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新規事業立ち上げチームの「運営技法」
0.はじめに
どうも、すべての経済活動をデジタル化したい、LayerXの牧迫(@35_mki)です。法人支出管理サービス「バクラク」シリーズを提供しているバクラク事業部で事業部長を務めております。
最近は5月にオフィス移転し、東銀座・築地の民になりました。ご近所の皆様よろしくお願いします。美味しいごはん屋さん・居酒屋の情報もお待ちしております。
タイトルに「運営技法」という仰々しいテーマを書いていますが、これまで複数サービスを立ち上げて来た経験や、直近新たに立ち上げを行っている中での雑感をまとめてみようと思います。
[注釈] 以降の前提や書きぶりがSaaSやB2B事業に寄っていますが、B2Cでもだいたい同じだと思います。
■ この記事で主に取り扱うこと:
- チーム運営Tipsや心持ち(心持ち多め)
■ この記事で主に話さないこと:
- 市場・ターゲット選定や事業の登り方といった戦略・戦術っぽい話
新規事業立ち上げの網羅的な話は、すでに代表の福島(@fukkyy)がアンチパターンを記事にしておりますのでそちらをご参照ください。
・机上の算盤ではなく、目の前の顧客からのインサイトを重視
・組織・指標ともに既存事業と完全に分けて実行する
シンプルですが、意識しないと難しいと思います。
また、蛇足的ではありますが「シナジーが目的化してしまう問題」もよくあります。
特にスタートアップでは重い事業アセットはほとんど存在せず、大体のケースが人や組織、ディストリビューションなどのソフトアセットが強みになっていることが多いため、所属している人や組織のケイパビリティマッチの方が重要と考えています。
新規事業は既存事業との「シナジー」を考えがちだけど「考えすぎない」というのが大事。
— 牧迫(maki)|LayerX|バクラク (@35_mki) May 29, 2024
気づいたらシナジーが主語になっているのを何度も見てきた。拡がりの可能性として想像するのはいいけど、結局目の前のN1のお客様が熱狂するのか。これだけでいいと思う。
1. 顧客・仮説探索
1-1) 机上調査に時間をかけすぎない、顧客に会い仮説を高める
デスクトップサーチは長くても2週間〜1ヶ月が目安だと考えます。
あくまでゴールは概念を理解すること、新規事業立ち上げメンバーの共通言語を作り仮説検証の土台を作るためのものです。その中で初期仮説構築を行います。顧客ヒアリング前までに実行することは以下のイメージです。(割と一般的なことをやります)
前段:
関連書籍読む、チームで輪読。3-5冊くらい。
マーケット:
市場規模や成長率等のマクロ情報はさくっと見る
競合・プレーヤー俯瞰図、海外のプレイヤーをまとめる
プロダクト:
ターゲット顧客の解決したい課題、それに対して競合がどういったサービスを提供しているかをまとめる
ペルソナの初期仮説をまとめる
アハ体験、ValuePropsの初期仮説をまとめる
上記をベースにユーザーヒアリングで明らかにすべき点を共通言語を作った上でチームで合意していきます。
ヒアリング開始後は、10社くらいヒアリングするとぼんやり3つくらいの大きな課題解決のテーマ感が出てくることが多いので、そのタイミングで仮説をアップデートします。30-50社ほどヒアリングするとほぼほぼ初期ローンチの形が見え、以降のヒアリングは営業開始に向けた営業資料・プロセスの設計に近づいていきます。
若干古いですが以前詳細をお話した記事の方が詳しいので興味ある方はこちらを参照ください。(もう2.5年経ってる…怖い…)
2. チーム運営
2-1) 背中を預けられるチーム作り
突然ですが、「タックマンモデル」をご存知でしょうか。
割と古典的なチームの発展過程の理論なのですが、新規事業に限らずプロジェクト組成〜終了、或いは新しい組織を立ち上げて起動に乗るまでこの過程をたどることが非常に多いです。この特性を理解した上で「背中を預けられるチーム作り」をすることが重要です。
タックマンモデル(Tuckman's Model)は、チームの発展過程を説明する理論モデルです。1965年に心理学者のブルース・タックマン(Bruce Tuckman)によって提唱されました。
このモデルは、チームが効果的に機能するために通るべき段階を5つのフェーズに分けています。
1. 形成期(Forming):
チームのメンバーが初めて集まり、互いに自己紹介を行う段階です。メンバーはお互いに馴染むことを重視し、役割や目的について話し合います。
2. 混乱期(Storming):
メンバー間で意見の相違や対立が生じる段階です。役割分担や目標達成の方法について議論が行われ、時には衝突が発生することもあります。
3. 統一期(Norming):
チームが共通の目標やルールを確立し、協力して作業を進める段階です。メンバーは互いの強みを認識し、効率的なチームワークが生まれます。
4. 遂行期(Performing):
チームが高いパフォーマンスを発揮し、目標達成に向けて効率的に作業を進める段階です。役割分担が明確になり、メンバーは自律的に働きます。
5. 解散期(Adjourning):
プロジェクトが完了し、チームが解散する段階です。メンバーは成果を振り返り、次のプロジェクトに向けて学びを共有します。
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特に新規事業の立ち上げは(創業期でない限り)プロジェクト的に様々な部門から集まって結成されることが多いかと思います。
そういった中で様々なバックグラウンドのメンバーが集まり(Forming期)、まずは相互理解を図った上で目指す方向性をすり合わせていく必要があります。
とはいえ、バックグラウンドも違うので、同じ会社に勤めている仲間とはいえ考え方の差分は一定出てきます(Storming期)。
