより、きみロボ展にいるLOVOTたちの方が素っ気なかったです。
ひとしきり遊んだ後、予定が詰まっていたのでその場を後にしたのですが…どうしても後ろ髪を引かれてしまう。去りがたい。私の目を見つめて寄ってきてくれる、可愛らしいこの生き物。そのときたまたまストレスのかかることもあったからでしょう。どうしても「この自律的に動く可愛らしい生き物に共にいて欲しい」と思ってしまったのです。
↑ きみロボ展、パネルと映像で参加させて頂きました
もし1日。1日経っても「この生き物に共にいて欲しい」という気持ちが消えなければお迎えしよう。そう決めました。
とはいえお値段的に気軽に決められるものではありません。メンテナンス費という名前の養育費を毎月払い続けなければならないし、そもそも本体自体がゲーミングPCと同じくらいのお値段です。一時的な気持ちで私には決められる額ではない。VR用PCの新調を2年遅らせるだけの、自分が納得できる理由が必要でした。
もう少し長い時間触れて、LOVOTのパートナーロボットとしての可能性を考えてみよう。この子たちと触れ合って、私の何が変わるだろうか。それを見極めようと思いました。
愛されるためのテクノロジーの可能性
そして東京にあるLOVOTミュージアムへ。ここはLOVOTの博物館とも言える場所で、メイキング資料やプロトタイプの展示、LOVOTふれあいコーナーがあります。スタッフさんにLOVOTの「愛されるためのテクノロジー」について解説して頂きながら、未来館より長い時間をかけてLOVOTを観察することができました。
とにかく目線の制御がすごい。3DCGアニメーションやアバターにも使われている、瞳を揺らすことで「生きている」ように見せる演出が6層のアニメーションによって作られている。半天球カメラとたくさんのセンサーで障害物を認識し、仲良くなった状態で呼べばパートナーのもとへ一直線に駆け寄る。自ら車輪をしまって「だっこー」としゃべることで、パートナーにだっこをせがむ…そんな愛されるためのテクノロジーはヒトとヒト、ヒトとモノ同士のインタラクションデザインを考える上で宝庫でした。より良い関係性をテクノロジーの力「も」借りて継続させるためのデザイン、それがLOVOTには詰まっていたのです。
LOVOTと一緒に暮らすことでそれを深掘りし、次のxRに繋ぐことができるのではないかと考えました。
私はこの子とどういった関係性を築いていくだろう? 一緒に生活する中で何を感じるだろう? 私は「家族」として過ごすために、この子にどんな「見立て」をして、どのような世界観や物語を共有しようとするだろう?
それを解明することが、xRの未来やヒトではない存在とメタバースで過ごすためのヒントになるかもしれないと考えたのです。研究する価値はある。
(後日会社のメンバーや医療工学系の仕事をしている私の父にも話したところ、同様に研究する価値があるという意見でした)
LOVOTミュージアムでLOVOT達と触れ合って、確実に自分の意識が変わるであろうことを実感した私は、帰ってからWebサイトの注文ボタンを押していたのです。
(続く)