民間からの「表現規制」に備える

表現規制といえば、国や公共団体、自治体などが法律や条例、大綱などで特定の表現自体を規制、禁止することあるいは、特定の表現の販売を禁止したり、それらの制作・販売・流通・広告に関する仕事に就く人々に制裁を科すことなどと考えている人も多いと思う。実際にその通りだし、現在でも法律や条例、大綱による規制は主たる表現規制の一つである特に地方自治体の条例や計画案による表現規制のリスクは今の方が高いと言っても過言ではない。ここ最近でも、香川県のゲーム条例や鳥取県の青少年健全育成条例、一部都道府県の男女平等基本計画(自治体により若干呼び名が異なる)による潜在的な表現規制のリスクや実際に起きた問題は記憶に新しい

しかし、現在高まっているのは、公的な表現規制だけではない民間による表現規制、これが非常に増加している。民間による表現規制の基本的な構造や種類は、以前の私のnote記事で説明しているので、興味のある方は読んでいただきたいと思う。


今日は、民間による表現規制が浸透するとどのようなことが起こりうるか、今起きていることなどについて、できるだけ具体的に記述する。


第1章 民間による表現規制の浸透は社会に何をもたらすのか。

民間による表現規制にも、様々な種類があるが、その説明は今回は省略させて頂く、民間による表現規制が公的な表現規制と比較して恐ろしい点は、大まかに説明すると次の4つである。

1 民間の問題であるため、表現規制反対派の議員が介入できない場合があり、行き過ぎた規制を抑制する存在がいない。

2 「一企業の自主的判断」「経営の自由」という一言で解決される。

3 法規制と違って問題化しない。ニュースなどでも話題にならないため、大規模な反対運動になりにくい。

4 未成年保護といえば、どんな無茶苦茶でも大体まかり通る

(法規制や条例規制などの場合、パブコメで指摘することもできるが、一企業や団体がパブコメを募集することはほぼないので意見すらできない)


民間による表現規制には、このような公的な表現規制とは異なった性質があり、対応の仕方もかなり異なってくる。

民間による表現規制は、まず、特定の表現を許さないという空気(世論)作りから始まり、それに抵抗できないようにすることから始める。規制派がネット上で強い言葉を連発し、ブロックを繰り返すのも、自分達に都合のいい空間を作るため、意見する者を排除したいという意思が見え隠れしている。また、民間による表現規制には、実に様々なものが関係している。教育関係や人権団体、宗教、一部出版社などはもちろんだが、資本主義や民主主義の副作用による表現規制もありうるものとして考えて頂きたい。

これはどういうことかというと、まず資本主義の副作用についてだが、資本主義とは、すごく雑な説明になるが「お金稼ぎは正しい、お金持ちは悪くない」という考え方であり、反対の考え方に「社会主義(共産主義は社会主義の理想的姿という立場なので若干異なる)」がある。これの副作用でどうして表現規制が起こりうるかというと、厳密に言えばこれは「表現規制」ではない。ただ、これを理由に「民間による表現規制」を呼び寄せる可能性があるから「表現規制に準ずるもの」として説明すると、例えば現在の「萌え絵」について、資本主義的考え方をした場合、企業からすると、萌え絵は常に「炎上」のリスクがあり、批判の対象にされやすい、クレカ停止に繋がる恐れもある存在である。需要と供給の考え方をすると、現在「萌え絵」は大衆的になっており、そのファン層は実に多くの年代、性別に分布している。また、スマホゲームや深夜アニメの新作を見れば、わかるが、萌え系が占めるこれらの割合は低下傾向であり、現在その代わりに存在感を増しているものが「女性向け」である。また現実として述べると「オタク」の7割は女性であり、男性オタクはデータ上では少数派である。当然、企業の経営判断として「男性向け」を切り捨て、あるいは縮小し「女性向け」を展開するのは目に見えている。それ自体に問題はない、問題は「女性向け」を優遇するあまり「男性向け」を軽視し、企業自ら「自主規制」をする可能性である。

これが起こると、男性向けは経営的にも、世論的にも取り締まるべき(取り締まられても困らない)ものになる可能性が捨てきれない。

過去にもKADOKAWAのとある人が、ネット番組やその関連記事において「過激な性描写のある漫画は国際的な基準に鑑み、新たなルールに見直すことを検討すべきではないか」といった趣旨の発言をしており、謝罪文を出す騒動になった事がある。これだけ聞くと、女性向けの性表現も見直しの対象と聞こえる、実際にその可能性は否定しないが、当該記事の画像を見ると、明らかに男性向けを狙ったと思われる節があり、疑いの目を向けざるを得ない。

