「ゾーニング」の話をしよう
「ゾーニング」という言葉自体は、様々な業界で用いられるものだが、今回は「表現の自由」に関連した「ゾーニング」の話をしていく。
1 ゾーニング ってなに?
表現の自由に関するゾーニングとは、基本的には「青少年に成人向け表現を見せないようにすること」あるいは「成人向け表現を見たくない人や嫌いな人への配慮」という意味で用いられることが多いもので、具体的には「一般向けと成人向けの陳列棚を分ける」「販売時の年齢確認や本人確認の徹底」「成人向け商品販売エリアの前に注意書きや垂れ幕を設置する」などの取り組みが行われる。また、ゾーニングに関連あるいは影響を与える法律・条例としては「風営法」及び「都道府県青少年健全育成条例」などがある。
この風営法によって、いわゆるアダルトショップ設置の条件や周辺環境への配慮として必要な事柄が決まっている。都道府県青少年健全育成条例は、各都道府県によって基準が大きく異なるため、一律には言えないが、青少年に販売してはならない商品(いわゆる「有害図書、不健全図書、有害玩具類」)の指定基準や方針を定めていることもある。
2 ゾーニングと表現の自由の両立
ゾーニングの重要性は、表現の自由を守るならば、言うまでもないと思う。正直に言って、ゾーニングをなくせば、規制派や世論の動きを「やはり、オタク業界、性産業は自主規制していない!」という方向に傾ける恐れがあり、これが起こると一気に「法規制」や「より強い条例規制」を求める声に繋がることが考えられる。
しかし、ゾーニングを厳格にしすぎた場合、表現の自由が損なわれ、特定表現の絵や文章、フィギュア、グッズなどで生計を立てているクリエイターや、企業に甚大な影響が出ることは避けられない。
また、ゾーニングを考えるうえで重要なことは「子どもを含めた多くの世代、年齢層の方が好きな表現にアクセスできる自由」との両立である。
これは、私が以前から「子どものオタクの権利」として挙げてきたものであり、いくら厳しいゾーニングや自主規制をして「表現」だけは守れても、それを見れる場所や方法が非常に限られたり、本来成人向けでないレベルの表現ですら18禁にされてしまう。という状況では、意味がないという意味である。
実は、このような件はすでに一部で起きている。東京都で不健全図書に指定された本は「Amazonで買えなくなる」というのは、以前もお話したが、実は「某大手フリマアプリ」や「成人向け区分陳列に対応できない書店」では指定後の販売が困難になる例が報告されている。
これはまさしく「成人しているのに販路が非常に限られるせいで、成人でも購入、閲覧できない」という「過度なゾーニング」を示す具体例の一つと言えるだろう。
つまり、いくらゾーニングや規制を厳しくして、規制派に忖度や配慮をしても、度が過ぎれば「本来は18歳未満の青少年に見せない」ことが目的だったのに「18歳以上なのに見れない、買えない」という事態が起こりうるのである。
これは「ゾーニングと表現の自由」という観点では最も避けるべき事態のひとつである。
また、避けるべき事態は他にもある。例えば、ゾーニングの結果「ミニスカート履いてるキャラはいかがわしいので、成人指定に分類し、公の場の広告からは撤去しましょう」ということになった場合、そのミニスカートの定義をどうするか?という問題に直面する。膝上何センチ以上か、タイツやニーソを履かせれば足は隠れるからいいのか?など、更に多くの決め事、制約をしなければならない。そうなると「ゾーニングと表現の自由そのもの(絵師の描きたい表現を描く自由や好きな商品を宣伝する自由など多くの要素を含む)」を大きく制約することに繋がる。
そのため、キャラの服装や表情、しぐさもゾーニング対象にする場合は、明確で視覚的にも基準がわかり、拡大解釈や恣意的運用ができないようにすることは必須であり、これをする場合は極めて慎重に長期間の議論が必要になる。
3 表現の分野ごとに考えるゾーニング
3.1 性表現のゾーニングはどこまですべきか
基本的には現状の制度で十分である。しかし、性表現は他に挙げる表現と比べても狙われやすく、叩かれやすい傾向があること、そして反論が難しい場合も少なくないことに留意して検討すべきと考える。
もし、追加でゾーニングをするならば、現状の制度を守っていない(区分陳列などを曖昧にしているなど)について、是正を求める程度で良いと思う。これ以上のゾーニングは、小規模な事業者や個人で活動するクリエイターなどの負担が増えるだけでなく、子どもの健全育成のため過度な規制が有効であるというエビデンスがないことも考え、しない方がいいと思われる。
3.2 恐怖表現(ホラー)のゾーニングはどうあるべきか
性表現関係と比べると、制度が整っていないように見える恐怖表現のゾーニングであるが、実はCEROにも「恐怖表現や残虐表現に関するアイコン」が含まれており、すでに必要な対策はなされている。また、これは後述する「暴力表現」にも言えることだが、現在の日本でCERO Z指定されるゲームの多くは戦場系の暴力表現が多い作品などに集中している傾向がある。行き過ぎたゾーニングにならないように注意することが望まれる。
3.3 暴力表現、犯罪表現に関するゾーニングはどうあるべきか
実は、この暴力表現はかなり近年、ゾーニングが厳しい。
公の場の広告ではほとんど登場しないだけでなく、暴力表現が強い作品はCERO Z になりやすい傾向もあり、これに関しては行き過ぎたゾーニングになっている。しかし、ホラーや暴力に関する表現は、トラウマになりやすいという特徴もある。また、映倫で「PGー12」指定を受けるアニメ映画でもホームページで審査の要約を読むと、大体が「流血表現がある」などの暴力系に由来するものであり、アニメ映画に限って言えば、性表現でPG12になる映画よりも多いと考えられている。