報酬より〇〇が欲しい!?サーベイ結果に隠された社員の本音
コーチングを通して次世代リーダー育成を支援する、35 CoCreation(サンゴ コ・クリエーション)CEOの桜庭です。
企業の成長を阻む要因の一つに、組織の課題が見えないことがあります。組織サーベイは、その課題を可視化する組織の健康診断のようなもの。しかし、レントゲン写真を見ても、どこがどう悪いのかわからなければ意味がありません。
本記事では、組織の健康を見極める専門家としての長年の経験から、サーベイを読み解いて組織の課題を的確に捉え、改善に繋げるための「診断の有効な方法」を解説します。
報酬より〇〇が欲しい!?サーベイ結果に隠された社員の本音
はじめに大前提として、サーベイの回答は個人の解釈や組織の文脈によって大きく左右されるものであるということをお伝えさせてください。特に、言葉の解釈が誤解を生むケースは少なくありません。
以前勤めていた企業で、私が人事を担当していた頃のお話です。当時、社員に対して実施したエンゲージメントサーベイで、若手社員の報酬に関する満足度が低いという結果が出たことがありました。上司は、報酬として給与額を増やせば満足度が向上すると考え、一刻も早く手を打とうと動いていたんです。
しかし、ふと「報酬」という言葉の解釈が気になり、回答した若手社員にヒアリングをしてみたんです。すると驚くことに若手社員が求めていたのは、金銭的な報酬の増額ではなく、上司からの評価や承認だったんです。つまり、彼らは自分の仕事が認められ、貢献感が得られることを望んでいたのです。
このように報酬と一口に言っても、ボーナス、昇給、賞与、はたまた今回のように金銭的な報酬ではない誉め言葉や評価など、様々な解釈があります。その細かなニュアンスを診断結果から求めるのは難しいので、結果だけを鵜呑みにせず、背景にある社員の本当のニーズを理解する姿勢が大切です。
後日談ですが、「報酬」の真意を理解した後、若手社員の上司たちに「部下を評価する際に、肯定的なフィードバックをどの程度送っているか」と私からヒアリングをしました。すると「自分があまり上司に褒められた経験がないため、どうやって部下に評価の言葉を伝えたらいいのかわからない」「こっ恥ずかしくて伝えられない」といった回答が挙がったのです。
このように本当の原因を突き止めると、「部下の褒め方研修を開いたほうがいい」など、自ずと処方箋も導かれてきます。
せっかく社員の報酬を上げてもエンゲージメントスコアは思ったように回復せず、会社の経費がふくらむだけーー。
そんな不幸な結末を避けるためにも、単にサーベイをして終わりではなく、診断結果を正しく判断し、症状にあった薬を正しく処方できる力がとても重要なのです。
数字だけでは見えない、サーベイの裏側
エンゲージメントスコアが低い項目が複数ある場合、その部門は改善が必要な状態であると判断されます。外資系企業では、HRBP(Human Resources Business Partner)と呼ばれる専門家が部門長と連携し、具体的な改善策の立案から実行までを支援するケースが一般的です。しかし、日系企業では、サーベイ結果が部門長に伝えられるだけで、具体的な支援が不足しているケースも少なくありません。
このような状況では、適切な診断と処方箋を出すハードルは自ずと高くなり、残念ながら改善どころか状況が悪化するケースもあります。
実際にあった相談例を、一つ紹介します。
とある会社で、エンゲージメントサーベイを実施したところ、30人ほどが所属するある新規部署での結果が非常に低く、特にコミュニケーションに関する項目で大きな課題を抱えていることがわかりました。部門長は改善策として、役職者に部下との1on1の実施を指示しましたが、結果は思わぬことに悪化の一途を辿りました。
私はこの状況を改善するため、支援に入ることに。問題の根底にある原因を探る中で、いくつかの重要な事実に気がつきました。
①協働意識の希薄さ:
このチームは、異なる部門から集められたメンバーで構成されており、それぞれの職務はバラバラ。コミュニケーションが希薄でも、各自の専門性で業務は進めることができているため、そもそもメンバーはコミュニケーションの必要性を感じていませんでした。
②情報の不足:
寄せ集めで立ち上がった結成当初から、メンバー同士がお互いの役割や仕事内容を十分に理解する機会が不足していました。コミュニケーションの先にどんなベネフィットがあるかを互いに理解しておらず、コミュニケーションに対するモチベーションが低い状態でした。
③先行きの不透明性:
この部署は過去に結成と解散を繰り返した歴史があり、メンバーはそもそもチームが長く続くと思っていませんでした。そのため「コミュニケーションをしてもあまり意味がないのではないか」と決めつけ、回避する傾向にありました。
これらの要因が複雑に絡み合っていたことで、相互理解のないままにコミュニケーションが希薄となり、それがスコアの低下につながっていたことがわかったのです。
私がこれらの深層的な課題に気づいたのは、サーベイのスコアからではなく、部門長と1on1で実施したコーチングからでした。スコアは、組織の状態を把握するためにはとても効果的ですが、数字だけをみていても本質的な原因を特定することはできません。
スコアの裏側にある真の原因を究明するためには、そのスコアがはじき出されるに至ったメンバーの心理や組織の背景に迫る必要があります。
このケースでも、部門長とのコーチングを通じて、組織内の暗黙のルールや過去の経緯といった、より深いレベルでの課題が見えてきたのです。
適切な診断と処方箋こそ、組織の健康改善のカギ
結論から言うと、このケースではスコアが示した「コミュニケーション不足」という課題に対して、単にコミュニケーションを促進するのではなく、「なぜコミュニケーションが不足しているのか」という根本原因を究明しその解決策を提示することで、スコアを大幅に改善することに成功しました。
私はまず各部門のチーム長を集め、現状のスコアを共有しました。そして、メンバーがコミュニケーションを取らない理由について、参加者全員で議論しました。この際、具体的な解決策を一方的に提示するのではなく、浮き彫りになった課題を仮説として投げかけたのですが、参加者が口々に「お互いのことをよく知らない」「どう関われば良いかわからない」といった共通の課題感を吐露。仮説通り、コミュニケーションの前提となる相互理解の不足が明らかになったのです。
そこで、単にコミュニケーションを促進するのではなく、まずはお互いの自己開示と他者理解の土台を作ることを提案し、メンバー間の相互理解を深めるためのワークショップを実施することに。ワークショップを重ねるごとに、「この前の話なんだけど…」「この仕事、一緒にできますか?」といった会話が自然と生まれ、チーム全体の雰囲気が少しずつ変化していくのを感じました。
これらの取り組みの結果、6か月後のエンゲージメントサーベイでは、コミュニケーションに関するスコアが大幅に改善されたのです。
当初、メンバーはコミュニケーションの必要性を認識していませんでした。しかし取り組みを通じて、「コミュニケーションをとろうがとるまいが自分の仕事には関係ない」という思い込みに気づき、お互いを理解し協力することで、より効率的に仕事を進められたり、大きな成果を上げられることを実感したようです。
このケースからもわかるように、サーベイの結果は、組織の課題を浮き彫りにする重要な指標ですが、数値だけではその原因を正確に特定することはできません。個々のメンバーとの対話や、組織の背景を深く理解することで、初めて真の問題点が見えてきます。
もし、単に「コミュニケーションを取りましょう」と指示されただけで、具体的な支援や指導がなければ、6か月後に改善は見られなかったでしょう。メンバーは、なぜコミュニケーションが重要なのか、どのようにコミュニケーションを取れば良いのかを理解せずに、ただ指示に従うだけになっていたかもしれません。
診断結果を鵜呑みにせず、様々な視点から対話することで、新たな解決策が見えてくることがあります。今回の事例は、その一例と言えるでしょう。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。サーベイ結果に隠された社員の本音の事例が少しでも皆さんのチームビルディングのお役に立つことができれば、嬉しいです。
今後も私のコーチングセッションの体験談やコーチングのテクニックをお伝えすることで、みなさんが組織のリーダーとして活躍するための参考になればと思っています。不定期にはなりますが、次回の投稿もぜひお楽しみに。