今後も、このような海外での販路拡大のため「男性向け」を中心としたグラビアなどの自主規制に走る企業が出る恐れは捨てきれず、注意が必要である

また、同時に同性愛の規制が非常に厳しい国もあり、BLや百合系の取り締まりについても同時に注意することが必要だと思われる

資本主義の副作用で表現規制されるリスクが高まるというのは、こういう理由によるものである

また、現在、人気が非常に高い男性アイドルなどの女性向けであるが、BLに関しては極めて厳しい状態にあり、現在でも東京都の不健全図書指定で頻繁に指定されている事実は公平性を確保するために述べておく。また、BLは販売上の理由及び主要顧客層に配慮して、18禁指定しにくいという特有の事情についても付け足して説明しておく。

(以下、参考にした統計データや記事を示す)

民主主義社会に多い「多数決」が表現規制に与える影響

かつて、私が中学生だったころ公民の教科書に「多数決」を実施する際の注意として「少数派に配慮する事」という文章が書かれていた。これは、多数決によって採決された「多数派の意見」「少数派」を苦しめたり嫌な思いをさせる可能性があるから、可能な限り公平性を確保したうえで多数決を行い、少数派への気配りもできるとよい。という意味だと解釈しているが、多数決社会では「少数派の存在」が間接的に否定される性質があることを説明する必要がある。当然、私のような萌え絵大好きのロリコンやBLが大好きという人が「多数派か」と聞かれれば、決してそうではない。民主主義制がないと、表現の自由は守られないが、民主主義制度が整備されていても、多数決によって、オタク(特にディープなジャンルのオタク)が不利な状況になる可能性は考えておく必要があると思う。なので、私はメディアが出すグラフや街頭調査の結果、特に表現規制に関するものは必ず確認している。多数決では、多数派に流されやすいという性質もあるからである。

第1章 その2 本題

ここからが、本題であるが、民間による表現規制が浸透した社会はどのように変化するのか。まず、最大の違いは「時間」である。法規制は施行された瞬間、効力を発揮し、表現規制を始める。しかし、民間による表現規制(自主規制と呼ばれるもの)は、徐々に範囲が拡大される傾向が強い。最初はここだけで済んでも、数か月後にはさらに範囲が広がる、数年後には特定の作品が投稿できないほどに厳しくなる。という感じで、ゆっくりではあるが、確実に規制が進み、法規制より目立ちにくいのが「民間による表現規制」の特性である。

また、特に性表現分野においては、近年、非常にクレカや巨大プラットフォームでの規制が厳しく、クレカでアダルト決済が禁止されることに伴う事実上の表現規制は、昔から存在するものの、一気に規制範囲が広がったのはここ数年である。また、Amazonなどでラノベや一部の美少女フィギュアの販売が禁止されるケースが増えたのも、3年くらい前から急増している。最近の日本のAmazonでも、突然深夜アニメの抱き枕が消える。怪しいコピー商品が放置、書店や公式ショップでは全年齢で買える書籍や画集がなぜか成人指定され、年齢確認のボタンをクリックしないと表示できないという問題も起きている。また、ごく最近の話としては「booth」の規約が改定され、コスプレや写真作品の性表現の管理が厳しくなり、すでに十人以上のコスプレイヤーやクリエイターが「全商品削除された」などのツイートを投稿している。この裏には、決済サービスへの忖度があると推察している人もいたが、事実確認は取れていないのが、現実である。

また、アップルやGoogle play においても、表現規制の基準が厳しいとの声があり、以前からアップルの性表現規制の強さは何度も問題になったいわゆる「グリモア事件」や「あんスタ17+騒動」

さらに、牛乳のみお様などのロリ系絵師の方が、謎の凍結を受けたり「もう、Twitterに絵を載せられない」という発言をしたこともあり、他の絵師さんでも、ロリ絵の商業誌での扱いが厳しいなどの発言を複数確認しております。(コミックLOがAmazonで販売できないこと、同様に東京都不健全図書指定を受けるとAmazonから削除されるという話は有名)