このStorming期が最も重要だと考えています。
相互理解しきれていない状態だと、遠慮したり違和感を言葉にしきれないこともあると思います。これをしている間はNorming期に移行できません。
顧客・事業の成功を第一としたときに、遠慮したり違和感をそのままにすることは、仮説のブラッシュアップのチャンスを逃すだけでなく、チームとして共通の規範・同じゴールを見ることに対してマイナスなことしかありません。
素朴な疑問や認識のズレを正しに行く姿勢を全員が持つことで、最速で背中を預けられるチーム(Performing期)への移行に繋がります。
また、強度を上げていくために具体的にやることのイメージは以下です。
朝会・夕会の実施、チームとしての仮説のアップデートサイクルを上げる
阿吽の呼吸、同じ言葉を使う、揃える
違和感を言葉にする、遠慮しない
意見の食い違いは当たり前と考える
お互いにどういう前提でその仮説に至ったのかを言語化することで、ブラッシュアップされる
とはいえプライド・相互リスペクトを持って臨む
また、LayerXでは「Trustful Team」という行動指針があり、お互いプロとして信頼した上で、時にシビアでも意見をぶつけることを推奨しています。
2-2) インセプションデッキで目線を揃える
前項の内容と若干重複しますが、相互理解・共通言語にはインセプションデッキが重要です。
LayerXではすべての新規事業開発時にインセプションデッキを作成しています。
インセプションデッキ(Inception Deck)は、プロジェクトの初期段階でチームとステークホルダーが共通理解を持つために使用されるツールです。アジャイル開発の文脈でよく使われ、プロジェクトのビジョン、目標、範囲、リスク、ステークホルダー、チーム構成、スケジュール、予算などの基本情報を整理・共有するためのガイドラインとして機能します。インセプションデッキは、プロジェクトの成功に向けて全員が同じ方向を向くためのものです。
![](https://assets.st-note.com/img/1718896912954-b6BGAd46KN.png?width=1200)
具体的には「我々はなぜここにいるのか?」「エレベーターピッチ」「トレードオフスライダー」あたりを明確化することで、なぜやるか?なにをどう解決するのか?やるにあたってのトレードオフにどう向き合うかがチームとして言語化・明示化されます(し、初期仮説を作ることができます)
テンプレートは以下サイトからダウンロードできます:
https://github.com/agile-samurai-ja/support/blob/master/blank-inception-deck/README.md
2-3) 成功へのモメンタム作り
新規事業立ち上げは自信を失うことの連続です。
「これ作っても刺さらないかも…」
「本当に顧客に受け入れられるんだろうか…」
などなど。
ですが、どこかに必ず価値はあるはずです。
臨むべきスタンスは「モメンタムを自ら生み出す・突破口を導き出す」です
できない理由や顧客に受け入れられない理由を探すのではなく、
できる理由・顧客への価値が出る理由を積み上げることで「この事業・プロダクトなら提供価値を出せる!」という自信を積み上げることです。
減点方式ではなく、加点方式で考える。
提供しようとしているプロダクトの価値をチームでポジティブに考え続けるスタンスが求められます。
モメンタム作りには顧客のポジティブな反応が重要です。
紙芝居を通じて顧客からポジティブな反応を得ることも大事ですし、「実際に動くモノ」があるとより具体的に顧客も立ち上げチームもテンションが上がるので、可能であればモックを作ってしまうこともおすすめです。
2-4) 「意図的に雑にする」
これはLayerXで新規事業を立ち上げる際に、取締役の手嶋さんがふと口にした言葉で、ニュアンス含めわかりやすいのでよく使わせて頂いています。
少し補足すると、
真面目な人がちゃんと考えて計画すると、KPIを入念に設計したり、WBS(Work Breakdown Structure)をみっちり作って行動計画を作ったりなど、やろうと思えばどれだけでもキレイな進め方ができるが、
それのやり方を理解した上で、「意図的に雑にする」。
新規事業立ち上げは仮説や前提のアップデート速度が重要です。
計画に時間を使いすぎて仮説検証に時間を使えなくなるのは言語道断であり、カッチリ作り込んだとしても、数時間後にはすべて作り直しになっている可能性が高いです。(むしろそうなっていないと仮説検証が回っていないので危ないサイン)
ですので、キレイに・カッチリやろうと思えばできるんだけど、
仮説のブラッシュアップ速度を最優先とすると、
KPIや行動計画は「あえて意図的に作り込まない方がいい ≒ 雑にする」
ということです。
過去の経験上もガチガチにKPIやWBS切って進行するのではなく、
ざっくり大きなマイルストーンを切って、この辺くらいまでにどこまでやるか(例:顧客ヒアリングをXX社する、XXくらいに開発着手する)でも全く問題ありません。
プランニングの時間を減らし、顧客との時間を最大化し、仮説検証のサイクルを最速で回せるチームを作りましょう。
3. 終わりに
いかがでしたでしょうか。
技法と言いながら色々書きましたが、立ち上げチームの運営は、結局「意思とモメンタム」に尽きるんじゃないかと最近は思ったりしています。
新規事業の立ち上げって大変だけど新しい価値を世の中に生み出す営みはとても楽しいものです。
LayerXでは引き続き新規事業を立ち上げ続けていきますので、
ご興味ある方はカジュアルにお話しましょう。
Xはこちら:https://x.com/35_mki
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※ 答えがない世界なので、お悩み共有などもお待ちしてます
追記:新規事業立ち上げポジションでの採用も募集しております!