もう、やさしくするしかない。
昨日、老犬を動物病院に連れて行った。娘のハトちゃんとおじい(父)と三人で行った。老犬がご飯を食べられなくなってきたから。17歳のダックスのメスで、人間の年齢に換算すると100歳くらいの家族。
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いつもいつも、「何かちょーだい」ってハトちゃんの周りをうろついて、手に持ったクッキーをかっぱらっていく犬だった。家族全員でバースデーケーキを切り分けて、「さあ食べるぞー」という瞬間にハトちゃんの皿に顔を突っ込んでいく犬だった。ハトちゃんに弱肉強食や家庭内ヒエラルキーとは何かを伝えてくれる姉御的な存在だった。娘のハトちゃんが生まれた時にはもう7歳。ハトちゃんは何度も姉御にガルルと凄まれてきた。
犬の名前はモンちゃん(本名)。お猿のモンちゃんではなく、犬のモンちゃん。タイ語ではマクラを意味する。胴体が長い犬なのでそう名付けた。原語ではモーン↑と伸ばして語尾あげする。
ここ数年で、モンちゃんは老いが加速してきた。ブラックタンというボディカラーの犬種だが、白髪がどんどん増えていった。まつ毛や髭も白髪である。耳も遠くなった。呼んでも振り向かない。目も白内障であまり見えていない。後ろ足は力が入らないみたいで、ゆっくりと歩けるけど前足で歩いて後ろ足は引きずっている。だから段差は抱っこしてあげないと降りられない。
そんなおばあちゃん犬なんだけど、ハトちゃんとおじいとモンちゃんの三人の結束は固い。とても固い。三人はそれぞれで残りの二人の面倒を見ているつもりらしい。
ハトちゃんはおじいとモンちゃんの面倒を見ているし、
おじいはハトちゃんとモンちゃんの面倒を見ているし、
モンちゃんはハトちゃんとおじいの面倒をみている。
私が留守にしている間、自由気ままにテレビを見ておやつを食べて無印の『人をダメにする柔らかソファー』に三人でぎっしり座って楽しそうに過ごしている。私が帰ってきたら、三人の平和が乱されて「あ、こいつもう帰ってきやがった」って顔をする。仲良しトリオなのだ。
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モンちゃんは昨年からドライフードを食べることができなくなった。歯が抜けて少なくなったから。柔らかく煮た芋とか流動食を細々と食べていた。どんどん痩せてきて、一番太っていた時の半分の体重になった。そしてゴールデンウィーク中から、水ばかり飲んでご飯を残すようになった。コフコフと咳もしている。熱もあるようだ。
おじいもハトちゃんも心配でたまらない。だから動物病院に行くと言うと「絶対ついて行く!」と言ってきかなかった。
私が運転する車の後部座席にバスタオルを敷いてモンちゃんを横たえる。ケージもあるけど使わなかった。モンちゃんは顔が見えないと不安がるから抱っこすると二人は言う。
病院はちょうど他の患者さんがいなくて、貸切だった。
いつもの先生が、「おう。来たね。」と眼鏡の奥の目で笑って迎えてくれた。先生はテキパキと血液検査やx線検査をしてくたが、ちょっと困ったようななんとも言えない顔になっていった。
モンちゃんは、重度の肺炎にかかっていた。
肺が真っ白になっていて、酸素を取り入れられる部分が少ししかない。白血球の数が正常値の5倍以上あり炎症反応を示しているそうだ。
先生は言う。
「積極的な治療法はありません。手術しても肺は取り替えられない。お薬を飲ませても肺の死んだ細胞はよみがえらない。」
「入院は、意味がないです。」
「家族と一緒に過ごすんです。」
この病院は、モンちゃんが子犬の頃から通っている病院である。変な物を食べてフラフラになったモンちゃんをお正月に連れて行ったり、お散歩中にマムシに咬まれて顔がぼっこり腫れたモンちゃんを夜中に連れて行ったりした。5匹の子犬の出産もここでした。
私は一人で走馬灯を見ていた。
でもハトちゃんは真剣に先生の話を聞いていて、ボソッと言った。
「もう、やさしくするしかない。」
ハトちゃんは心の中のどんな気持ちと戦ったんだろう。たったひとことそう言った。おじいは黙っていた。
そうだね。
やさしくするしか、出来ないね。
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ハトちゃんとおじいと私は、病気の犬を乗せて夕暮れの街を車で走った。
走って家に帰った。
誰も話さなかった。
ハトちゃん(娘)と一緒にアイス食べます🍨 それがまた書く原動力に繋がると思います。