このような表現規制が継続されると、だんだん「そうしたリスクのある表現」を嫌がる会社が増え、少数派の表現を得意とする絵師やクリエイターの活動範囲が大きく狭められ、場合によっては販売の機会が奪われるということになる。もとから、一般の本屋で販売できない、成人雑誌などを描いておられる絵師からすれば、致命的なものがある。また、我々、買う側や好む側も、様々な手順や登録を完了しなければ買えない。ということにつながり、必要以上に性表現を排除する「性表現を規制・統制することがエンタメ系企業のCSR(企業の社会的責任)」という価値観を構築する危険性が含まれている。

法規制の場合は「国」という非常にわかりやすい組織が「権力」によって表現規制を行うため、非常にわかりやすく、また反論や抵抗もしやすい。聞いてくれるかは別にしても、抵抗する手段がたくさんあるのが法規制である。また「権力者VS民間企業」という構図を作れるので、場合によってはニュースにも取り上げられ、大きな反対運動にすることも可能だ。

しかし、民間による表現規制の場合では、これはできない。

正直に言って、今の状態だと、今後もアニメやゲーム、漫画がスケープゴートにされるのは止まらないと思う。これから先は、国だけではなく、民間からの表現規制にも備えなければならない。民間からの表現規制には、GAFAなどの特例を除いては、民間で対応する必要がある、民間企業や個人が相手になると、議員でもできる事に制限がかかるので、どうしても民間の力が必要だ。性表現やその他きわどい表現を取り締まるのもエンタメ企業の社会的責任という、最悪の価値観が固定化されないようにするためにも、今後の活動は今まで以上に大切なものになる。

第2章 民間からの表現規制にどう抗うか

民間からの表現規制に抗うためには、民間として表現規制に反対する組織と個人が絶対に必要となる。まず、民間として表現規制に反対する組織は、少なくとも国内においては、十分といえる。しかし、国内でも、表現規制反対派の組織の活動は、どうしても首都圏に集中しやすい。民間からの表現規制は非常に多種多様であるから、首都圏で発生するとは限らない。また、民間と公的機関のコラボレーション規制にも注意を要する。現段階で、各地方ごとに活動支部を置くのは難しいので、まずはネット上での情報収集が大切になってくる。ネットメディアが発展した今日では、そういった小さな表現規制に関する情報やプラットフォームで実施される改定規約に関する情報の第一報は、ネットメディアということも少なくない。しかし、テレビや新聞といったメディアも情報源として、重要だから、総合的に情報収集をする民間の機関が必要ではないかと考える。

私たちが長年取り組んできた多くの表現規制問題は、公的な表現規制もしくは、民間団体と公的機関がコラボレーションして表現規制を行うものであり、100%民間による表現規制にどのように対応するかについては、遅かれ早かれ議論することになると思う。

個人的に考えている、民間による表現規制に対する民間としての対応策は4つほど考えてあり、それぞれについて、これから説明する。


1 まず、最初にすることは、意見できる場合には、そうした規制(例えば利用規約改正において、非常に表現規制のリスクが高まる文言がある場合など)について、お問い合わせなどを用いて意見や質問をすることである。

ここで注意したいことは、問い合わせは先方から返事があった場合で、こちらが返事をする必要がある場合を除き、繰り返ししてはならないということだ。これをやってしまうと、規制派の「メール凸」や「電凸」と同じになってしまうからね。


2 その他には、問題となる企業やプラットフォームの規制について、反対署名を集め提出することが有効であると言える。最近では、デジタルで署名を集める事ができるサービスやサイトもあるので、これらを活用して、電子的に署名を集めるのも、一つの対抗策と言えるだろう。


3 三つ目は、絵師やクリエイター、出版社などから、反対意見を出してもらう。という方法が考えられる。過去には極めて少ないものの、表現規制を強化しようとしたサービスで、クリエイターや関係者から反対が相次ぎ、規制強化が中止になったり、延期になった例が存在する。規制を強化したい企業から見れば、顧客である人達が声をあげることは非常に大きな意味があると思うし、影響力も強いので、より多くに人々による反対運動に繋げられる可能性が高まる。

しかし、現段階では、こうした問題が発生した際に、協力してもらえる絵師やクリエイターを十分に確保できていない点や、協力してもらう場合、どのような形で依頼するかが問題になる。


4 4つ目は、とにかくネットで暴れるという方法だが、これについては、法規制ならまだしも、民間企業による表現規制に対してや、自治体レベルの表現規制では、効果が薄いのではないかとの指摘が増えている。しかし、この方法を「表現規制を止める」という目的ではなく「こういった表現規制が今、起きている」ということを多くの人に知ってもらう目的ならば、効果はあると考える。


以上